上から目線の医師に苦手意識が…うまく接するコツを医療コーディネーターに聞いてみた
看護師の仕事において重要な要素である、医師とのコミュニケーション。例えば患者に処方する薬の種類や量、与薬方法など、日々変化するこうした情報は、すべて医師のもとで看護師が実施します。看護師の仕事とは、医師とのコミュニケーションが基盤にあると言っても過言ではありません。にも関わらず、「医師とのコミュニケーションがうまくいかない」と悩んでいる人は、少なくないようです。
例えば、ある入院患者が毎朝飲んでいる薬があるのに、ある日に血液検査があり、担当看護師がその検査結果を待って与薬するものと思い込んで薬を出していなかった……。これに似た事態に出くわした経験がある人は、少なくないでしょう。まさに、医師と看護師のコミュニケーション不足が引き起こした事態の典型例と言えます。
なぜ、こうしたコミュニケーションの問題が起こるのでしょうか。
医師と患者の橋渡し役を担う医療コーディネーターとして長年にわたり活動し、医師と患者、双方の立場や考えを熟知している深津より子さんは、次のように話します。
「医師の中には実力以上にプライドが高く、態度や言動が常識外れであると感じさせる人もいます。そんな医師の言動が苦手だと感じる看護師は少なくないため、つい、細やかなコミュニケーションを怠ってしまうケースが見られるのです」(深津さん)
では、どうしたら医師と上手にコミュニケーションがとれるようになるのでしょうか。
「医師であっても、同じ人間。決して臆する必要はありません。医師であるという立場を尊重し、『同じ医療現場で一緒に取り組んでいる仲間』として対等な意識を持つべきです。患者さんのことをいちばんよく見て、理解し把握しているのは、看護師ですから」(深津さん)
具体的に、医師と上手にコミュニケーションをとるためにはどんなことに気を付けたらいいのか、深津さんにそのポイントを教えてもらいましょう。
まず、壁を作っている自分に気づくこと
嫌味たっぷりに間違いを指摘されたり、厳しく叱咤されたりすると、指摘する内容がどんなに的を射ていたとしても、反発を感じてしまうものです。しかし、感情で処理してしまって得るものはなにもありません。指摘を受けたときは、それを素直に受け止める強さを持つようにしましょう。
「たとえ相手の医師から感情的に指摘されたとしても、決して感情的に反応して仕事をしてはいけません。看護師は医師よりも、仕事を通して人間力が鍛えられていますから、大人になって対応することができるはずです。大事なことは、相手に対して苦手意識を感じて逃げるのではなく、冷静に、自分の意見をしっかり伝える態度を示すことです」(深津さん)
相手のいい面を探す
人は誰しも、いいところもあれば悪いところもあるもの。いい面が見えるのか、悪い面が見えるのかは、見る人の心次第で変わるはずです。苦手に思う相手ほど、よく観察していい面を見つける努力をしてみてください。すると、相手を“いい人”だととらえる意識が高まり、自分自身の心がポジティブに変わっていきます。すると結果的に、いい関係を築けることができるのだそうです。
例えば、いつも厳しい言い方で指示するために、苦手と思われがちな医師がいるとします。その医師について、どんな気持ちで仕事に取り組んでいるのかを想像してみると、「人に厳しいということは、それだけ、もしくはそれ以上に自分にも厳しい人かもしれない」という推測ができます。実際にそういう目でその医師をよく観察してみると、それまでは気づかなかった勉強熱心な一面を発見できるかもしれません。
すると、「あれだけ勉強熱心な先生なのだから、その指導は多少厳しくても自分にとって勉強になるはずだ」と、好意的に考えることもできるでしょう。すると、自分自身の仕事への取り組み方が以前よりも前向きになり、その変化に医師も気づいて褒めてくれるかもしれません。そうなると、お互いの信頼関係が深まります。
「人は、自分を理解してくれる相手を、嫌いにはなれないものです。だからこそ、苦手な医師のいい面を理解するよう努め、その長所を意識しながらコミュニケーションをとると、お互いの距離が縮まっていくでしょう。問われているのは相手の行動ではなく、“自分自身”の考え方や態度であると、気づくことが大切です」(深津さん)
必ず自分の“口”で伝え、“目”と“耳”で確認する
医師とのコミュニケーションをスムーズにするためには、信頼関係を築くことが前提となります。そのためには、“伝えたつもり”などの思い込みをしてしまわないように、必ず自分の口で直接伝え、自分の目と耳で直接確認することを徹底するべきです。
「看護師の現場で起こりやすいミスは、思い込みが原因のものが多いです。ひと言言葉を交わして確認すれば防げるはずのものであり、そのミスの背景には、必ずコミュニケーション不足が指摘されます。『ミスは起こるものだ』という前提で、なにごとも必ず自分の目と耳で確認しましょう。他人から口頭で言われたことは、その場で必ず、正確にメモすることをルールにするのがおすすめです」(深津さん)
また、医師から「~してください」と指示を受けたら、必ず「~ですね」と繰り返して、間違いがないように確認をするのもいいでしょう。こうしたコミュニケーションをとることでミスが予防できるのはもちろん、ミスを起こさないようにしようという意識が医師にも伝わるので、信頼が高まり、コミュニケーション自体がスムーズになります。
ストレスの多くは、人間関係が原因と言われています。医師とのコミュニケーションがうまくいかず、ストレスをためていると、それが患者さんに伝わって不安にさせてしまうと、深津さんは言います。患者さんに安心してもらうためにも、医師とのコミュニケーションを円滑にする工夫を前向きに取り入れてみてください。
監修 深津より子さん
1982年横浜市立大学医学部付属看護学校卒。現在の横浜市立医科大学付属市民総合医療センターに3年間勤務後、結婚と育児のため退職。1998年から大和成和病院で手術室配属の看護師として勤務、1998年に手術室看護師長、2000年より心臓外科医療コーディネーター兼任。2010年12月から東京ハートセンター手術室看護師長兼心臓外科医療コーディネーター、2015年12月から昭和大学横浜市北部病院循環器センター心臓血管外科医療コーディネーター。
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