「鏡に映った者」―看護師が体験した怖い話【三】

看護師が実際に体験した怖い話(?)を全5回にわたってお届けする本企画。

 

今回も、舞台は夜の病棟です。

 

「出る」という噂の絶えない病院での夜間巡視中、主人公は予想外の◯◯と遭遇することに……。

 

 

夏の怪談―看護師が体験した怖い話

第三話「鏡に映った者」

 

 

以前、私が務めていた病院は、戦争中に防空壕として使われていた場所を整地して建てられたといわれていました。

 

 

実際どうなのかはわかりませんが、嘘でも「いわく付き」だったことは事実。

 

 

看護師のあいだでも「出る」という噂が絶たえませんでした。

 

 

私はお化けや幽霊の類にめっぽう弱くて、暗い場所も大嫌いです。

 

だからといって「夜勤したくないです」とは言えませんでしたが、当時は子育てをしていたので、幸運にも日勤常勤で働かせてもらうことになったんです。

 

でも、「人手が足りないときは入ってもらえる?」とは事前に相談されていました。

 

私としてもその職場でうまくやっていきたいと思っていたので了承しましたが、入る前に「いわく付き」だと知っていれば、もうちょっと渋っていたかもしれません……。

 

 

 

しばらくは日勤だけで働けていたのですが、やっぱり、どうしても人手が足りなくなるときはやって来るんです。

 

 

病欠や有給などがうまいこと重なったあの日、私は苦手な夜勤に入ることになりました。

 

 

子どもができるまでは普通に夜勤に入っていたし、新しい病院でも特に大きなギャップを感じなかったので、仕事はちゃんとこなせました。

 

 

ただ、「出る」といわれる病院での夜間巡視は、嫌な緊張感があります。

 

 

 

ひとまずトイレ介助のナースコールラッシュは一段落。病室を見て回って、特に異常なし。

 

 

たぶん、深夜2時過ぎだったと思います。私はその足でリハビリ室に向かいました。

 

 

患者さんがいるとわかっている病室とは違い、そこは誰もいないはずの場所。

 

 

 

「もし誰かいたら」と思うと、余計に怖くなりました。

 

 

でも、これは仕事。

 

そう割り切った私は、懐中電灯を片手に、そっと扉を開きました。

 

 

 

中へ入ると、うすら寒い空気が全身にまとわり付いた気がしました。

 

 

 

きっと何もいない、寒いのは気のせいだ。

 

 

 

そうやって自分を奮い立たせましたが、一度意識した恐怖はなかなか体から出ていってくれません。

 

 

 

それでも少しずつ、奥のほうへと歩き出しました。懐中電灯で、奥の壁を撫でるように照らしながら。

 

 

 

 

でも、私はすぐに立ち止まることになりました。

 

 

 

 

視界の隅で、なにかが動いたから。

 

 

 

 

これは気のせい、きっと気のせいだ。

 

 

 

 

 

私はゆっくりと、その方向に首を回しました。

 

 

 

 

私は自分に言い聞かせました。

 

 

 

 

誰もいない。誰もいるはずがない。

 

 

 

 

 

 

でも、いたんです。

 

 

 

 

 

 

こちらに向かって歩いてくる、白い服を着た女が。

 

 

 

 

 

 

私は声にならない悲鳴を上げました。

 

もう泣きそうでした。

 

しばらく動けませんでした。

 

 

けれど、「急に近寄られたら」と思うと恐ろしくて、私は目の端でその女を睨み続けていました。

 

 

 

 

そして、思いついたように、懐中電灯の光を女に向けたんです。

 

 

 

 

 

すると、まぶしい光が私を襲いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうです、その女は、リハビリ室の鏡に映った、ナース服姿の私だったんです。

 

 

ホッとした瞬間、堰を切ったように涙がこぼれ落ちました。

 

 

 

こっそり化粧を直してからナースステーションに戻ったことは、誰にも言っていません。

 

 

旦那の仕事の都合で今はまた別の病院に勤めていますが、あんな恥ずかしい経験は二度としていません。

 

むしろ、あれ以来夜勤が怖くなくなったので、逆によかったかなとも思います。

 

 

おわりに

皆さんにも、鏡や窓ガラスに映った自分を見てドキッとしたことはありますか?

 

「一瞬、自分が幽霊に見えた」という経験は意外と多いみたいですよ。

 

 

ただ、この主人公は何かを見落としている気がします。

 

 

 

どうして鏡に映った彼女は、彼女に向かって歩いてきたのでしょうか?

 

 

 

 

彼女はすぐに立ち止まったはずなのに……。

 

 

 

 

 

第四話につづく――。

 

 

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