新人ナース初めてのインシデント。落ち込んでいる後輩にプリセプターとしてどう対応する?

プリセプターを初めてやる看護師が、「これさえ読んでおけば一年乗り切れる」実用的な内容を連載でお届けしています。

今回は、インシデントの振り返りで留意すべきことをお伝えします。

 

執筆/白石弓夏 看護師

監修/上村美穂

川崎市立多摩病院(指定管理者 聖マリアンナ医科大学)

教育担当師長、集中ケア認定看護師

 

初めてのプリセプター。これさえ読んでおけば大丈夫!

Vol.5 新人ナースのインシデントにどう対応する?

プリセプティがインシデントを起こしても、頭ごなしに怒らず、振り返りの機会を作るプリセプターのイラスト。

 

 

【基礎編】インシデントの振り返りで目指すことは一つ

インシデントの振り返りで目指すことは、「再発を防ぎ、患者に不利益を与えないようにすること」ただ一つです。

新人と振り返りを行う際にはまず、この目的を確認してから始めましょう。

 

インシデントが発生すると、プリセプターは「なんでこんなミスをしたの」と新人を責めてしまいがちです。

しかし「責める」ことは避けるべき対応です。

 

(NG例)

インシデントを起こした後輩に「なんでこんなミスをしたの!?」と怒鳴りつけるプリセプターのイラスト。

 

新人を責めず、再発を防ぐための振り返りで、留意すべきことを以下に挙げます。

 

【基礎編】インシデントの振り返りで留意すること

◯ 再発防止と行動変容につなげる。

✕ 「なんでこんなミスをしたの」と新人を責める。

 

◯ できるだけタイムリーに(その日のうちに)振り返りを行う。

✕ 後日振り返りを行う。

 

◯ まずは新人の考えを聴き出す。

✕ プリセプターの考えを伝えるだけになる。

 

◯「できていなかったこと/できていたこと」を明確化する。

✕ できていなかったことだけを伝える。

 

◯ 面談室や会議室など、落ち着いて話せる空間で振り返りを行う。

✕ ナースステーションなど、他スタッフの前で振り返りを行う。

 

◯「普段よりもゆっくり」を意識して話す。

✕ 大声、早口でしゃべる。

 

◯ 精神的なフォローを行う。

✕ 技術や行動面のフォローにとどまる。

 

それぞれを具体的に説明していきます。

 

 

再発防止と行動変容につなげる

インシデントは単に個人の責任として捉えないことが重要です。

 

振り返りの目的は「再発防止」であり、決して個人を責めることではありません。

双方が目的を理解することで、効果的な振り返りを行うことにつながります。

 

再発防止の具体策は、プリセプターだけでは考えられない場合がほとんどです。

上長や先輩と話し合い、組織全体で改善策を考えることが重要です。

 

 

できるだけタイムリーに(その日のうちに)振り返りを行う

インシデントの振り返りは、タイムリーに行うことが大切です。

時間が経過してからの振り返りは、あまり効果がありません。

 

新人がその時起こったことを、新人自身の行動と照らし合わせて振り返るために、新人の記憶が鮮明なうちに、振り返りの機会を設けましょう。

 

 

まずは新人の考えを聴き出す

インシデントの振り返りでは、新人の考えていることはなにか知ろうとするアプローチを行いましょう。

新人とプリセプターに考えの違いがあったとしても、まずは受け入れる姿勢を見せることが大切です。

 

プリセプターにとっては、当然の確認や観察であっても、新人にはその重要性を理解できていないこともあります。

インシデントが起こる背景には、多重課題により観察や確認を疎かにしてしまったり、忙しそうな先輩に声がかけられなかったりと、何らかの課題があるのです。

まずは、その背景を知るために、新人の考えを聴き出しましょう。

 

 

「できていなかったこと/できていたこと」を明確化する

インシデントが起きてしまったこと自体は組織的に改善策を考えることが必要です。

改善策までいかなくとも、その後の観察や確認などで新人自身が発見できたこと・対処できたことがあるかもしれません。

 

振り返りの中で「できているな」と思ったことや、「その対応は良かった」と思ったことは明確にフィードバックすることも必要です。

 

できていなかったことへの対応策だけでなく、できていることを伝えて伸ばしていくことも、再発防止のためには重要です。

 

 

面談室や会議室など、落ち着いて話せる空間で振り返りを行う

厳しくすることと、恥をかかせることとは違います。

次からこうしていこうと、自分自身の課題に取り組めるようにすることが重要です。

 

大勢の前で注意をすることや、繰り返し何度も追及しながら叱責するといったことがないようにしましょう。

 

 

精神的なフォローを行う

精神的なフォローを行う際に重要なのは「プリセプターは新人の味方でいる」ことです。

 

プリセプター自身が責めているつもりでなくとも、言葉以外にも態度や周りの環境などによって、新人は責められていると感じることがあるので注意が必要です。

 

また、新人はインシデントを起こしたことで、看護に対して「また起こしてしまうのではないか」などと恐怖を抱いてしまうこと少なくはありません。

 

新人の精神的なフォローも忘れずに行うようにしましょう。

 

【実践編】ケース別の対応

インシデントの振り返り方法について、ケース別に紹介します。

 

他責の傾向がみられる新人への対応

インシデントがあったにも関わらず、自分の置かれた状況がわかっていない後輩に「プロセスレコードを書いてみよう」と指導するプリセプターのイラスト。

(先輩Aさんの体験談)

インシデントレポートに「プリセプターのフォローが足りなかった」と書いているのをみて、違和感がありました。

 

リーダーと師長に相談したところ、他責の傾向がみられるので、その部分を中心とした指導が必要という話になりました。

 

そこで、状況理解・自己理解のために、プロセスレコードを書いてもらうことに。

プロセスレコードを基に、行動変容につながるようフォローしていきました。

 

【解説】

他責(問題を他者のせいにする)の傾向がある場合、「責められた」「自分だけが悪いと思われた」などと、周囲の人への不満を抱いている可能性があります。

 

「他の誰かのせい」ではなく、新人もチームの一員であることを伝え、当事者意識を持ったうえで事象を振り返るように促しましょう。

この場合は、当事者意識を育むために「プロセスレコードを記載する」方法をとっています。

 

振り返りや指導をしている時に、新人の反応が乏しかったり、自分が思っているような言動や、行動がなかったりすると、「理解していない」「反省していない」と思いがちですが、表現は人それぞれです。

 

反応がうすくても理解している場合もあるのです。

 

振り返りの場面だけでなくその後の行動から、改善ができているかを見ていくことも必要です。

 

 

ショックを受けて泣いている新人への対応

インシデントを起こしたショックで泣いているプリセプティを励ますプリセプターのイラスト。

 

(先輩Bさんの体験談) 

担当の新人が初めてインシデントを起こした6月頃のこと。

患者さんに不利益が出る類のインシデントではなかったのですが、新人はショックで泣きじゃくっていました。

 

話を聴いてみると、事の重大さを理解しているからこそ、ショックを受けて泣いているという状況のようでした。

 

そのため、

「よく反省したからもう同じ間違いはしないね」

「次は気を付けようね」

「元気だしていこう」

などの声かけをしました。

 

自分のことを責めすぎてしまう新人には、立ち直れるようにフォローしていく必要があると思いました。

 

起きてしまった事象に対して状況を理解できている場合は、その時点ではそれ以上の指導は必要がないこともあります。

その後の業務の中で、今回起きたインシデントの対策や課題の取り組みがきちんとできているかを見守っていくことが必要です。

 

たとえば、観察不足により発生したインシデントに対して「優先順位を考え、観察をしっかり行う」と課題を挙げた際には、「きちんと優先順位を立てて、観察ができているか見ているからね」と、プリセプターとして見守っていること、そしてできているか見ていることを伝えることが必要です。

 

 

罪悪感を感じている新人への対応

後輩のミスでも、『私だったら…』と相手の立場にたって、アドバイスをするプリセプターのイラスト。

 

(先輩Cさんの体験談) 

私の担当の新人が初めてインシデントを起こしたのは、秋頃のこと。

 

新人は「悪いことをしてしまった」という罪悪感でかなり落ち込んでいました。

私は、

「インシデントは自分の弱点を振り返ることで、同じ間違いを起こさないようにすることが大事だから、最初から一緒に考えよう」

「私はこうしてミスがないように気を付けているよ」

と自分の経験談を伝えたり、新人の味方でいることは忘れないように関わっていました。

 

自分がインシデントを初めて起こした時も、同じように親身になって相談に乗ってもらえた記憶が残っているからです。

自分がしてもらって嬉しかったことは、後輩にもやっていこうと思っていました。

 

プリセプターは、自分の経験などを伝えながら、新人が実行可能な対策を一緒に考え導くことが必要です。

 

失敗から学ぶことも多いこと、次に活かしていくことが大切であること、そしてプリセプターの自分が新人の頃インシデントに対してどのように乗り越えてきたのかなどを伝えることも効果的です。

 

 

【まとめ】インシデントの振り返りで目指すことを明確に

インシデントを起こしてしまうと、新人はかなりの精神的な影響を受けてしまいます。

 

「しっかり振り返って次につなげていこう」という気持ちの切り替えが自分一人ではできないこともほとんどです。

 

しかしどんな場合でも、「再発を防ぎ、患者に不利益を与えないようにすること」がインシデントの振り返りの目的です。

 

再発防止といっても、プリセプターが一人で検討するには、とても荷が重いと思います。

新人も含めたチーム全員で対策を考え、より良い看護に向かって支え合うことが大切です。

Illustration/宗本真里奈

編集/坂本綾子(看護roo!編集部)

 

(引用・参考文献)

1)目黒 悟:教えることの基本となるもの―「看護」と「教育」の同形性.(メヂカルフレンド社)

2)新人看護師のインシデント体験時の心理状態

2)プリセプター制度の現状と課題:PDF(看護研究交流センター 地域課題研究報告)

3)新人看護職員研修 ガイドライン 【改訂版】:PDF(厚生労働省)

4)新人看護職員臨床研修における研修責任者・教育担当者育成のための研修ガイド:PDF(日本看護協会

5)OJT における新人教育で師長が果たす役割に 関する文献検討:PDF(川崎医療福祉学会誌)

6)新人看護師技術チェックリストの使い方について:PDF(厚生労働省)

 

【監修者 プロフィール】

上村美穂(かみむら・みほ)

1996年 聖マリアンナ医科大学 東横病院 脳神経外科病棟 入職

2003年 集中ケア認定看護師 取得

2006年 川崎市立多摩病院(指定管理者 聖マリアンナ医科大学)ICU・CCU異動

2017年~ 同病院 教育担当師長

 

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