映画『或る終焉』からの問い|患者に「死なせてほしい」と言われたら?

患者さんに“死なせてほしい”と言われたら、どうしますか?

「傾聴する?」「コミュニケーションやケアで患者さんのつらさを癒す?」――本や教科書にはそう載っているかもしれないけれど、ナースの現場はキレイごとだけじゃないですよね。

 

「死なせてほしい」と言われたときの看護師の葛藤や、確かに生じてしまう暗い気持ちをありのままに描いた映画『或る終焉』が、今年5月に公開になります。

 

カンヌ国際映画祭 脚本賞を受賞したこの作品が描く“看護師のリアル”をご紹介します。

 

©Lucía Films–Videocine–Stromboli Films–Vamonos Films–2015 ©Crédit photo ©Gregory Smit

 

映画 『或る終焉』~STORY~

ナースマンのデヴィッドは、終末期患者の在宅ケアを仕事にしている。妻と娘とは疎遠で、一人暮らし。

彼には、在宅看護とエクササイズ以外に打ち込むものはなく、患者が望む以上に、患者との親密な関係を必要としていた。

 

ある日彼は、末期がんで苦しむ老女マーサに「もう死にたい。安楽死を手伝ってほしい」と依頼される。

患者への深い思いと、デヴィッド自身が抱える暗い過去…。

その狭間で苦悩する彼が下した決断とは――。

 

 

「死なせてほしい」にユーモアで対応できますか?

この映画の主人公デヴィッドは、老女マーサに「死なせてほしい」と頼まれますが、それ以前にも違う患者から同じ依頼を受けています。

 

高齢の男性患者に、「もう死なせてくれ。でも死ぬ前に売春婦を呼んでくれ」という内容を頼まれました。

そのとき、デヴィッドはユーモアで切り返しています。

「その元気があるなら、まだ死なない。でも次に呼ぶのは売春婦ではなく、(葬儀のための)司祭だな」。

この返答を聞いた患者は笑顔を見せます。

 

「死なせてくれ」という言葉は重く、「笑い」とはかけ離れた精神状態に思えます。

でも、思い切ってユーモアで切り返すことで、心が和むこともある――さすがのベテラン看護師デヴィッドの手腕といえるかもしれません。

 

特に、デヴィッドと患者の間には、強固な信頼関係があり、その深い関係があるからこそ、ユーモアでの切り返しができたのでしょう。

 

どんなに深刻な状態であっても、患者さんとユーモアを交えた会話ができ、親しく話せる関係を築くことは、看護師の理想の1つかもしれません。

 

しかし、デヴィッドは患者に対して、通常の親密さを超えて、異常に深いつながり関係を求めていきます。

そのように常軌を逸した関係は、良い方向には働きません。

デヴィッドが私生活で抱える孤独とあいまって、次第に彼を追い詰めていきます。

 

©Lucía Films–Videocine–Stromboli Films–Vamonos Films–2015 ©Crédit photo ©Gregory Smit

 

 

終末期にかかわる看護師の負担はどうしたら軽減できるか?

映画の序盤こそユーモアを発揮しているデヴィッドですが、末期がんで苦しむマーサを担当し、衰弱していく彼女を目の当たりにする中で、次第に苦悩が深くなっていきます。

 

テレビを見ていても心ここにあらず、カフェでお茶をしていても突然泣き出すなど、情緒不安定な様子です。

 

しかしこのように、担当している患者さんが死にゆく中で、思い悩み、気持ちが揺れ動くことは、多くの看護師が経験するのではないでしょうか。

日本のナースへのある調査では、「死にゆく患者の運命に、意味や価値を見いだせない苦悩が看護師の心身の負担を強くしている」という結果が出ています。

 

このような心身の負担を軽減するためには、「医療チームで情報を共有し、話し合える関係が必要」だといわれており、訪問看護ステーションや、ホスピス・緩和ケア病棟では、カンファレンスが頻繁に行われています。

 

しかし、デヴィッドには話し合える同僚はおらず、家族とも疎遠…。

孤独な状況と「患者と親密でありたい」という人一倍強い思いが、彼の苦悩を色濃いものにしていきます。

 

©Lucía Films–Videocine–Stromboli Films–Vamonos Films–2015 ©Crédit photo ©Gregory Smit

 

 

国際的には、安楽死が合法の国もある

この映画の舞台は明示されていせんが、国際的には「安楽死」が合法の国もあります。

 

オランダ、ベルギー、ルクセンブルクがその筆頭で、「患者の意思や自律性を重視し、なんでもオープンな議論を好む」という国民性が合法化の背景にあるといわれています。

 

日本では、諸外国に比べ、これまでなされてきた安楽死の議論は少ないといわれています。

今後、さらに深い議論がなされていくのかはわかりませんが、現在は刑法上の犯罪です。

 

この作品の監督は、「それが合法であれ違法であれ、いかに多くの患者がそれを必要としているか、ということ。(本作では、)誰のことも非難するつもりはなく、人間関係がいかに複雑なものかを示したかった」と述べています。

 

「合法か違法か」という議論ではなく、一人の看護師のリアルな感情として、デヴィッドはどのような決断をするのでしょうか。

 

 

おわりに

どんなに医療が進歩しても、コミュニケーションの技術が発達しても、患者さんに「死なせてくれ」と言われたら、看護師は苦悩し、葛藤し、一筋縄ではいかない感情をもつ――この映画では、主人公のデヴィッドを通して、現場のリアルがありのままに描かれています。

 

現場で抱える自分の感情について、客観的に整理して考えるきっかけに、観てみるのはいかがでしょうか?

 

 

■映画情報■

『或る終焉』 2016年5月、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

【キャスト】ティム・ロス、サラ・サザーランド、ロビン・バートレット、他

【監督・脚本】マイケル・フランコ

【公式サイト】chronic.espace-sarou.com

【公式FB】https://www.facebook.com/chronic201605/

【公式Twitter】@chronic_2016

【配給・宣伝】エスパース・サロウ

【提供】ギャガ

 

(参考)

『或る終焉』映画パンフレット(エスパース・サロウ)

緩和ケアに関わる一般病棟看護師の心身の負担度とその要因(PDF)(中村悦子、他)『新潟青陵学会誌』

安楽死・医師による自殺幇助―緩和ケアの臨床家が知っておくべき知識(森田達也、他)『緩和ケア』2015年3月号

 

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