ルート確保の「禁忌部位」、神経障害や感染リスクを避けるために|ルート確保の達人になる!【2】
この記事では、末梢静脈のルート確保をするときの禁忌部位や避ける部位、それぞれの理由や注意点を紹介します!
看護監修:小出智一(東京ベイ・浦安市川医療センター 看護部救急外来部門)
医療監修:志賀隆(国際医療福祉大学 医学部 救急医学主任教授・同大学成田病院救急科部長)
神経障害のハイリスク部位
注射をする際、神経損傷のリスクがあるため、
❶比較的太い神経や動脈が走行している正中の尺骨側
❷橈骨神経浅枝が近い手関節の橈骨側
は、必ず避ける必要があります。
過去には、神経損傷による後遺症で、医療訴訟に発展したケースもあります。
手関節の橈骨側はリスクが高いことが知られており、「手首から肘側12cm以内を避ける」という考えが一般的となっています。
注意点!
患者さんからしびれを伴う痛みの訴えがあれば、すぐに針を抜きましょう。
大声を出すなど、患者さんの痛がり方が明らかに異なる場合、神経を穿刺した電撃痛の可能性があります。
また、ルート確保をした後も、穿刺部位の腫れや手のしびれなどの異常が見られれば、すぐに医療者に知らせるように伝えておきましょう。
下肢静脈
下肢静脈への穿刺は、
- 静脈炎
- 血栓症
- 感染
のリスクが高くなるので、避けるべきとされています。
どうしても下肢静脈しか穿刺部位の候補がない場合は、医師の判断を仰ぎましょう。
屈曲部位
肘などの関節部位は、屈曲した際に針先に力が加わり、血管外漏出のリスクがあるため、避けるべきとされています。
穿刺する際、肘を曲げたときに留置針の針先が曲がる位置でないか確認しましょう。
皮膚の異常部位
皮膚障害がある部位は、穿刺後のルート固定が難しく、穿刺部位からの感染リスクもあります。
- 血腫
- 熱傷
- 重度のアトピー性皮膚炎
などがある部位は避けましょう。
乳房切除側(腋窩リンパ節郭清後)
乳房切除を行った患者さんの場合、刺激を与えないよう、なるべく患側の腕に穿刺するのは避けたほうがよいとされています。
リンパ節の郭清を行うと、リンパ液の流れが悪くなり、リンパ浮腫や感染が起こりやすくなるからです。
注意点!
中には、「手術したのは10年以上前で、採血とか点滴をやってもいいと言われています」という患者さんもおられます。 その場合、担当医に状況を説明し、判断を仰ぎましょう。
急変時、救命を優先し、やむを得ず患側の腕に穿刺することもあるかもしれません。その場合、急変対応を終えた後、腕のむくみ具合のチェックや、意識があれば違和感がないかを患者さんに確認し、できるだけ早く別のルートで取り直せないか検討が必要です。
シャント側
透析を受けている患者さんにとって、シャントは命綱。
駆血帯による圧迫でシャントに負担を掛けると、シャントの閉塞や狭窄につながってしまうため、絶対に避けましょう。
シャント側に穿刺して、シャントを壊してしまうと、取り返しがつきません。
シャントの反対側の腕に穿刺できそうにない場合は、医師の判断を仰ぎましょう。
麻痺側
麻痺側は血流が悪く、血管が細く血管壁も薄くなっています。
また、麻痺を起こしている場合、組織の損傷や血管外漏出などが起きても、患者さん自身で異常を察知することができません。
そのため、麻痺側はできるかぎり避ける必要があります。
同日の穿刺部位
血管外漏出の可能性があるため、同じ部位に何度も穿刺するのはやめましょう。
何度も刺すことによって、血管壁が硬くなり、狭窄や閉塞を起こすリスクがあります。
一度穿刺した部位からは薬液が漏れる可能性があるため、すでに穿刺した部位よりも中枢側の血管を選ぶ必要があります。
どのぐらい時間がたてば穿刺してよいかや、どのくらい穿刺した部位から離せばよいか、迷ったときは、先輩などに相談しましょう。
看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
参考文献
- 日本看護協会.特別企画 静脈注射の実施に関する指針.日本看護協会機関誌,55(8),2003,p.69-131.
- 全国訪問看護事業協会,訪問看護における静脈注射実施に関するガイドライン.2004,30p
- 道又元裕ほか監.末梢静脈路確保.看護がみえるvol.2 臨床看護技術.2018,p.66-74.
- 大磯義一郎ほか.静脈注射が原因で神経損傷?看護師が訴えられた事例.看護roo!.(2022年9月閲覧)
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