事実の捉え方は、人の数だけある |ナースのお悩み処方箋【23】

「事実の捉え方は、人の数だけある」

 

 

この業界の片隅で看護師をやって、15年以上の年月が経ちました。

一緒に働くナースやドクターなど、イロイロな……本当に色々な人と出会ってきました。

 

患者さんの人生に寄りそうような看護をする熱心なナースもいれば、病院にいる間に発生する時間給のみを考えている、効率的(?)なナースもいました。

 

いつ出勤しても姿を見かける、医局の片隅で寝泊りしているドクターもいれば、ドクターコールしてもなかなか来ずに、来たら来たで、アルコール臭をプンプンさせているドクターもいました。

 

私は心が狭いので、真面目な態度で職務に臨めない人は、基本的に嫌いです。

嫌いな人は見ているだけでイライラするし、状況が許すのなら口も利きたくありません。

仕事に対してどうしてそんな取り組み方しかできないのか理解できず、同じ病院名札をつけていることさえも嫌だったこともあります。

 

若い頃はもっと頑ななところがあったので、そういった人に対して、自分で思っている以上に態度に出ていたのでしょう。

 

そんな折、たまたまシーツ交換で組んだベテラン看護助手さんが苦笑混じりに教えてくれました。

 

「人の顔にはイロイロな面があるものだから、仕事の取り組み方だけでなく、もっと相手のことを知ろうとしてごらん」

――と。

 

その時は軽く受け流した程度でしたが、なんとなく気になって、それまで「嫌いだ!」と、避けていた人のことを、少しだけ注意深く観察するようにしてみました。

 

他の人と交わされる雑談を聞くともなしに聞いているだけで、今まで私が気づかなかった、見ようともしなかった、その人の『事実』が見えてくるものです。

 

熱心なナースは、必要以上に相手に近付きすぎて、結局、心身を病んでしまい、職場を去ってしまいました。

 

仕事に熱心に取り組んでいないように見えるナースは、お子さんが受験を控えた上に、家族に要介護者を抱えることになったという、大変な状況でした。

大変な状況とはいえ、家計の都合で仕事を辞めるわけにもいかず、他の病院とのかけもち勤務をしていました。

 

病院に寝泊りしていた若いドクターは、家賃滞納で借りていた住居を追い出されただけでした。

大きな荷物は実家に送り、必要最低限の衣類などを持ち込んで、医局の片隅に『巣』を作っていると聞いた時は、唖然としました。

勤勉ゆえではなかっただなんて、知りたくなかった事実です(笑)。

 

いつもアルコール臭を漂わせていたドクターは、傾きかけた病院の存続のために奔走していました。

関係各所と接待を繰り返して、結果、健康を害してしまいました。

 

――人は自分の価値観というバイアスをかけた上でしか、物事を見ることができません。

 

ものの見方なんて、人の価値観によって、それこそ人の数ほどあります。

結果的に、何が良くて、何が悪いかなんて、ひとりのナースのものさしでは測れるものではありません。

 

それでもやっぱり、仕事というものに真摯に取り組まない人は嫌いです。

ただ、嫌うだけでなく、もしかしたら何らかの事情があるのでは、と考えるようにしています。

 

見えているのは、その人、その事象の一側面でしかありません。

 

見えているもの全てをプラスに捉えろ、というわけではありませんよ。

共感できること、できないこと。

尊敬できること、できないこと。

見えたままを受け入れればいいんです。

 

ただ、見えている一つだけを取り上げて、それがその人の全てだと思わなければ、マイナスの感情に振り回されなくても済むのではないでしょうか。

 

 


 【岡田久美】 兵庫県出身。看護書籍の編集とゲームシナリオライターを本業に、フリーの看護師として活躍中。いつでもどこでもどんなところでも勤務できるオールマイティな看護師を目指し、これまでの勤務職場は病院、クリニックなど30以上。

著書に「看護師の流した涙」(ぶんか社)がある。

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