乳がんにも効果が? 注目される“音楽療法”とサウンドヒーリングの違い
音楽のあるホスピスから
Vol.8 音楽療法の研究が進む
2017年3月半ば、乳がんで闘病中の小林麻央さんがブログを更新しました。その記事で紹介された「528Hzの音楽を流す」という治療法が話題になっています。
「今日はあたたかいので色々めくって笑 広範囲の肌から吸収!」と春到来を思わせる日差しを楽しんだ様子。「528Hzの音楽を流しながら 細胞を修復する周波数だそうです。いろいろなお力を借りて、今日も、幸せに」と音楽療法に取り組んでいた。
(サンスポ 3月12日)
この記事では、一定の周波数で音楽を流すことが音楽療法のように紹介されていますが、実はこれは「音楽療法」ではなく、「サウンドヒーリング(サウンドセラピー)」の領域です。
サウンドヒーリングと音楽療法は「音」や「音楽」を扱うという点で共通していますが、両者は全く異なるものです。その大きな違いは何でしょうか?
“信頼ありき”の音楽療法
サウンドセラピーは、音そのものが癒しをもたらすと考えるアプローチ。一方で音楽療法は、セラピストとクライアント(対象者)との治療関係の中で音楽を使う方法です。
多くのセラピーがそうであるように、音楽療法において最も大切なのは、セラピストとクライアントの信頼関係(Rapport)です。音楽が患者さんを直接「癒す」のではなく、むしろ音楽を用いることで、患者さんが回復に向かうような「環境」をつくります。
例えば、最近「◯◯を聴けば◯◯になる」というCDブックが数多く発売されていますが、これらは音楽療法ではなくサウンドヒーリングに近いアプローチと言えるでしょう。
どちらが良いということではなく、患者さんが自分に合ったものを選べるように、セラピーの違いや共通点を明確にすることがポイントだと思います。
日本で年々増加する音楽療法士
私は米国認定音楽療法士として、長年ホスピスや緩和ケアで活動してきました。今日は、私の専門分野である音楽療法の特徴をご紹介したいと思います。
まず初めに、音楽療法は第ニ次世界大戦中に欧米ではじまった学問です。
音楽療法はトレーニングを積んだ音楽療法士によって行われるもので、国内にも日本音楽療法学会認定音楽療法士が2,700人ほどいます。まだまだ認知度が高いとは言えませんが、医療・介護・福祉など、さまざまな現場で働く音楽療法士が年々増えてきています。
乳がんや早産児の成長に効果アリ
音楽療法はエビデンスに基づく臨床診療で、近年急激に研究が進んでいる分野です。世界各国でさまざまな研究結果が発表されていますので、そのいくつかをご紹介します。
【乳がん】
2012年から2014年にかけてアメリカのオハイオ州にある病院で行われた研究で、音楽療法が乳がんの女性の術前不安を軽減することがわかりました。これは207人の乳がん患者を対象としたランダム化比較試験で、術前の不安、麻酔要求量、回復時間、患者の満足度などを2年間にわたって調べたものです。
【慢性閉塞性肺疾患(COPD)】
2015年に、音楽療法がCOPDの治療に効果的であることがわかりました。これはニューヨーク市の病院で行われた研究で、COPDの患者さん98人を対象としたランダム化比較試験を行ったものです。6週間に渡る試験において、ランダムで選ばれたグループは週に1回、認定音楽療法士のもとで音楽療法のセッションを受けました。その結果、うつ状態と呼吸困難が改善したという結果が出ています。
【早産で生まれた新生児】
2016年、音楽療法には早産で生まれた新生児の呼吸数を安定させる効果があるという新たなレビュー結果が報告されました。これは1,000人ほどの早産児を対象とする14件の臨床試験の結果を調べたものです。それぞれ音楽療法の手法などは異なっていたものの、ほとんどの場合NICU(新生児特定集中治療室)で母親が新生児に歌を聞かせることが含まれており、すべてのケースにおいて認定音楽療法士が関わっていました。
これらの研究結果が示すように、音楽療法にはさまざまな利用法があり、その効果が期待されています。必ずしもすべての人に音楽療法が必要とは限りませんが、正しい知識が広まることで多くの人が音楽療法を受けられるようになることを願っています。
Music Therapy Helps Preemie Babies Thrive(Health Day)
AIR: Advances in Respiration - Music therapy in the treatment of chronic pulmonary disease.(PubMed)
【佐藤由美子】
ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院音楽科を卒業後、オハイオ州シンシナティのホスピスで10年間音楽療法を実践。2013年に帰国。帰国後は青森県在住。15年からは青森慈恵会病院の緩和ケア病棟で音楽療法士として働いている。著書に『ラスト・ソング』(ポプラ社)、『死に逝く人は何を想うのか』(ポプラ社)がある。ハフィントンポスト(日本版)でBlog「佐藤由美子の音楽療法日記」を掲載中。
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