EPA看護師と働くとはどういうことか?【最終回】良い影響を与え合うパートナーとして
私が勤務している病院では、2010年よりEPA外国人看護師の受け入れを開始し、2018年5月現在、8名のEPA外国人看護師が働いています。
この連載では、私がEPA外国人看護師と協働して感じたことやそのエピソードをお伝えし、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
【文:小林ゆう(看護師)】
外国人看護師と共に働く現場から
【最終回】良い影響を与え合うパートナーとして
◆目次
EPA看護師仲間が帰国するときには…
私は現在、急性期病棟でマリアとホセ、2人のフィリピン人看護師と協働しています。
病院全体では8名のEPA看護師が在籍している中で、ほかの病棟から1人、帰国が決まりました。
母国で結婚するための帰国なので、おめでたいことではあるのですが…。
仲間が減るのは寂しいもので、マリアやホセの精神面には少なからず影響があります。
なんとなく覇気がなく、笑顔がぎこちなくなったりします。
仲間がいなくなる寂しさと、母国に帰れる羨ましさが混在した複雑な感情になるようです。
2人とも、自ら口に出すことはありませんがその思いは伝わってきます。
落ち込むEPA看護師に周囲ができるケア
そのため、EPA看護師の退職者(帰国者)が出るときには、マリアとホセへのケアが必要になります。
主には師長がその役割をするのですが、私たちも時間があるときには声をかけます。
具体的には、まず心にためたモヤモヤを吐き出させることです。
何を感じて、どう思っているのか、自分(マリアやホセ)はどうしたいのか、など可能なかぎり聞いていきます。
…といっても、私たちにできることはそれくらいしかないのです。
フィリピンに恋人がいるマリア
帰国が決まった退職者はいわゆる寿退職なので、同じく母国の彼と結婚を考えているマリアにとっては相当なダメージだったようです(マリアの将来設計や来日した経緯について詳しくは「EPA外国人看護師が日本にやってくる本当の理由」)。
周囲の看護師ができるだけマリアに声をかけ、フォローをしたのですが、落ち込んだままなかなか気持ちが上向きません。
夜、眠れないとこぼすようにもなりました。
睡眠不足で仕事に集中できていないのがわかります。
勤務中も単純なミスをするようになりました。
そのため、師長の計らいでマリアは10日ほど休暇を取れることに。
リフレッシュのために帰国できることになったのです。
マリアにとって1年半ぶりの帰国となりました。
帰国できることが決まったマリアは、落ち込んでいたことが嘘のように元気に。
休暇は1カ月先でしたが、それでも楽しみができたため完全復活です。
ひどく落ち込んだ時には、周囲のサポートも必要ではあるのですが、祖国へ帰ることが何よりの薬なのかもしれません。
マリアの姿を見たホセは…
しかし今度はホセに問題が発生。
ホセは、退職者(帰国者)が出たときにはマリアほど落ち込むこともなく、短期間で普段通りに戻っていました。
ところが、マリアのリフレッシュ休暇の話を聞いて、また落ち込んでしまいました。
「自分も帰りたい」と言い出したのです。
その様子を見た病棟師長としても、片方はリフレッシュの名目で帰国できるのに、もう片方は何もなし、というわけにもいきません。
結局、マリアと交代にはなりますが、ホセも休みをもらって帰国することになりました。
EPA看護師は日本人看護師より優遇されている?
そういった意味では、EPA看護師は非常に優遇されているな、と感じるのは私だけでしょうか。
確かに家族と遠く離れた見知らぬ土地でその国の言語を取得しながら仕事をする、というのは大変なことだと思います。
しかし彼らは皆、自ら望んで来日しているはずです。
精神的に落ち込むことがあると夏休みでもないのに、10連休(有休)がもらえるのです。
羨ましい限りです。
…私も申請したら10連休がもらえるのか、試してみようかしら。
(夏休みでもない時期に、10連休を取るって言ったらたぶんあちこちから反感を買うこと間違いなしですが)
マリアとホセの成長
協働している身としては、こんなふうに複雑な心境になることも多々あります。
しかしもちろん、彼らは共に働く職場にたくさんの恩恵を与えてくれます(参考記事:「人員増」だけではない。EPA外国人看護師がもたらす恩恵)。
最近では、仕事に慣れてきたマリアとホセが業務上のフォローをしてくれることも。
彼らは、平日の日勤業務のみなので、日中行われる検査などの動きをよく把握してくれています。
ある日、薬剤が変更になっていた患者さんの情報がうまく伝わっていないことがありました。
なぜそうなったのか知っている人はいないかと探っていたところ、マリアが「ソレ!造影の検査デカワッタ!」と一言。
一同、納得。
「おー!マリア、ありがとう」の瞬間でした。
そしてまた別の日。
ホセが医師と話をしている姿がありました。
医師は何やら考え込んでいるような雰囲気です。
サポートが必要かな、と近づくと、ホセいわく「患者さんがどうしても水が飲みたいと訴えている」とのこと。
その患者さんは肺炎の疑いがあるため禁飲食になっていました。
結論から言えば、次の検査の結果が出るまでは禁飲食で、という指示は変わらなかったのですが、
「口を湿らす程度なら良いでしょう」と新たな指示をもらうことができました。
ホセは満足そうな表情をしていました。
受け身であることが多かったホセでしたが、自ら医師に打診していた姿には成長を感じることができた瞬間でした。
お互いに良い影響を与え合うパートナーとして
彼らはスタッフとして、日々健闘しています。
何よりも、少しずつ成長している姿を見ているととてもうれしく思います。
ホームシックに苛まれたりと、つらいことも多々ある中で頑張っている姿を見ることは私たちの励みになります。
うまくいかないと「もう辞めたい」と言ったりすることは今でも変わりませんが、何とか彼らが頑張れるように、私たち周囲のスタッフもできるケアをしていくまでです。
そして今年(2018年)の夏、新しいEPA看護師が数名入職してきます。
マリアとホセが先輩になることによって、さらなる成長がみられることが今から楽しみです。
フィリピンとのEPA(経済連携協定)開始から10年という節目に
フィリピンとのEPA(経済連携協定)が開始され、今年(2018年)で10年という区切りを迎えます。
まだまだ私たちも手探りで協働を進めており、EPA看護師と共に頑張っている途中です。
お国柄の違いや文化・宗教的な違い、言葉の壁や時間感覚の違い、そして周りの偏見など簡単には超えられない問題が山積みです。
こういった現状を多くの人に知ってもらうためには、現場の看護師が声を上げていくしかないと思います。
この連載は、今回で最終回になります。
今まで外国人看護師に関して知らなかったという方、今現在、外国人看護師と共に働いている仲間、そしてこれから働くことになるかもしれない方々に今回の連載が少しでもお役に立てば幸いです。
(参考)
インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて(厚生労働省)
【ライター】小林 ゆう(看護師)
関東在住。総合病院で勤務する傍ら、看護師ライターとして執筆活動をしている。子育てに奮闘しながらも趣味のライブやダイビングに熱を注ぐ40代。
【イラスト】明(みん)
看護師・漫画家。沖縄県出身。大学卒業後、看護師の仕事の傍らマンガを描き始める。異世界の医療を
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