保健師のうち7%のレア職場!企業でサラリーマンを支える「産業保健師」の仕事とは?

看護師として働いていると、実は「なんとなく」しか知らない保健師の仕事。改めて保健師の職場を紹介すると共に、具体的な仕事内容や長所・短所、看護師から保健師に転職した人がよく感じていることなどをご紹介していきます。

 

看護師が意外と知らない保健師の仕事

Vol.3 企業内でサラリーマンを支える「産業保健師」

 

産業保健師とは、民間企業で社員の健康維持管理を行う保健師のことです。就業者数は保健師全体の約7%とかなり少なく、定期的な採用をしているのは大手の健保組合などに限られているようです。

 

仕事内容は勤める事業所の規模、工場か本社かなどの違いにより大きく変わります。市町村区や都道府県の行政保健師が赤ちゃんからお年寄りまで対象としているのに対し、産業保健師は働く世代のみ、18~65歳程度の人が対象になります。

また、大企業では自前の健保組合を持ち、そこで保健師を雇う形態がある一方、中小企業では同業が集まり健保組合を作っているケースもあります。その場合、一人の保健師が複数の中小企業をかけもちすることもあり、働き方が異なります。

 

看護師から産業保健師になった場合の長所・短所

(長所)

・看護師としてのスキル(病気やケガの応急処置や医師のサポート)を生かしやすい

・介入するのは働く世代に限られる

・企業によっては福利厚生が充実している

 

(短所)

・保健師職がひとりだけのことがある

・給料は企業の業績次第

・事業所によっては、毎日健診でデータ整理に追われることも

 

産業保健師の配属先と仕事内容

産業保健師の場合、メーカーなどの工場配属か、本社など事務系組織への配属かによって業務内容がかなり変わりますので、注意が必要です。採用時に配属先も含めて決定することがほとんどです。

 

●工場

工場では職務中のケガや病気に即対応することが求められます。病棟や外来で処置していた経験があれば、活かせる場面は多いでしょう。

とくに自動車や家電、鉄鋼などの工場では、工作機械や薬剤などを使用するので危険度が高いことや、溶鉱炉の近くなど過酷な作業環境もあることから、医務室や健康管理室といった独立した部署に配属されるケースがあります。何か起これば即対応することはもちろん、危険物を扱う人は、一般の健診よりも頻繁に、厳しい基準で健康管理を行うことが必要です。

 

定期的な仕事の代表は健康診断。カルテ出しから誘導、日程の調整、受付、測定、採血、保健指導までひと通り行います。さらに、前述のような特殊な溶剤や機械を扱う人には特殊健診を案内します。

そのほか、社員の健康を守るという観点から禁煙指導、よりよい職場環境維持のための社内巡視なども保健師の仕事。栄養管理にも関わるので、社員食堂があればそのメニュー会議にも出席することもあります。

 

昨今はうつ病など、メンタルヘルスの取り組みに力を入れている企業も多く、メンタルの不調が疑われる社員を精神科医につなげたり、復職支援に関わる機会も増えています。ただ、産業医=精神科医というケースは少ないため、保健師自ら産業カウンセラーの資格を取り、相談に役立てようとする方も見受けられます。

つまり、看護師としての臨床経験、保健師としての経験、どちらも活かせる場といえるでしょう。

 

●本社など事務系の職場

社員の健康管理という基本業務は工場と同じです。健診や社内巡視もあります。

工場と異なる点は、

・特殊健診がない

・メンタルヘルスの相談が多い

・事務作業が多い

等があげられます。

 

その企業全体の安全衛生をつかさどる会議に出席したり、健康目標に関わるなど、全体を俯瞰する仕事も増えます。企業によっては看護能力だけでなく、交渉力や時事・経済の知識も求められます。

 

●その他の職場

同業他社で構成されている〇〇健保組合や、中小企業の従業員を対象にした協会けんぽなど、複数の企業が加入している健保組合の保健師は、全体の統括や、加盟企業への訪問などを行います。

 

産業保健師の待遇とやりがい

これはもう、企業の力に大きく左右されます。大企業や基盤がしっかりした企業であれば、福利厚生や給料などの保障がしっかりしていますし、住宅手当など手当の手厚さも魅力です。

 

夜勤がない分、交代勤務と比べると給料は下がるかもしれませんが、その分、体は楽になるはずです。また、経験を積んでいくことで昇給が重なり、結果的に収入が増えることも期待できます。

 

一方、仕事でPCを使ったり、他部署の人たちへのプレゼンを行う必要もでてきます。「ケアを再優先に」という看護師の論理だけで動くことはできず、その企業の一員としての常識が求められます。社会人としての基礎が備わっていることも大切です。

 

雇用形態は社員に限らず、嘱託や契約も増えています。報酬や身分は正社員にはかなわないものの、民間企業ですから、そこで能力を発揮すれば正社員への道も開きやすいかもしれません。

 

産業保健師の魅力は、働く世代にしっかり介入できることです。行政保健師だと、あくまで国保被保険者が対象で、健診を勧めても相手の都合が優先され、なかなか深く入り込めません。しかし、産業保健師は業務命令として健診を受けさせるなど受診率は100%に近く、行政では対象にならない、若い世代にも深く関わることができる魅力があります。

 

産業保健師に向いている人

メンタルヘルスの対応では相手の話をじっくりと聞いて、周囲につなげていく能力も必要です。豊富な社会経験と包容力、何事にも興味を示す姿勢など、社交的で明るい人が向いています。

 

【西内義雄】

医療・保健ジャーナリスト。足で稼いだ取材で、47都道府県、全ての地域に顔見知りの保健師がいるのが強み。雑誌を中心にした取材・執筆活動のほか、各地の保健師研修で講演も行っている。All About保健師ガイド/HSP東京大学医療政策人材養成講座5期生/H-PAC東京大学公共政策大学院医療政策・研究ユニット、医療政策実践コミュニティ5期生

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