最近話題のケミカルコーピング、看護師だからできること

緩和医療の現場では最近、「ケミカルコーピング(Chemical coping)」が話題になっています。

 

ケミカルコーピングとは、オピオイド鎮痛薬を身体的な痛みの緩和ではなく、「精神的な苦痛を軽減する目的」で使用すること。オピオイド依存の前段階とされています。

 

オピオイドといえば、乱用問題が深刻化しているアメリカで非常事態宣言が出された(2017年10月26日)というニュースも記憶に新しいところですが、オピオイドの不適切な使用はアメリカだけの話ではないのです。

 

ケミカルコーピングについて、看護師が知っておきたいポイントを解説します。

 

ケミカルコーピングのイメージ画像

 

がんサバイバーの増加で増える「ケミカルコーピング」

ケミカルコーピングが注目されている背景の一つに、がんサバイバーの増加があります。

 

早期発見と治療成績の向上によって、がんと診断された後も長く生きられるサバイバーが増えています。一方、がんサバイバーは、疾病そのものや治療に伴う痛みだけではなく、再発への不安や生活に関する悩みを抱えているもの。不眠や抑うつ症状を示す人も少なくありません。

 

こうしたがん患者・サバイバーの心理的ストレスに対して、抗不安作用のあるオピオイドが不適切に使われている場合に、ケミカルコーピングが疑われるというわけです。

 

ケミカルコーピングの状態が続くと依存に至り、オピオイドの減量・中止は困難になります。

 

「気分がすーっとする…」、オピオイド処方が増えていった男性患者

このケミカルコーピングに関して、看護師が負う役割や責任は小さくありません。

 

例えば、京都府立医科大の谷口彩乃氏(疼痛・緩和医療学)らが、次のような症例を報告しています。

 

患者さんは、化学療法を受けて骨盤内腫瘍が消失した後も左足の痛みやしびれが残ったという60代の男性。患者さんからの痛みの訴えに、看護師は、レスキュー薬としてオピオイド速放製剤を勧めました。「WHO方式がん疼痛治療法」に基づいた対処です。

 

その結果、1日5回にまで使用が増えてしまいました。

 

この患者さんは実は、足の痛みと同時に、病気に対する不安や化学療法の副作用のつらさを訴えていました。オピオイド徐放製剤を増量したにもかかわらず、「気分がすーっと落ち着くから、もらっておきたい」と速放製剤の処方を希望していた、と報告されています。

 

ケミカルコーピングに陥った患者への対応は?

ケミカルコーピングと判断されたこのケースでは、緩和ケアチームが介入して次のような対応を行いました。

 

 

  • 患者の痛みは、非がん性神経障害性慢性疼痛で長期にわたって続くと診断、「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン」に則った薬物治療を行った
  • 看護師に、レスキューとしてのオピオイド速放製剤の使用はこのケースで推奨されないことを指導した
  • 患者にも、オピオイド速放製剤は強い痛みがある時のみに使うことなどを指導した
  • 鎮痛補助薬としてアミトリプチンを併用した

 

左足の痛みは徐々に緩和し、発症から2年後、オピオイドを含むすべての鎮痛薬の処方を終了したそうです。

 

症例を報告した谷口氏は、「患者のQOLを損なわないためには、医療従事者は痛みの原因を正しく鑑別し、オピオイド鎮痛薬の特性を十分理解した上で、各々の対応方法を確実に実践すること」が大事だとしています。

 

適切な痛み評価へ、看護師としてアプローチできること

痛みの原因を正しく判断し、適切にアセスメント(評価)すること――。

ここにこそ、看護師としてアプローチできる強みがあるのではないでしょうか。

 

ケミカルコーピングの問題に詳しい獨協医科大の山口重樹教授(麻酔科学講座)は、患者の抱えるさまざまな「心のつらさ」に焦点を置いて対応するべきだとして、次のように指摘します。

 

「誰にも理解してもらえず、孤立する患者の存在に気が付かなければならない。そして、孤独な闘い(療養)を続ける患者が置かれている癒やされない環境にも目を向ける必要がある。ケミカルコーピングに陥るがん患者の背景は決して容易に理解できるものではないことが、この問題をより複雑にしている」(『ケミカルコーピングと偽依存(週刊医学界新聞第3244号)』)

 

オピオイドはがん患者のQOLを向上させる、緩和医療になくてはならない医薬品です。

 

オピオイド依存につながるケミカルコーピングは避けるべき問題ですが、ケミカルコーピングを疑うあまり、本当にオピオイド処方が必要な患者さん、緩和ケアの効果が不十分なためにオピオイドを求めている「偽依存」の患者さんに適切に処方されないといったことのないように、慎重な判断も求められます。

 

今後も増えるがん患者さんの痛みに寄り添う上で、ケミカルコーピングは看護師としてしっかり意識しておきたい問題です。

 

【烏美紀子(看護roo!編集部)】

 

(参考)

痛みの原因となった腫瘍消失後も遷延する痛みをもつ患者に,オピオイド鎮痛薬の薬物関連 異常行動を認めた悪性リンパ腫の 1 例(緩和医療第11巻3号)

ケミカルコーピングと偽依存(週刊医学界新聞第3244号)

ご存知ですか?ケミカルコーピング(Medical Tribune)

ケミカルコーピングとプラセボ(Medical Tribune)

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