心臓は働きもの|流れる・運ぶ(2)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、循環器系についてのお話の2回目です。
[前回の内容]
解剖生理を学ぶため、体内を冒険中のナスカ。血管の世界へと入り、心臓の構造をじっくり見学しました。
今回は、心臓の働きについて学びます。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
心臓は働きもの
大きさにすると「握りこぶし」ほどしかない心臓ですが、その仕事量は相当なものです。
成人男性(体重60kg)の場合、全身に流れる血液の量はおよそ5L。この血液が流れる血管の長さは、10万kmにも及ぶといわれています。10万kmといえば、地球を2周半もする長さです。そんな気が遠くなるような長さの管に、毎日大量の血液を送り、循環させているのですから、心臓のポンプ作用がいかに強いかがわかるでしょう。
安静時に心拍数を測定すると、1分間におよそ60~80回くらいになります。これが1日続くと、合計で9~12万回。80年間生きたとすると、25~35億回も収縮を繰り返す計算です。
1回の収縮あたり送り出す血液の量は70~100mLですから、1日あたりではなんと、6~10t(トン)という量。たまには、「ごくろうさま」とねぎらいたいですね。
動物学者の本川達夫さんが書かれた『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)によれば、寿命を心臓の鼓動時間で割ると、哺乳類はみんな20億回くらいになるんですって
寿命はそれぞれ違うのに、心臓を打つ回数は同じって、どういうことなんだろう?
要するに、心臓が拍動するスピードが、生物の生きるスピードになっているってことじゃないかしら
じゃあ、長生きしたければ、ゆっくり心臓を動かせばいいってことですか
いえいえ。残念ながら、心臓の筋肉は自分の意思では動かせません
なんだー、そうなのか
心臓はどうやって自分を養う?
1日あたり約10万回も収縮を繰り返している心臓は、それだけたくさんの酸素と栄養素を必要としています。それを供給するのは、大動脈から最初に分岐する冠状動脈(冠動脈ともいいます)です。
右冠状動脈と左冠状動脈は大動脈の付け根のところから、左右向かい合わせで起こり、心臓全体を囲むようにして分布しています(図1)。
冠状動脈が閉塞すると、そこから先の末梢部分の心筋に血液が流れなくなり、その部分の細胞は壊死(えし)してしまいます。これがいわゆる心筋梗塞です。
心臓を出た血液は、どこへ向かうんでしたっけ?
それは、心臓の右側から出るのか、左側から出るのかで変わってくるわね
えーとたしか、左心室から出るのが全身へ向かって、右心室から出るのが肺へと向かう
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版