いつかやりたい訪問看護…でも知識やスキルは?|新卒からの訪問看護(2)

 

自転車で利用者宅に向かう笑顔の訪問看護師たちの写真

 

訪問看護師というキャリア選択は、若手ナースにとっても身近になってきています=前回記事=。

 

臨床経験の浅い若手の訪問看護師たち。

幅広い疾患や病態の在宅患者さんをケアする在宅の現場で、どう学び、育てられているのでしょうか。

 

 

病棟経験はあってもなくても、どっちでもいい

いつかは訪問看護をやってみたい――。

 

こんなふうに思っていても、なかなか一歩を踏み出せない理由の一つが、看護技術や知識に関する心配です。

 

訪問看護ステーションは多くが4~5人の小規模事業所。

若手を育てる余裕やノウハウが十分ではないことが多く、「新卒を採用したけれど、すぐに離職。新卒にとってもステーションにとっても残念な結果になってしまった…」といったケースがあるのも現実です。

 

ケアプロ訪問看護ステーションの朝礼の写真

2013年から新卒の採用を始めたケアプロ訪問看護ステーション東京

 

「訪問看護の世界に若い力を入れるには、サポート体制は当然必要。逆に言うと、きちんとしたサポート体制があれば、病院での経験がない新卒でも訪問看護ができるということです」

 

こう話すのは、ケアプロ訪問看護ステーション東京の岡田理沙さん。

 

ケアプロは2013年以降、計9人の新卒ナースを採用。在宅部門の看護室長として人材の教育・育成を担当する岡田さんは、経験の有無についてこう言います。

 

「新卒ですぐに訪問看護師になるのと、病棟を経験してからと。どちらがいいかと聞かれれば、どちらでもいいです。どちらでもいいナースになれるし、いいキャリアを積めると思います」

 

 

「なんとなく」では育たない、訪問看護に順序立てた教育を

岡田さんの写真

「新卒でも訪問看護師はできる」と話す岡田さん

 

訪問看護師としてのまず最初の目標は、1人の利用者宅に単独で訪問できるようになること。入職から2~3か月で初めての単独訪問に行くことの多いケアプロでは、そこに向けて5つのステップを踏みます。

 

 

【1】同行見学

 (先輩の訪問に同行してケアを見学)

【2】同行一部実施

 (先輩の訪問に同行して、ケアの一部を実施)

【3】同行一連実施

 (先輩の訪問に同行して、一連のケアを実施)

【4】単独チェック

 (基本的に単独でケアを実施し、同行した先輩がチェック)

【5】単独訪問

 

 

「なんとなく先輩について行って、なんとなくケアを見て、なんとなくその日の訪問が終わる…では、順序立てた教育はできません。今日の訪問では○○を学ぶんだという目的意識を明確にしています」(岡田さん)

 

さらに同行訪問の後は、30分間の振り返りの時間を持ちます。

 

「なぜ、あのタイミングで吸引したのか」

「あの処置は右手ではなく、左手で行う方がよかったのではないか」

「あのとき、あんなふうに声をかけたのは、奥さんがこんな表情をされていて、こうアセスメントした上で、こう考えたから」

 

どんな根拠と意図に基づいたケアなのか、しっかり言語化することで、ケアの焦点、思考の過程、情報収集の仕方など、訪問看護師としてのスキルを育てるのだそう。

 

「これは教える側にとってもスキルの要ること。教えることで自分たちも育てられていますね」

 

 

オンコールも先輩との二人三脚で

新卒から訪問看護師になった小川さん、小穴さんの写真

新卒2年目の小穴さん(中央)と3年目の小川さん(左)がペアで訪問することも

 

4月に同行見学からスタートした新卒看護師たちは、6~7月には初めての単独訪問を経験。その後、少しずつ単独訪問の件数を増やしていきます。

 

訪問先で判断に迷っても、所長をはじめ先輩看護師にすぐに電話で相談できるフォロー体制を敷いていて、新卒2年目の小穴紗穂さんは「一人だけど一人じゃない安心感が常にある」と感じているそうです。

 

「一人だけど一人じゃない安心感」は、夜間のオンコール当番でも。

 

ケアプロが運営する2つのステーション(中野、足立)は24時間対応。新卒の訪問看護師も2年目の秋ごろから週1回程度、オンコールを担当します。

 

「しばらくは先輩との二人三脚です。オンコールを受けたら、基本的には先輩に電話で対応を相談します。不安感が強いとやっぱり続かないと思うので、ありがたいです」(新卒3年目・小川奈美さん)

 

 

個別性を大切にする看護をファーストステップで

小川さんと小穴さんが事務所で話している写真

病棟での経験がない新卒の訪問看護師ならではの強みがある

 

「新卒で訪問看護師になった彼女たちと接していて感じるのは、ごく自然に全人的なとらえ方ができているということ。私もそうですけど、病院を長く経験した看護師は、つい『認知症の人』『糖尿病の人』と疾患でとらえがちです。でも、彼女たちはあくまでも『○○さん』なんです」

 

個別性を大切にした全人的な看護を、看護師としてのファーストステップで学べる――。新卒や若手の看護師が訪問看護に取り組む魅力を、岡田さんはそう話します。

 

一方で、「在宅の患者さんは疾患も病期もそれぞれ。病棟のように、同じような症例を数多く経験できる環境はありません」。体系的に看護技術や疾患知識を学ぶという点では、在宅は病院よりも弱いと指摘します。

 

そこでケアプロでは3年前からは、新卒向けの疾患勉強会も始めています。

 

「いつもの現場では、利用者さんから出発して疾患を看るという視点ですが、勉強会では逆に、疾患の知識から患者さんをとらえる視点を学んでもらっています。なかなか苦手そうですけどね(笑)」

 

 

病院も、在宅も、チャレンジはもっと自由に

黒堀さんの写真

「在宅も病院も、こだわらずにチャンレジしたい」と話す黒堀さん(中央)

 

これからのキャリアについて、新卒3年目の小川さんは「次は病院も経験してみたい」と言います。

 

「入院するのと在宅で過ごすのとどちらがいいかと、利用者さんに聞かれることもあるんですけど、病院を経験していない私は、どうしても話が浅い気がしてしまって。それに病院と在宅の連携がまだまだ弱いなと思うので、病院で退院調整にかかわる仕事に興味があります」

 

同じく3年目の黒堀真由さんも「病院も全然あり!」と考えています。

 

「在宅はすごく好きだし、続けていきたい。でも、在宅だけにこだわらず、必要な知識やスキルが学べる場、自分がやってみたい場には、どんどんチャレンジしたいなと思っています。

 

同じように、病院に軸足を置く看護師がちょっとだけ在宅を経験してみるというのもいいと思う。そんなふうに、病院と在宅の垣根がもっと低くなったらうれしいですよね」

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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(参考)

第142回社会保障審議会 介護給付費分科会 訪問看護(参考資料)・PDF(厚生労働省)

介護サービス施設・事業所調査(厚生労働省)

訪問看護アクションプラン2025日本看護協会ほか)

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