君たちはどう生きるか

 

ChatGPTは賢い?!

皆さん、こんにちは。
感染症などの医者をやっています岩田健太郎と申します。日々、ごきげんいかがでしょうか。

 

さて、突然ですが、皆さんは生成AIって聞いたことありますか
AI、すなわち人工知能がこちらの質問や要望に応えたり、文章や画像を作ったりしてくれるものです。有名なのはOpenAIというところが作っている「ChatGPT」です。

 

ChatGPTは、その名の通り「チャット」、おしゃべりをしてくれるAIです。ChatGPTに「ねえねえ、〇〇してくれよう」とドラえもんにおねだりするのび太みたいにお願いすると、瞬く間に返事をしてくれます。

 

ChatGPTは、インターネット上に公開されているすべての情報を全部網羅している、とっても賢いAIなのです。
(※2023年8月現在、網羅しているのは2021年9月までの情報)

 

いや……前言を翻すようで申し訳ないですが、ChatGPTさんは、そんなに賢いとは言えないかな。
確かに情報量は多いんだけど、正しくそれを咀嚼しているとは言い難い

 

本稿を書くために、ためしに「岩田健太郎について教えて」って書いてみました。ChatGPTさんが瞬時に出した回答は以下のものです。

 

岩田健太郎(いわた けんたろう)について、私の知識の範囲内でお伝えします。岩田健太郎は、日本の俳優です。以下は、知識のカットオフ(2021年9月)時点での情報に基づいた一般的な情報ですので、最新の情報と異なる可能性があります。

岩田健太郎は、1990年5月23日に生まれ、彼の演技の才能により日本のエンターテイメント業界で知られています。主にテレビドラマや映画に出演しており、演技力と幅広い役柄で観客に多くの印象を残しています。

彼の代表作品については、私の知識の範囲内では具体的な情報を提供することができません。俳優としてのキャリアや過去の出演作品は時折変化するため、最新の情報については公式なウェブサイトや信頼性のあるニュースソースをご確認ください。

岩田健太郎は、演技力や人柄によって多くのファンに支持されています。将来の活躍にも期待が寄せられているでしょう。

(※回答内容は、異なる場合があります。)

 

誰やねんそれ(笑)

 

ChatGPTさん、確かに記憶容量は超巨大ですし、物腰も柔らかでナイスな口調(?)なのですが、そのくせ平気で口からでまかせを言う、困った存在なのです。

 

人間にもいますよね、ろくに理解もしていないくせに知ったかぶって、シレッと口からでまかせを言う人。「あ、それはうちの病棟の〇〇先生だ」とか思いついたりして。

 

「あいつはChatGPTみたいなやつだ」とかは、絶対に言われたくないものです(笑)。

 

「優秀な人間」が「使えない人間」に成り下がる

さて、息を吐くようにデタラメを言うChatGPTさんですが、教育界では非常に恐れられている存在でもあります。なにしろ、テーマを与えると一瞬でレポートとか書いちゃったりするのです。

 

ズルして、サボりたい学生にはうってつけの道具です。
まあもっとも、上記のように内容はムムムなので、うまく教員を騙せるかは保証の限りではありませんが。

 

さて、ある日ラジオを聞いていたら、教育の専門家がChatGPTのような生成AIに学校の教員がどう取り組むかについて説明していました。彼はこのようなことを言っていました。

 

「生成AIは教育に役に立つかもしれないが、AIを使って正しい答えを教えてもらうだけの、指示待ちの生徒を育てかねない。生成AIのメリットやデメリットを学ぶために、教員は研修を受ける必要がある

 

えーっ、と僕は聞いていて思いました。
ChatGPTのメリット(実はメリットもたくさんあります!)、デメリットなんて、実際に自分でChatGPTを使ってみて、自分の頭で考えれば容易に分かりそうなものです。それをせずに「研修?」。

 

「正しい答えを教えてもらうだけの、指示待ち」なのは、むしろ学校の教員の方なんじゃないの?「研修」やって正解教えてもらわないと、気づけないの?

 

とまあ、僕はそのようなことを考えていたのです。

 

日本の学校教育は、暗記重視の教育から変わりつつあるものの、まだまだ、「正しい答え」があって、これを学校の先生が教えて、それを生徒が正確に迅速に大量に暗記するゲームの面が強く見られます。これがめっちゃ上手なのが医学部の卒業生、つまり医者です。

 

しかし、実際の医療現場では「暗記している正しい答えを言える」能力よりも、むしろ「そもそも何が問題の核心なのか」を問う能力のほうがはるかに重要だったりします。「正しい答え」がそもそも存在しない場合、あるいは複数存在する場合も少なくありません。

 

「教えてもらった正しい知識を正確に大量に記憶する能力」がうまく役に立たないことは多いのです。ていうか、「知識を正確に大量に記憶する能力」は生成AIのほうが人間様よりも遥かに優秀なので、もはやこのような能力は「とりえ」とは言い難いのです。

 

従来型の「優秀な人間」はこれからどんどん「使えない人間」に成り下がってしまう可能性が高い。僕はそのように予測しています。

 

 

君たちはどう生きるか

さて、翻ってナースの皆さんはどうでしょうか。

 

「何が患者さんの問題の核心なのか」をちゃんと考え、見つけ出しているでしょうか。「正しい答えがない場合」の活路は見出せているでしょうか。

 

看護領域の教育も案外、保守的だったりします。
上から言われたことを正確に暗記して、正確に遂行するだけの指示待ち人間にはなっていませんか
そのような「上から言われたことを正確にテキパキと遂行できる」ナースを「優秀なナース」だと高く評価しちゃったりしていませんか

 

本当は上から言われたことも「それはおかしいんじゃないでしょうか」と的確に問題提起できる「生意気な」ナースのほうがもっともっと優秀だったりするのですよ、しばしば。

 

本稿執筆時点で、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」というアニメ映画が話題になっています。「これが正しい生き方」というデフォルトが(それなりに)存在した昭和や平成の時代と違い、令和の時代は自分で自分の生き方を見つけ出さねばならない時代です。

 

「君たちはどう生きるか」は、まさに現在のわれわれ全員に突きつけられた問いなのです。

 

執筆

神戸大学医学部附属病院感染症内科 教授岩田健太郎

1997年 島根医科大学(現・島根大学)卒、1997年 沖縄県立中部病院(研修医)、1998年 コロンビア大学セントクルース・ルーズベルト病院内科(研修医)、2001年 アルバートアインシュタイン大学 ベスイスラエル・メディカルセンター(感染症フェロー)、2003年 北京インターナショナルSOSクリニック(家庭医、内科医、感染症科医)、2004年 亀田総合病院(感染内科部長、同総合診療・感染症科部長歴任)、2008年神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授 神戸大学都市安全研究センター感染症リスク・コミュニケーション研究分野 教授 神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長・国際診療部長(現職)

 

編集:林 美紀(看護roo!編集部)

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