看護師であり発達障害の当事者として、私が伝えたいことはひとつ。|沖田✕華さんインタビュー【前編】

発達障害について多くの媒体で当事者や専門家の言論が取り上げられるようになりました。看護の現場でも、悩む声が多数聞かれているようです。

 

「仕事でいつも怒られています。先輩から“あなた発達障害なんじゃない?”と指摘されて、すごく落ち込んでいます…」

コミュニケーションに違和感のある後輩に対して、“発達障害かもしれない”という声が上がっていて…」

(参考:看護師の掲示板「ナースカタリーナ」

 

対スタッフ、対患者ともに、緻密なコミュニケーションが求められる看護の現場。

発達障害をどのように正しく理解し、受け入れていけばいいのでしょうか。

 

これらの切実なお悩みについて、学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、アスペルガー症候群(※)の当事者であり元看護師の漫画家・沖田✕華(おきた・ばっか)さんにお話を伺いました!

(代表作『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』ぶんか社、『透明なゆりかご』講談社)

【聞き手:のまり(精神科看護師)】

 

インタビューを受ける沖田✕華さんの写真

(沖田✕華さん)

 

沖田✕華さんインタビュー【前編】

看護師・発達障害当事者として、私が伝えたいことはひとつ。

 

のまり:発達障害の診断はいつ頃、受けられていたのでしょうか?

 

沖田✕華(以下、沖田):小学4年生の頃に学習障害(LD)、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)と診断されて、中学生の頃にアスペルガー症候群と診断されていました。

小学校・中学校のときは、発達障害の意味もわからなくて「頭悪いのはそのせいか」くらいで。

 

その後も、いじめられたりとかはあったけど友だちもいましたしね。

人との違いは感じてましたけど、「B型だから適当なんだ」って思い込んでました(笑)

 

看護師になったことが、発達障害を自覚する契機でしたね。

 

 

病院で働くようになって「使えない」「あんたいらない」と言われた日々

看護師になったことが、発達障害を自覚した契機だったと過去の経験を話す沖田✕華さんの写真

 

のまり:看護師として入職されたときには、ご自分が発達障害だという認識はなかったという状況だったんでしょうか?

 

沖田:はい。私は自覚がないまま看護師になってしまって、入職後にすんごい落ち込んだんですよね。

国家試験に合格して、正看護師になって病院に入職したのに、人の言ってることがまるっきりわからないんです。

 

最初は、自分が適当な性格だからだと思ってたんですが、だんだんと自分に根本的に何か足りないものがあると実感しました。

 

まず、患者さんの名前と顔を覚えられない。

あと、1回覚えたことを変更できない。

 

一緒に勤務に入っていた同僚が、「タオルの畳み方が違う」って何度も何度も教えてくれたのに、直らないんです。その前の職場での畳み方をずっとやってしまう。

「簡単なことなのに、なんで直らないの?」って言われ続けてました。

 

でも、何が原因でそうなってるかは自分ではわからなくて。

どんどんダメ扱いされていきました。「使えない」「あんたいらない」って言われてショックでした

 

原因もわからず、職場でダメ扱いを受けていたことを思い出しながら語る沖田✕華さんの写真

 

 

看護師時代、一番落ち込んだのは「周囲に溶け込めなかった」こと

のまり:先程おっしゃっていた「すんごい落ち込んだ」というのは、具体的にどのようなことだったんですか?

 

沖田:一番つらくて落ち込んだのは、周囲に溶け込めないことですね。

ご存知の通り、看護の世界は女性社会なので、溶け込めないと弾かれちゃうんですよね。

自分が興味ない話題だとしても、話題に入らなきゃいけないし、ある程度、他人にうまく合わせないといけない。

 

ナースは個々人の考えや裁量が重視されるというよりは、組織で動く職業ですよね。

今でこそ「チーム医療」と言語化されていますが、私が看護師をしていた当時(2001年頃)は輪を重んじるという暗黙の了解が存在していて。

 

看護師という職業上、同僚の輪に入れないと仕事がやりづらいという状況はあると思います。

私は、周囲にまったく溶け込めなくて、つらかったですね。

 

 

当事者は周囲へ発達障害だと伝えるべきかどうか

のまり:実際に専門の医療機関を受診され、発達障害だと診断されたあと、職場に伝えるべきか悩む声もよく聞きます。

 

沖田:そうですね…。理想は、信頼できる上司に相談することだと思います。

 

発達障害の場合は、できることとできないことがはっきりしている場合が多いです。

「こっちは非常によくできるんだけど、あっちはまったくできない」とか。

 

上司に伝えないかぎりは、できないことも「やってね」「なんでできないの?」「なんで直らないの?」と指摘され続けるわけで。

 

そうすると、パンクして、うつなどの二次障害を発症してしまって、仕事ができなくなって、退職して、引きこもりになって…。という悪循環に陥る場合もあります。

 

上司に相談して、一緒に考えてもらいながら、配属先や行う業務範囲の調整を適切にしてもらえることが良いのでは、と思います。

 

インタビューの原稿を見る沖田✕華さんとかんごるーちゃんの写真

 

ただ、なかなか現実は理想通りにいかないのかも…。

職場によっては、伝えたことが原因でいじめや差別につながるという話もにします。

 

たとえばですけど、病院側のマニュアルが整備・拡充されれば、当事者・管理者双方にとって良い結果になるのかもしれないですね。

 

 

当事者の自己理解と周囲からの理解があれば、看護の現場で働き続けることはできる

当事者の自己理解と周囲からの理解があれば、看護の現場で働き続けることは可能と笑顔で語る沖田✕華さんの写真

 

のまり:沖田さんの場合は、周囲からどういった反応を示されたのでしょうか?

 

沖田:私は自覚がなかったので、発達障害だとは伝えていませんでした。

でも、理解してもらうことの難しさは感じます。

 

たとえば、「患者さんの名前が覚えられなくて」と先輩や同僚に伝えても、「そんなこと、私もあるから」って言われちゃうんですよ。

 

「そうなのかな?」って。「みんなにもよくあるのかな…でも私は違う気がする」って悩んじゃうんです。

 

自分でも「そんなに悩むことじゃないのかも…」って思い込もうとしたりして、どんどん周囲の認識とずれていくんです。

 

「私も同じだよ~」と言われたら話が終わっちゃうんですよ。

 

だから、自分で気になったり、誰かに指摘されたら、友人や同僚へのライトな相談で終わらせずに、専門の医療機関を受診してほしいと思います。

 

組織的に適切な対応をとってもらえれば、働き続けることはできますから。

 

私は、パンクして看護の場を去ってしまったんですが、自己理解と周囲の理解があれば協働はできると思っています。

 

 

診断を受けてない人のことも、当事者のことも「あの人アスペ?」と噂をしないで

のまり:実際に診断を受けてない方に対して「あの人アスペなんじゃない?」という噂がされていたり、「あんたアスペっぽいよね~」などと声かけをしてしまって、その方が傷ついてしまうという話もありますね。

 

沖田:わかります。周囲の声はキツいですね。

私は、よく同僚に「ハゲ」とか「死ね」とか言われてましたよ。

 

なので、“ちょっと気になる子”がいたら近しい同僚や先輩から、師長や主任に伝えてもらいたいです。

言いにくいかもしれないけど…、頑張って報告として伝えてもらいたいですね。

 

陰口として伝わるよりも、組織として対応を考えてもらったほうがいいです。

 

 

発達障害と一口にいっても、十人十色

のまり:もしもご自身が看護師に復職されるとしたら、どんな部署で働いてみたいですか?

 

沖田:うーん。発達障害と一口にいっても、その状態は十人十色なんです。

看護師時代、発達障害の同僚がいたこともあるんですけど、その子は知能指数がとても高くて、仕事はめちゃめちゃデキるんだけど、共感性が低い子で。

こんなにも状態が違うのかっていうのは、当事者でも日々感じるところです。

 

なので、あくまで私の個人的な例なのですが、私自身は急性期に勤めるのは無理だなぁと思っています。

急変やトラブルに対応できないので。

 

急変がない内科系、もしくは介護施設での看護の方がいいなぁと思います。

私の場合は、ルーチンワークが多かったり、雰囲気としてゆったりした職場が向いていると思いますね。

 

 

発達障害当事者として私が伝えたいことはひとつ。「自分を大事にしてほしい」

発達障害かもと悩む看護師さんたちにメッセージを贈る沖田✕華さんの写真

 

のまり:「自分が発達障害かも…?」「あの子、もしかして発達障害かも…?」と悩む看護師さんたちにメッセージをお願いします。

 

沖田:看護師は「人の助けになりたい」って思っている人が多いと思います。

実は私もそう思って入職したんです。

 

でも、スタッフ同士の関係性にしても、患者さんへの対応にしても、人と密に関わるので、自分の都合だけじゃどうにもならないことが多くて。

 

私が伝えたいことはひとつで「自分を大事にしてほしい」ということです。

 

もしかして「自分は発達障害かな?」って思ったら、専門の医療機関を受診してほしいですし、周囲にそういう人がいたら、抱え込まずに信頼できる上司に報告・相談してほしい。

 

「人のために」って思うからこそ、自分より周囲を優先しちゃう人が多いと思うんです。

だけど、自分の健康を第一に考えないと、潰れちゃうので。

 

私は看護の現場を去ってしまったけれど、看護の現場が相変わらずシビアでハードなことは、友人たちからよく聞いています。

 

一人ひとりが自分を大事にして、心身をいたわりながら働けるようになれば、と思いますね。

 


 

現在は漫画家として大活躍中の沖田さん。

後編では、産婦人科を舞台にした代表作『透明なゆりかご』の製作秘話を伺いました。

(※)2013年に出版されたアメリカ精神医学会「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)では「アスペルガー症候群」という呼称は「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)」という診断名に分類されるようになりました。

【取材・編集:坂本綾子(看護roo!編集部)】

 

インタビュー後編

『透明なゆりかご』沖田✕華さんインタビュー【後編】|“中絶は悪いこと”と描きたくなかったワケ

 

参考:看護師の掲示板「ナースカタリーナ」

ADHDと診断されました…看護師続けられるでしょうか…

4年目の病棟看護師ですがADHDと言われました。

発達障害?

 

取材協力

ぶんか社

 

沖田✕華(おきた・ばっか)さんプロフィール

富山県出身。1979年2月2日生まれ。

小学4年生の時に、医師よりLD(学習障害)とAD/HD(注意欠陥/多動性障害)の診断を受ける。

看護師・風俗嬢を経て2008年漫画家デビュー。

現在『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』(ぶんか社)、『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』(講談社)、『蜃気楼家族』(幻冬舎)、『セキララ!ドン引きクリニック』(北國新聞社)など多数の作品を連載中。

2018年、『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』で第42回講談社漫画賞(少女部門)を受賞。

 

聞き手:のまり

石川県出身の看護師。精神科病棟・施設を中心に勤務。漫画家としても活動。看護雑誌への寄稿や、映画『リクエスト・コンフュージョン』劇中漫画制作など。 

 

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