「絶対に身体拘束をするな」とは言わない|看護現場の身体拘束(2)

「縛らないに越したことはありません。でも、縛らないと危ない時もあります。大切なのは必要か必要じゃないか、その見極めです」

 

そう話すのは、川崎市立井田病院の宮崎奈々さん。

 

宮崎さんが看護師長を務める内科病棟では、「身体拘束をしないこと」を目標に掲げています。ただし、身体拘束を全否定しているわけではないと言います。

 

宮崎さんに、急性期の7対1病床での身体拘束についてお話をうかがいました。


川崎市立井田病院看護師長・集中ケア認定看護師の宮崎奈々さん

「身体拘束はベストじゃなくてベター、そう考えた方がいい」と話す宮崎さん

 

【目次】
拘束されたら、抜け出そうとするのが人間
「縛らない看護」はチームでないとできない
ご家族にはどう説明する?
身体拘束しないとかえって危険なとき
どこで働くかで変わる身体拘束に対する考え方

 

 

拘束されたら、抜け出そうとするのが人間

しっかり抑制具を装着していたはずなのに、患者さんがいつの間にか抜け出していた-。
そんな経験はありませんか?

 

宮崎さんは、「ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』のジャック・バウアーのように、どんなに縛られていても死に物狂いで抜け出そうとするのが人間です。だとすれば、そうした思いはしない方がいい。だから、こだわって縛らないようにしてきました」と話します。

 

ICUや救命救急センターなどで長年経験を積んできた宮崎さんは、看護師になりたての割と早い時期から、身体拘束をしない方がせん妄になりにくいことを体感的に知っていたと言います。

 

その思いは、20代後半に集中ケア認定看護師の資格を取得してからますます強くなり、正常な意識を保てているかを評価するスケールを活用して、その患者さんに身体拘束が必要かどうかを常に考えるようになったそうです。

 

川崎市立井田病院内科病棟

「患者さんが怒るのも動き回るのも、何かしら理由がある」(宮崎さん)

 

 

「縛らない看護」はチームでないとできない

身体拘束をできるだけしないというポリシーを持つ宮崎さんですが、4年前、川崎市立井田病院で働き始めたとき、師長としてスタッフに向けてこんな話をしたと言います。

 

「私は縛るのは大嫌いです。でも、縛らないと危ないときもあります。だから、100パーセント縛るなとは言いません。大いに悩んでください。そして、縛るのであれば、これが最善の方法と納得してから行ってください」

 

そして、自身がどうやって身体拘束をせずにケアをするのか、その様子を実際に見せていったそうです。

 

たとえば、こんな感じです。

 

せん妄が激しい患者さん/患者さんはせん妄が激しく、看護師を叩こうとします。そのため、腕を押さえようとしましたが、患者さんは皮膚が弱っていて、皮膚がずるっとめくれてしまう状態でした。そのため、抑制具を使うと患者さんの皮膚に負担がかかってしまい、痛い思いをすることになってしまいます。そこで、宮崎さんはその患者さんと、その近くの患者さんを受け持つことにしました。患者さんのそばにずっと付き添い、5分置きに体位交換をしたがっていたので、その度に身体の下にそっと手を入れるなど、患者さんの気が紛れるよう、いろんなケアをし続けました。すると、少しずつ患者さんは落ち着いていきました。その間、別の担当患者さんの薬の管理などは、周りの協力を仰ぎました。

 

宮崎さんは言います。

 

「こうしたケアができるのは、ほかの人が業務を代わりに引き受けてくれるからこそです。一人の看護師が患者さんに付き添えばいいというわけではありません」

 

縛らない看護はチームで解決しないとできないということを実践で伝えたわけです。

 

だから、病棟スタッフ間で声を掛け合い、うまく役割分担をし、患者さんを縛らずにケアできたときにはチームのみんなを褒めるそうです。

 

ずっと付き添っていた看護師には根気よく患者さんのケアをしたことを、その間その看護師の代わりに業務を引き受けた看護師らにはサポートをしてくれたことを感謝し、「ありがとう。みんなが手伝ってくれたから、あの患者さんを縛らずにすんだよ」と。

 

今では、スタッフが自発的に、どうすれば縛らずに、かつ、安全を確保できるかを考え、ベッドの配置を工夫したり、テレビが見えやすいように調整したり、自然と動くようになっているそうです。

 

 

ご家族にはどう説明する?

川崎市立井田病院外観

内科病棟は、血液内科、循環器内科、消化器内科の患者さんでいつもほぼ満床状態

 

看護師が縛らずにケアできると判断しても、何か起こった際のことを考えると、なかなか踏み出せないという話をよくにします。家族から訴えられる心配もあるかもしれません。

 

宮崎さんは「家族とよく会話をしておくことが大事」と言います。

 

たとえば、こんな感じです。

 

家族への声掛け例/「入院中はできるだけ自由にいていただきたいと考えています。その方が早く回復することにつながります。でも、転んでしまうかもしれません」/「家ではどんなふうに歩かれていましたか?手すり伝いですか?そうすると、起き上がったときに家とは環境が違うから、転んでしまうことがあるかもしれませんね」/「もちろん、そうならないようにがんばりますけど、ベッド柵をしていても飛び越えたり、離床センサーを上手に避けたりする患者さんがいるんですよ」

 

こんなふうにあえてリスクも織り交ぜながら、現状をわかっていただくように話をすると、「看護師が何を大事にしているのかが伝わり、家族はわかってくれます」と宮崎さん。

 

ただ、救急搬送された患者さんで、家族との信頼関係を築く前にインシデントが発生した場合には、「どうしてですか?」と言われることも時にはあるそうです。また、これまで尻餅をつく程度の軽い転倒しかないから大きな問題になっていないだけかもしれないとも言います。

 

 

身体拘束しないとかえって危険なとき

笑顔の宮崎奈々さん

「抜かれても大丈夫なものは入れ直せばよいのですが、PTCDや胸腔ドレーンなど危ないものもあります」(宮崎さん)

 

とはいえ、どうしても身体拘束が必要になってくることもあります。

 

それは、抜いたらすぐ命にかかわるルートがあるにもかかわらず、明らかに抜こうとしている状況などです。

 

抜けないように固定の工夫などは行った上での話ですが、最終的には人の目で見ておくしかありません。しかし、看護師の仕事は多重業務なので、どうしても一対一で看護師がそばにいられないこともあります。

 

そういう場合は、ベッドサイドを離れる際にきちんと身体拘束を行い、できるだけ早く他の業務を終わらせ、戻ってきて身体拘束を解除できるように促すそうです。少しの間で済めば患者さんの安心感につながるからです。

 

そして、「『このケースはしょうがないよ。間違ってないよ』と声を掛けることを大切にしています」と宮崎さんは言います。そうやって承認をしないと、スタッフの気持ちが押しつぶされてしまうからです。

 

 

どこで働くかで変わる、身体拘束に対する考え方

あらゆるところに目配りするのが看護の仕事(宮崎奈々さん)

「看護師がどれだけ縛らない看護のために努力しているか知ってもらいたいです」(宮崎さん)

 

複数の病院での勤務を経験した宮崎さんは、取材中、こんなことを話していました。

 

「どこで働くかで身体拘束に対する考え方は変わります。身体拘束を積極的にする病棟では、縛ることが当たり前と考えます。身体拘束をしない病棟では、縛らないことに慣れているから縛りません。実は、縛らない看護だという認識すらなかったりします。環境次第で新人看護師の育ち方は違ってきますね」

 

* * *

 

この記事では、7対1の急性期病床について取り上げました。

次の記事身体拘束をする病棟・しない病棟のケアはどう違う?では回復期病床での身体拘束ゼロの取り組みについて紹介します。
 

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

 

看護現場の身体拘束シリーズ

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