現役看護師でカフェのオーナーになるまで│“二足のわらじ”実現のヒケツ
愛知県日進市にある小さなカフェ、松田珈琲工房 Cafe Noccal(カフェノカル)。お店を一人で切り盛りするオーナーの松田啓美さんは、なんと現役の看護師でもあります。看護師とカフェオーナーの両立という独特のライフスタイルについて、お話を伺いました。
松田啓美さんインタビュー【1】 看護師兼カフェオーナーまでの道のり
週の半分は看護師、半分は喫茶店オーナー
「火曜日と水曜日は看護師業、木・金・土はカフェをしています。2足のわらじの生活で、お店は3周年を迎えました」
看護師兼カフェオーナーの松田さん
看護師としては、整形(リハビリ期)が中心の混合病棟に勤務しています。水曜日に仕入れやお店の準備をして、週の後半はカフェ経営という生活サイクル。
カフェのお客さんは日に数人から十数人ほど。お店は街中からはやや外れた場所に位置していますが、遠くから来られる方も少なくないといいます。
お店は県道から脇道を少しだけ入ったところ
ご近所にはリピーターになっている方もいて、しばしば立ち寄ってもらえているそうです。松田さんが看護師ということはお客さんもご存知で、ちょっとした健康相談をされたりもするのだとか。
「長居していい場所だと思ってもらえてるみたいで、いっぱいおしゃべりして帰るお母さんもいます。カフェなんですけど、血圧の相談をしてたり、介護の相談をされたりもしてますね」
ほかにも、同業の看護師さんが訪れて仕事の悩みを話したり、97歳のおじいさんから戦争の話を聞いたり。いろいろな方とのつながりができるのが面白い点だといいます。
「病棟にもいろいろな患者さんが来られますが、退院するとその後は外来でのフォローになるじゃないですか。調子の悪いところだけ見て終わりということも多いですよね。カフェだとたくさんのつながりができて、長く相手のことを見続けられるのが楽しいです」
お客さんにとっても、松田さん自身にとっても心安らぐ場所
夜勤で開業資金を稼いだ「もぐら生活」
松田さんは現在、看護師14年目。カフェのオープンを決意したのは4年前、看護師になって10年目のことでした。喫茶店というまったく畑違いの業種にチャレンジしたのは、“自分を喜ばせることを増やしたい”という想いがきっかけだったといいます。
「看護師になってから10年ほど、ずっと病棟勤務で、夜勤もやりながらフルに働いていました。5年目ぐらいまでは仕事に夢中であっという間に過ぎていったんですけど、10年目にはへとへとになってしまったんです。業務をこなすのにいっぱいいっぱいで、心に余裕がなくて。仕事が終わってから『あのときはもう少しこうしてあげれば良かった』『心に余裕があれば、患者さんの話をもっと聞いてあげられたのに』と後悔することがよくありました」
“心が潤っていないと、仕事にも悪影響を及ぼす”と感じた松田さんは、趣味を作ろうと考えてギターを習い始めました。あまり上達はしなかったそうですが、音楽教室の先生と意気投合して、気ままにあれこれと雑談をしていたそうです。
「『いつか映画のかもめ食堂みたいなカフェをやりたい』っていう話を先生としてたんです。そうしたら、『音楽教室の待合スペースが空いているから、そこをカフェっぽく作ってオープンしたら』と言われて。最初は冗談みたいな話だったのが、レッスンのたびに少しずつ話が具体的になっていったんです」
そこで「1年後にオープンする」という期限を設けて、カフェの準備を進めることになりました。
「看護師の仕事も好きで、まったく辞めてしまうのには抵抗があったので、そのとき勤めていた病院に事情を相談しました。看護部長さんは『このご時世に喫茶店なんてやるの!』みたいな反応でしたね。前例のない話なので会議をすることになり、結局、病院がこちらの条件を聞いてくださって、週に数回働かせていただけることになりました」
カフェの開業を決めてからは、看護師の仕事で資金を稼ぎながらお店の準備もするという、多忙な日々を送ることになります。
「開業資金を貯めるために夜勤専従に切り替えて働き、空いた時間に準備をしていました。日に当たらない、もぐらみたいな生活でしたね(笑)。お店についてはコンセプトを決めてから、席数や営業日数、提供しているものが近いお店を探して通いました。コーヒー豆については専門店に相談して、ドリップの方法などいろいろ教えてもらいました」
プロ仕込みのやさしい手つきでコーヒーを淹れる
なるべく開業資金がかからないように、床を自分で塗り、家具をアンティークショップで探すなど、できる限りのことは自分でやった松田さん。1年後、努力の甲斐あって無事に『松田珈琲工房 Cafe Noccal』がオープンしました。
「カフェをやるようになってから、週末が自分を潤す時間になっていて、それを病院で還元できている感じです。ぜんぜん違う2つの職業を経験していることで、看護とカフェのどちらにもプラスになっているかな、と思います」
2足のわらじだからこそ、ミスは許されない
1週間の中で看護師と喫茶店オーナーを行き来する松田さん。まったく異なる仕事をしているからこそ、メリハリが大事だといいます。
「病院では、自分からはカフェの話をしないようにしています。看護師の仕事って楽しい部分もあるけど、きれいごとで済まない部分もあるじゃないですか。つらくても生活のためにこなさなきゃいけないという方もいると思います。そういうところへ、カフェをやっている人がチャラチャラ出勤してきたら、いい気はしないでしょう。だから病院では明確にスイッチを入れて、切り替えるようにしているんです」
また、週に数回だけという働き方をしているからこそ、『絶対にミスはしない』という覚悟で臨んでいるのだそうです。
「週に数回だと、もし仕事に漏れがあったら次に来るのは翌週です。そういう迷惑は絶対にかけたくないので、『絶対にやるべきことはちゃんとやって帰るぞ』という思いと、『絶対にインシデントは出さない』という覚悟で、気を引き締めて出勤しています」
看護とカフェ。異なることを同時にやるからこそ、自分に厳しく
ただ病院でも、松田さんのカフェのことを知っていて興味のある方から声をかけられることがあります。そうした場合には、お店へ招待することもあるそうです。
「病院での私しか知らない方がカフェに来ると、『何やってるの!?』みたいな反応をされますね。逆に、カフェでの私しか知らない方には『看護師をしているところは想像がつかない』と言われてしまいます(笑)」
“オンとオフでぜんぜん違う顔”というのはナースによくありますが、松田さんの場合は、特にそのメリハリがはっきり出ているのかもしれませんね。
看護師で喫茶店のオーナーである松田啓美さんへのインタビュー。後編では、カフェへのこだわりややりがいなどについてお話を伺います。
【次の記事】多忙でも楽しむコツは“挑戦し続けること”!?
【看護師兼カフェオーナーにインタビュー!】
【前編】 現役看護師でカフェのオーナーになるまで“二足のわらじ”実現のヒケツ
<取材協力>
松田珈琲工房 Cafe Noccal
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