プリセプターの役割と仕事内容これだけ読めば丸わかり!~みんなの体験談つき~
プリセプターを初めてやる看護師が、「これさえ読んでおけば一年乗り切れる」実用的な内容を連載でお届けします。
今回はプリセプターの役割と仕事内容について具体的に解説します。
執筆/白石弓夏 看護師
監修/上村美穂
川崎市立多摩病院(指定管理者 聖マリアンナ医科大学)
教育担当師長、集中ケア認定看護師
初めてのプリセプター。これさえ読んでおけば大丈夫!
Vol.4 プリセプターの役割と仕事内容一覧
■Index
…朝・昼・夜それぞれの仕事内容
…3カ月ごと、それぞれの時期の役割
基本的な1日の業務
朝、新人の1日の動きを把握したら、昼にその進捗状況を確認。夜は振り返りを行います。
このような1日の業務の中で重要なことは以下の通りです。
●1日の業務で重要なこと
◯ 気づいたときにその場で指導する。
✕ 1日の最後にまとめて指導する。
◯ できていないことがあれば「次はこうする」と具体的に指導する。
✕ できていないことだけを指摘する。
◯ 自分の持つ知識や技術を積極的に伝える。
✕ 新人が質問してきたときだけ伝える。
最も重要なのは「気がついたことをその場で伝える」ことです。
たとえ新人の情報収集や事前学習が不足していても、必要なことはその場で、自分の持つ知識や技術を惜しみなく伝えることが必要です。
朝:1日のスケジュールを確認
朝は、新人の情報収集が終わったタイミングで、共に1日の流れを確認します。
「今日のスケジュール、おおまかに教えてくれる?」「今日の手術準備、いつまでに終わりそう?」などの声かけをとりながら、抜け漏れがないか確認します。
1日の流れを聞いて「じゃあ私はこの時間に確認しに行くね」など、プリセプターがどのようにフォローするかも伝えます。
●ポイント
・勤務開始時の表情や行動から、新人がどのような精神状態なのか把握するように努める。
・技術習得度など、新人の状況を頭に入れたうえでコミュニケーションをとる。
・新人の自立も大切だが、最も重要なのは患者さんの安全を守ること。
・朝の関わりが、その日の新人の行動を左右することも。
朝の関わりのポイントは、出勤時の表情や行動から、新人が今どのような精神状態なのか把握することです。
プリセプターは「技術チェックリストの○○と○○は自立できている」など新人の技術習得度も頭に入れたうえでコミュニケーションをとりましょう。
新人は、初めて行う処置や検査などのイベントに対しては、事前に学習をすることやプリセプターなどの先輩に先に声をかけて指導を仰ぐことが望ましいですが、ためらっていることなどもあります。
新人の自立のためにあえて待つこともありますが、患者さんの安全が最優先です。
朝の雰囲気が、新人がその日1日を落ち着いていられるか、動揺したまま過ごすかの分かれ道になることもあります。
新人の状況を把握し、前向きに業務にあたれるようなコミュニケーションを心がけましょう。
昼:進捗状況を確認
昼は、朝に立てたスケジュールの進捗状況を確認します。
進捗によって、スケジュールの順番を変えるなど状況に応じてアドバイスをします。
●ポイント
・昼の進捗確認は、優先順位の付け方を実践で学ぶ機会。
・「大丈夫?」ではなく「今どこまで準備してる?」「忙しくなりそうだから◯◯の準備、先にやっておこうか?」など具体的な声かけをする。
・新人に休憩をとらせるのも、プリセプターの大切な役割。
昼の進捗確認は重要です。
優先順位の付け方を実践で教える機会にもなります。
進捗を確認する際には「大丈夫?」と声をかけてしまいがちですが、この聞き方だと新人はつい「大丈夫です」と答えてしまうようです。
「今どこまで準備してる?」「忙しくなりそうだから◯◯の準備、先にやっておこうか?」などと、具体的に声をかけると、新人が今一番必要としているアドバイスができるようになります。
新人は昼の休憩も時間通り入れないことがあります。
よく先輩に「新人さん早く休憩入って」などと言われている場面がありますが、入りたくてもタイミングがわからないのです。
そのようなときは、休憩時間ぎりぎりではなく、少し早目に声をかけたり様子をうかがい、休憩にスムーズに入れるようにフォローしましょう。
夜:振り返り
業務が終了する際、1日の振り返りを行います。
【例】
プリ:今日は、自分的にどのくらい動けた?
新人:午前中にやりたかったことが終わらなくて。
プリ:今日は結局、オペ迎えの準備がバタバタしちゃったね。一人で準備をすると時間がかかるから、今度はもう少し長めに時間確保しておこうか。
新人:そうですね。あとから色々と物品を忘れていたことに気づいて、時間がかかってしまいました。
プリ:でも、間に合うように応援を呼べたところはよかったよ。
新人:はい!
プリ:オペ迎えに必要な物品は、もう一度確認しておこうね。明日は、この患者さんを受け持つよ。術後だから、術後の合併症や観察ポイントを予習してきてね。
●ポイント
・1日の振り返りは5~15分が目安。簡潔にポイントを伝える。
・こちらが伝えたいことよりも、新人が感じたことを引き出せるように関わる。
・アドバイスは具体的に伝える。
・新人が「明日も頑張ろう」と前向きになれる言葉で終わる。
1日の振り返りは、プリセプターとしてはたくさん伝えたいこと、教えたいことがあり、ついつい長時間になりがちです。
でも、伝えたいことや教えたいことは、実践の場で伝えることが望ましいです。
振り返りは簡潔にポイントを伝える場としましょう。
また、プリセプターが、一方的に話してしまわないように、新人がどう考えていたのかを自分の言葉で語れるように導くとより効果的です。
それに対し、具体的にアドバイスを伝えた上で「明日も頑張ろう」と思える前向きな言葉で振り返りを終えましょう。
1年間の業務
次に、1年間の役割を3カ月ごとに分けてお伝えします。
1年間を通じて、新人を組織的に育成するためには、年間教育プログラムに基づいて業務を行うことが重要です。
職場の方針を確認した上で、プリセプターとして「どのような新人に育ってほしいか」という目標を明確にして関わりましょう。
(参考:「プリセプター研修」でおさえておくべきことは“4つ”)
4~6月:シャドーイングや「やって見せる」ことによる指導
新人の指導で、一番密度の濃い関わりが必要なのは、4月の入職時。
入職してペアになり、数日はシャドーイング(プリセプターに新人がついて回り業務を見学すること)を行う職場が多いようです。
シャドーイングが終わると、軽症の患者さんから受け持ち、ペアで動きながら業務内容や看護のポイントを教える流れになります。
シャドーイングの目的は「先輩の姿を見せる」ことです。
その際には行動一つひとつの意味・目的・根拠を声に出すことが重要です。
そうしないと、実際に受け持ちをする時に、動きは真似ができても根拠をもった看護になっていないことも起こりえます。
特に患者さんに接する時には、留意点や大切にしていることなどを伝え、新人たちが「何が看護で何が看護でないのか」ということを自然と学べるようにしましょう。
夜勤もシャドーイングや体験などから開始をすることが多いと思います。
少ない人数の中でどのように協力をしていくのかなど、メンバーの一員としての意識を高める機会にもなります。
4~6月の新人の不安は想像以上です。
「できない自分が職場にいていいのか」「迷惑をかけるだけなのではないか」と悩むこともあります。
「プリセプターが付いているから大丈夫」という安心感を与えるなど、新人のストレスにも配慮していくことが重要です。
7~9月:協働しつつ必要な場合にフォローする
7~9月は、プリセプター自身が、一番忙しいと感じる時期かもしれません。
自分の受け持ち患者数も普通に戻り、新人の受け持ちも増え、忙しさが倍になるようなイメージです。
協働しつつ、新人のフォローをできるように業務を調整しましょう。
●ポイント
・新人は、受け持ち患者が増え、情報収集やスケジュール管理がうまくできない時期。「優先順位の付け方を」実践の中で伝えることが重要。
この頃の新人は、「受け持ち患者が増え、情報収集やスケジュール管理がうまくできない」「優先順位が立てられない」といったことに悩み、出勤時間が早くなり退勤時間も遅くなりがちです。
誰もが通る道ではありますが、上手くいかないことのどこに原因があるのかなどを一緒に考えながら、自分の経験を活かした具体的なアドバイスをしましょう。
7月になると、技術チェックリストについて自立ができている項目も増えてきますが、進捗具合(ほかの新人に比べて進みが遅い、など)が気になりだす時期でもあります。
不安なまま業務にあたった結果、患者さんの安全や安楽にも影響を及ぼさないように、勤務開始前や勤務の合間に、表情を見ながら、声をかけ気持ちを落ち着かせてあげることが必要です。
10~12月:新人の業務に気を配りながら、必要な場合にフォローする
10~12月になると、技術チェックリストでほとんどが自立となり、ダブルチェックをする機会も減ってきます。
そんな中、頻度が低い処置を教える機会などを見計らうのものこの時期。
インシデントが増えてくる時期でもあるので、プリセプターとしては常にそばにはいられないものの、陰から見守ることが必要とされます。
●ポイント
・得意を伸ばし、苦手を改善できるような指導を行う。
・同期と比較して悩まないように導く。
少しずつ業務に慣れてくると、新人の成長に差が出てくることがあります。
患者に個別性があるように、新人にも個別性があることを忘れてはいけません。
プリセプターが新人の進みが遅いと思っている時は、新人自身も同期と比較して劣っていると悩んでいることがあります。
それぞれの新人のいいところを伸ばしながら、苦手としているところを改善していかれるように個別性に合わせた指導を行うことが大切です。
指導をするだけではなく、新人自身が今直面している問題に対して、具体的な対策を取れるようにしていくことが必要です。
習得できていない技術を覚えさせようと焦る時期でもありますが、患者さんの安全を守ることにも忘れずに留意しましょう。
1~3月:新人が先輩になることを意識して指導する
次の年の1月にもなると、新人は重症の患者さんや緊急入院、急変なども経験するようになります。
プリセプターとしては、教えていないことがないかに気を配る時期です。
●ポイント
・関わる時間が少なくても、新人の状況を把握できるように努める。
・技術習得状況を確認する。
・総まとめの振り返りの時間を設ける。
この頃になると、プリセプターが常についているということはなくなり、自立ができている状況が望ましいといえます。
そのため、プリセプターは交替勤務の中、新人に接する機会も少なくなっていると思います。
手が離れてくると忘れがちなのが、技術習得状況の確認です。
入職間もないころは、必死で行っていた技術チェックも「しばらく手を付けていなかった」「当然経験していると思っていた技術も、実際には当たる機会がなくて、未経験だった」といったことも起こりえます。
2年目を迎えるにあたり、新人が習得すべき看護技術や知識の習得状況の確認をしておきましょう。
1年間の総まとめとして、振り返りの機会を持つことは大切です。
1年間努力してきたことは十分に認めてあげてください。
そして2年目を迎えるにあたり、「どんな先輩になりたいか」「2年目に向けての課題」「自分の大切にしている看護」などを皆で話し合う機会を設けましょう。
プリセプター会議で担う役割
新人はチームで育てていくもの。
プリセプターは責任の大きい役割ですが、新人は決して1人で育てているのではないのだと、この連載で繰り返し伝えてきました。
(参考:「プリセプターに向いてない…」「新人と相性が悪い…」と思ったときに読む記事)
その成長状況を皆で理解し合い、アドバイスをし合うために、プリセプター会議で話し合いをすることも、プリセプターの役割です。
しかし職場の規模や方針によって、プリセプター会議という形式では行っていない場合もあります。
その際にも、先輩や上長と新人の状況を共有するように努めましょう。
●ポイント
・少しでも気になったことがあれば、報告する。
・新人のことだけでなく、プリセプター自身が困っていることも伝える。
一番身近にいるプリセプターだからこそ、知っている新人の姿があると思います。
「ちょっと気になったけど大丈夫かなと思った」といったことも、先輩や上長としてはぜひ教えてほしい情報です。
【例】
・新人が一人で泣いていたが、声をかけたら大丈夫ですと、笑顔を見せた。気にはなったけど、そのままにしてしまった。
・最近、少し眠れない、食欲がないと話していた。
・インシデントにはなっていないが、ヒヤッとする場面が多い。
・確認をしっかりしないで実施しようとする。
新人がプリセプターに相談をしてきた場合などは、上司に報告をしなければと思うようですが、たまたま知った情報や、見かけた情報などは流されやすいことがあります。
早めの対処をするためにも、気になったことがあれば、悩まず相談や報告をしてほしいと思います。
大きな事故につながることを防いだり、個人の傾向に対する対応策をとることにつながります。
気になることは、まずは共有することが大切です。
また、会議は新人について話し合うだけでなく、プリセプターが困っていること、悩んでいることなども解決をしていく場でもあります。
新人を育てるのは、プリセプターだけではありません、チーム皆で育てるものです。プリセプターだけが、悩んだり困ったりしないように、必要な場でしっかりと解決をしていくようにしましょう。
それらを、同僚や上長に報告や相談をする場として有意義に活用しましょう。
みんなの体験談~目標設定と振り返りってどうしてる?~
プリセプターの役割の中で、目標設定や振り返りは大きなウエイトを占めます。
その分悩みやすいのも、この部分。
経験者のみんなはどうしていたのでしょう…?看護roo!のインタビューに答えてくれた方の体験談を集めました。
◯業務後10~15分で振り返りをしていたAさん
業務後10~15分くらいで振り返りをしていました。
話す内容は、初めてやった処置についてや、新人が事前に勉強してきた内容と照らし合わせつつ復習します。
その中で教科書に載っていることだけでなく、現場では臨機応変な対応が必要だということなど、事例も含めて話したりします。
そして、最後は明日の受け持ち患者さんについて事前学習の課題を出すこともあります。
◯数カ月ごとに、振り返りを実施していたBさん
入職して1カ月、3カ月、6カ月に分けた病院で決められたシートを用いて振り返りをしました。
また技術についても基本的なものから専門的なものに分けられた用紙がありましたが、あてはまらない項目もあったので、別にチェックリストを作成しました。
◯新人との交換ノートを用いていたCさん
技術チェックリストや評価表というものはなかったです。
ただ交換ノートみたいなものが配布されて、そこに担当してもらった指導者になにを注意されたかを書いたり、月に一回、よかったこと、困ったこと、その他という項目を新人に書いてもらい、それに対してプリセプター、教育係、師長がコメントをしてました。
◯看護技術以外にも、社会人マナーの項目もあったDさん
評価表を使って3カ月ごとに振り返りを行います。
看護技術や挨拶などの基本的なことや記録のことなど、たくさんの項目があり一つずつプリセプターと新人で振り返りを行いました。
プリセプターの役割はいつも身近にいて新人を見守ること
プリセプターは、いつも新人の身近にいて理解し、見守ってくれる、新人にとって安心できる存在であることが第一です。
しかし、1年間を通してずっと一緒に勤務をするわけではありませんし、新人を育てるのは何度も繰り返しますがチーム全体です。
いつも一緒に勤務をしていなくても、その時々の新人の状況がわかり、新人のことを語ることができる存在でいてほしいと思います。
次回は、新人がインシデントを起こしてしまった場合の対応についてお伝えします。
Illustration/宗本真里奈
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
(引用・参考文献)
1)目黒 悟:教えることの基本となるもの―「看護」と「教育」の同形性.(メヂカルフレンド社)
2)プリセプター制度の現状と課題:PDF(看護研究交流センター 地域課題研究報告)
3)新人看護職員研修 ガイドライン 【改訂版】:PDF(厚生労働省)
4)新人看護職員臨床研修における研修責任者・教育担当者育成のための研修ガイド:PDF(日本看護協会)
5)OJT における新人教育で師長が果たす役割に 関する文献検討(川崎医療福祉学会誌)
6)新人看護師技術チェックリストの使い方について:PDF(厚生労働省)
【監修者 プロフィール】
上村美穂(かみむら・みほ)
1996年 聖マリアンナ医科大学 東横病院 脳神経外科病棟 入職
2003年 集中ケア認定看護師 取得
2006年 川崎市立多摩病院(指定管理者 聖マリアンナ医科大学)ICU・CCU異動
2017年~ 同病院 教育担当師長
プリセプターについてのみんなの経験談はこちらから
▷『プリセプターについて』(看護師の掲示板:ナースカタリーナ)
▷『こんなプリセプティはイヤだ~!!』(看護師の掲示板:ナースカタリーナ)
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