胸にささる一言|〈マンガ〉モンスター患者~みんなが困り果てた金田さんのこと~【6】

患者さん・看護師、双方の言葉が胸にささります。

(▶これまでのお話

 

マンガ・モンスター患者~みんなが困り果てた金田さんのこと~

Vol.6 胸にささる一言

この仕事に向いていないのではないかと溜め息をつくA君は、普段やる気に溢れたタイプで、いつも明るく頑張っていた彼がここまで弱気になるなんてなにがあったんだろう、と驚きました。「なにがあったの?」と恐る恐る聞くと、「今日金田さんを迎えに行った時、カーディガンを持っていくと言われたので、荷物も多いし、やめましょうといって持ってこなかったんです。」とそれだけのことで、一日中怒鳴られて、謝ってもえんえん怒られると言います。

「冷房は…肌寒くて夏でもカーディガンほしいときもあるから…」と少しかばうと、カーディガン意外にも羽織るものもあるというし、一日中怒鳴りつけることとは思えません。そんな時、金田さんが腹痛を訴え、看にいきました。お腹の状態を確認すると、特に異常はなさそう。でも、金田さんが腹痛を訴えるのは初めてだから注意してみようと思いながら、部屋を離れました。が、2時間後、体調を伺うと「あああれ?嘘よ あんなの。」と金田さんは得意げに言ったのです。

『なんだって!??』と驚く私に、金田さんは、「ちょっと困らせたかったのよ」と笑います。「A君のせいでお腹痛くなったって思わせたかったの。だってあの子私の言うこと聞かないんだもの。あ、このことは誰にも内緒よ!」と悪びれもなく言いました。あまりの衝撃に私は、「…奴隷じゃないです。私たちは、あなたの機嫌をとるために働いているわけでも、いいなりになるためでもないです。」と反論してしまいました。「私は教えてやっている!」と得意そうな金田さんに「同じ医療職の息子さんが、奴隷のように扱われていたらどう思うか。」と問いました。

私は、止まらず「もし自分の子どもが奴隷のように扱われていたら、傷つきます。A君のお母さんがこの状況を見てたら、どう思いますか?」「相手は人間なんですよ。A君も私も人間なんです!」と強く言ってしまいました。

普段とは違う私の声を聞き、数人のスタッフが近くまできましたが、何も言わずに見守っていました。「うちの息子は、患者にどなられたことがない!」「看護師は常に患者中心なのに、あなたはそうじゃない、間違ってる!」と金田さんは言い返してきましたが、私は譲りませんでした。間違っているとか正しいとかはどうでもよく、嫌なものは嫌だ、それが許されないことならこの仕事を辞めよう…と思いながら部屋をでると、見守っていたスタッフに「よくぞ言ってくれた…」と感謝され、まさかその状況に私は戸惑ってしまいました。

でも…私はその時…他のスタッフに感謝されましたが、本当のことをいうと悲しかったと、話を聞いてくれていた倉田さんに打ち明けました。「自分の傲慢さが恥ずかしくて死にそうだった…。どんなに怒れても、傷つけたと思うし、人として、ナースとして失格だ」と悔いていることを伝えました。少し間があいて、倉田さんに、「その通りね。あなたのしたことは間違ってる。」と言われて、私は何も言えませんでした。

 


【著者プロフィール】

広田奈都美(ひろた・なつみ) HP

漫画家・看護師。某地方総合病院にて勤務後、漫画家としてデビュー。著書は「僕達のアンナ」(集英社)、「お兄ちゃんがコンプレックス」、「ママの味・芝田里枝の魔法のおかわりレシピ」(秋田書店)他。

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