ガウンテクニック|いまさら聞けない!ナースの常識【19】
毎日の業務の中で触れているけど、『いまさら聞けない』ことってありませんか?
知ってるつもりで実は説明できない基礎知識や、ちょっと気になるけど調べるほどでもないな、なんてこと。
そんな看護師の素朴な疑問を、元看護師ライターがこっそり教えます。
Vol.19 ガウンテクニック
「ガウンテクニック」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。
病院内で必要となる「ガウンテクニック」には、2通りある。
1つは、未滅菌ガウンを着用して患者や医療者を院内感染から守る場合。
もう1つは、救急外来や手術室などで滅菌ガウンを着用する場合だ。
どちらの場合も、正しい使用方法や注意点がある。ここでおさらいしておこう。
ガウンテクニック1:未滅菌ガウンで良い場合
一般的に病棟などで必要なガウンテクニックはこちらの未滅菌ガウン。着用の目的は2つある。
(1)易感染状態の患者を感染源(病室外の病原体)から守る
(2)感染性病原微生物を排出している患者から医療者や他の患者を守る
どちらを目的とする場合でも、基本的に、ガウンかけが病室内にある場合はガウンを外表にかけておく。ガウンかけが病室外にある場合、ガウンは中表になる。
これはどちらの場合も同じだが、(1)と(2)では、ガウンの裏表の清潔度が違う。
(1)易感染状態の患者を感染源(病室外の病原体)から守ることが目的の場合
ガウンの裏側は、看護師などの医療者の衣服などを経由して、病原微生物が付着している、とみなす。つまり、表側の方がより清潔とみなすことになる。
(2)感染性病原微生物を排出している患者から医療者や他の患者を守ることが目的の場合
ガウンの表側が患者の排出する病原微生物がいる、とみなす。つまりガウンの裏側がより清潔となり、ガウンの表側に触れた手で病室外のものに触れると、それが院内感染の原因となるのだ。
ガウンテクニック2:滅菌ガウンを使用する場合
滅菌ガウンが必要なシチュエーションは、救急外来、手術室、内視鏡室、血管造影室(一般病棟でも特別な処置が必要な場合)などであろう。いずれも、患者が出血している、あるいはこれから患者を出血させることが想定される場面だ。
人の感染からのバリア機能として最大なのは皮膚だ。皮膚にダメージを受けている、あるいは皮膚を切開することで、人の感染リスクは一気に高まる。そのため、医療器具やリネンは滅菌済のものを使用し、患者や滅菌物に直接触れる医療者は滅菌ガウン・滅菌手袋の着用が必要となる。
【滅菌ガウンの着方】
まず、ガウンの表側は全て清潔、裏側は自分に触れた時点で全て不潔とみなす。
手術や処置の途中でガウンを交換する時は、ガウンを全て裏返しながら脱ぎ、再度新しいガウンを着る。細かいようだが、手袋も表側は清潔、裏側は不潔(手洗いをしているので準不潔という言い方もされる)とみなす。また、襟元から肩・自分の腹から下・自分の背面は全て不潔とみなされる。
つまり、清潔でいられるのは、自分の胸から臍くらいまでの前側と袖だけだ。実はとても範囲が狭い。
滅菌ガウン着用時の清潔範囲
ガウンテクニックのやりがちな失敗例
ガウンに限ったことではないが、清潔と不潔、よりキレイとよりキタナイは、一目見て分かるものではない。看護師を含む医療者は「だいたいここまで」のルールを決め、暗黙の了解のうちにそれに則っている。
例えば新人看護師や研修医など、まだ慣れていない場合にありがちな失敗例を挙げてみた。
【未滅菌ガウンの場合の失敗例】
ガウンかけへのかけ方を間違えた
中表と外表を間違える例は多い。これが逆になると、易感染性の患者を不用意に感染させてしまう、あるいは隔離患者から医療者を経由した院内感染が起こる。医療者が感染する場合もある。
自分の素手で触れてはいけない方に触れた
ガウンの表を清潔とする場合、ガウンを着ることになれていないと、一度ガウンの裏側に触れた手で表に触れることがある。せっかくスタンダードプリコーションとして手指消毒をしていても、これでは表が不潔になってしまう。
逆に、ガウンの裏側をより清潔とする場合、ガウンの表に素手で触る→自分の服に触れる→そのままガウンを着る、となると今度は自分が病原微生物を振りまくことになってしまう。
【滅菌ガウンの場合】
ついうっかり不潔物に触れたかもしれない
ガウンのそではふわふわしているため、ガウンが触れた=自分に触れた感覚があった、とは限らない。「かもしれない」の状態でも、患者を感染から守るためには、最初から(場合によっては手洗いから)やり直すことになる。
ガウン着用中の姿勢に問題あり
ここで問題。次の3つの写真のうち、やってもよい体勢はどれか。
正解は、全部ダメ。
(1)のようにガウンと手袋着用したあとで未滅菌のものに触れるのはご法度(このノートとペンが滅菌済なら良いが)。この時点でガウンと手袋を交換する必要がある。
また、もし仮にこれが手術や処置のあとなら、ガウンや手袋に患者の血液や体液が付着しているはずなので、着用したまま手術や処置に使用したもの以外に触れるのは、スタンダードプリコーションの意味からもやってはいけない。
(2)は一見良さそうに見えるし、この体勢で入ってくる医師もいる。しかし実際は、自分の臍あたりから下は不潔とみなす上、この状態では周囲の不潔物に容易に触れてしまうため、新人看護師がこれをやると「出て行け!」と言われることもある。
(3)はずいぶん楽しそうにみえるが、これもダメ。自分の襟元から胸までは不潔とみなすので、それより上に手を挙げるのは、やはり不潔とみなされる。
ガウンを着用した時は、目の前にいる患者より、自分がより清潔なのか不潔なのか、これを常に念頭においておく必要がある。また、実際の清潔不潔は目に見えないため、境目の判断は医療者のモラルによるところも大きいのだ。境目は目に見えない。
だからこそ基準をしっかり理解したうえで判断するとが重要となる。
【岡部美由紀】