コミュニティナース~そこに看護師がいる、地域が人が元気になる
人口減少と高齢化が進む日本。
特に地方では、いかにコミュニティー機能を維持するか、地域そして住民を元気にするかが重要な課題になっています。
そんな中で注目されているのが「コミュニティナース」です。
高齢化が進む中山間地域に移り住み、あるいは古里に深く根を張って、住民の健康づくりやまちづくりに携わるコミュニティナースの存在は、「地方創生のキーパーソン」として、社会の期待を集めています。
ガソリンスタンドで会える看護師
奈良県山添村に移住して活動する荏原優子さん。医療機関でも行政施設でもない、ガソリンスタンドが活動拠点
「コミュニティナースと言われても、住民の頭の中は『?』でいっぱい。実践を積み重ねて信頼関係を築きながら、『暮らしの中に看護師がいること』の可能性を広げています」
こう話すのは、奈良県内でコミュニティナースとして活動する荏原優子さん(31)=横浜市出身=。
2017年4月、県による公募を通じて奈良市に隣接する山添村に移住。10月からは村が直接委嘱・雇用する集落支援員として働いています。
荏原さんが拠点とするのは、村の中心部にあるガソリンスタンド。荏原さん自身がここに暮らす一人として地域の生活動線を知って見つけた、「住民がいつでも看護師に会える場所」です。
ほとんどの地方がそうであるように、山添村の生活には車が必須。給油に立ち寄るついでを利用しながら、住民と荏原さんの気軽な健康相談が行われています。
人口減少率ワースト上位の過疎のまちで
老人会の会合などにも参加。「看護師がいること」を日常の暮らしの中に溶け込ませていく
山添村を含む奥大和地域は、高齢化の著しい山間部。65歳以上人口が6割近くに上る村もあり、今後の人口減少率は全国トップクラスと推計される地域です。この状況に危機感を抱く県と各市町村は、移住者の呼び込みや地域振興に力を入れています。
その対策の一つが、奥大和地域の市町村でそれぞれコミュニティナースを採用する「コミュニティナース・プロジェクト」。第1号となった荏原さんをはじめ、2017年度は計4人のコミュニティナースが山添村、天川村、川上村、東吉野村に移住して活動しました。
コミュニティナースが移動販売に同行。買い物の様子や会話などから、生活状況や健康状態をアセスメントできる(川上村)
「4人の活動内容はそれぞれ。例えば、交通手段のない高齢者のための移動販売に同行しながら、住民の健康づくりに貢献するといった活動の仕方もありました」(荏原さん)。保健師や医療・介護関係者とも密に連携して、暮らしのすぐそばにいるコミュニティナースならではの役割を発揮しています。
「うちの村もまだ頑張れる」、地元への期待度が活気を生む
奈良・奥大和地域に移住して活動するコミュニティナースたち
数人の看護師が移住すること、それ自体が直接、人口減少対策に大きなインパクトとなるわけではありません。むしろ大きいのは、健康づくりや人の集まる場づくりを支えるコミュニティナースを介して、地域に活力が生まれることです。
「この地域もまだ頑張れるんじゃないか、自分たちも何かできるんじゃないかという活気づくりが、コミュニティナースの活動の本質だと思います」と荏原さん。
最近では「山添村の特産品・大和茶を使って、新しい雇用を生み出そう」という話が住民の間で持ち上がっているそう。荏原さんは、そんな住民の変化を「村に対する期待度が上がっている」と表現します。
こうした効果に、県の移住対策担当者も期待を寄せています。「住民同士がつながり、いきいきと元気な地域には、その魅力に惹かれて移住する人、定期的に足を運んでくれる人が増えます。移住対策のカギは、地域の活力です」。
県ではコミュニティナースのさらなる配置や育成の支援に取り組む考えです。
「病院の向こう側」に抱いた予感
奈良県のように、地方自治体によるコミュニティナース普及の取り組みは徐々に広がりを見せていますが、まだまだ一部にとどまっているのが現状。そんな中、地元のまちで独自に活動に取り組もうというコミュニティナースも増えています。
コミュニティナース育成プロジェクト第1期生の北川理恵さん(41)は2016年、地元である滋賀県長浜市内に「アネラ訪問看護ステーション」を開設。ほぼ同じ時期にコミュニティナースの活動をスタートさせました。
市内の総合病院に新卒で入職した後、「病院の向こう側に何かがある予感」を抱いて、27歳で訪問看護師に。しかし、「医療のことは分からない。おまかせします」とすべてをスタッフ頼みにする患者・家族や、信頼関係を築く間もなく看取りになるケースなど、在宅の現場を数多く経験する中で、北川さんは漠然としたモヤモヤを感じるようになりました。
「もっと手前の段階でアプローチできていたら、元気なうちから医療や介護について知ってもらえていたら、違う最期があったんじゃないか」
そんなときに知ったコミュニティナースという看護師のあり方。「訪問看護師として自分がかかわっている範囲がいかに小さいものだったのかと驚きました。目からうろこだったんです」
「医療・介護が必要になる手前」にアプローチする
隔月で開いている寺院での交流会は多世代が集う場に。地域の緩和ケア医が参加することも
民生委員と顔の見える関係をつくったり、医療や介護の話題をまとめたニュースレターを各戸に配布したり、週1回の健康教室に参加したり―。
取り組みに共感してくれた寺院で2カ月に1回、開いている住民との交流会は、たこ焼きパーティーや味噌作りをわいわい楽しみながら、「訪問看護では、こんな患者さんがこんなケアを受けているんですよ」と、在宅医療について自然に知ってもらえる機会にもなっています。
目指していた「医療・介護が必要になる手前からのアプローチ」の実践です。訪問看護師の視点と、コミュニティナースの視点の両方を生かして、地元・長浜の健康づくりに取り組みます。
北川さん自身は現在、訪問看護事業で収入を確保しながら、コミュニティナース活動に取り組んでいますが、「いずれ訪問看護ステーションの事業が軌道に乗ったら、コミュニティナース専門スタッフを雇用できればとも考えています」。
* * *
健康づくりとまちづくりのキーパーソンになり得る看護師「コミュニティナース」。過疎化や高齢化などの課題を抱えている地方を中心に注目度は高まっており、これからも、その輪が広がっていきそうです。
【コミュニティナースプロジェクト】
コミュニティナースを目指す人を支える活動などを展開しているCommunity Nurse Company株式会社(島根県出雲市)は、コミュニティナースプロジェクト第6期講座の受講生を募集中。応募は2018年4月20日まで。詳細は「コミュニティナースプロジェクト第6期 募集要項」。
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
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