「音楽」という治療がある―ホスピスで働く音楽療法士・佐藤由美子
ホスピス緩和ケアを専門とする音楽療法士・佐藤由美子さんのコラム第一回。「治療としての音楽」と日本の現状、音楽があるホスピスの日常を届けていただきます。
音楽のあるホスピスから
Vol.1 「音楽」という治療がある
皆さんは「音楽療法」と聞いて、何を想像しますか? 病院内でのコンサートや、お年寄りがみんなで楽しく歌っている姿などが思い浮かぶかもしれません。
しかし、音楽療法とは本来もっと専門的なことです。音楽療法は、トレーニングを受け資格を持った音楽療法士によって行われる臨床診療です。
音楽療法のルーツは「戦争のトラウマ」
私はアメリカの大学で音楽療法を勉強し、その後10年間オハイオ州のホスピスで音楽療法士として働きました。
なぜ、アメリカで?と思う方もいるかもしれません。
音楽が癒しにつながるという考えは大昔からありましたが、今日の音楽療法がはじまったのは第2次世界大戦中の欧米です。その当時、戦争によってトラウマに苦しんでいた軍人のため、音楽家が軍人病院で演奏することがありました。
医療現場で働いていた人々や音楽家は、患者が力を取り戻すのを見て音楽の力に気づいたと同時に、音楽療法を行うにはトレーニングが必要だと実感したのです。それが、大学での音楽療法学科設立のきっかけとなりました。
アメリカの医療現場で活躍する音楽療法士
現在アメリカには6000人以上の米国認定音楽療法士(MT-BC)がいて、その内の800人以上が医療現場で働いています。音楽療法の効果がさまざまな研究結果からわかってきたことで、医療現場で活躍する音楽療法士が増えているのです。
主な効果としては、モルヒネを主とする薬物の投与量の減少、不安やストレスからくるうつ病の軽快、吐き気・嘔吐の緩和、QOLの向上などが挙げられます。
終末期看護や家族ケアに音楽を
日本国内にも「日本音楽療法学会」があり、認定音楽療法士も2000人以上います。しかし、日本では音楽療法士が専門職として確立されておらず、音楽療法も普及していないのが現状です。その反面、音楽療法のニーズは増えてきています。
終末期医療に関して言えば、患者さんやご家族に対する精神的サポートの必要性が見直されています。心と体はつながっていますので、体だけ治療しても心の痛みやスピリチュアルペインは残ります。そのような苦痛は、薬で解決することはできません。
また、介護をしているご家族の心のケアも大切です。医療現場で働く音楽療法士は、患者さんだけではなくご家族にも精神的サポートを提供し、心身の健康の回復や向上を促します。
患者との関係性のなかで行う音楽療法
では実際、音楽療法士は何をするのでしょうか?
活字ではイメージがわきにくいと思いますし、説明も難しいです。
なぜなら、音楽療法とは、音楽療法士(セラピスト)と患者さんやご家族(クライアント)の治療関係の中で行うセラピーだからです。その関係性がセラピーにおいて一番大切なのです。
数年前、シンシナティ市内の老人ホームで、ホスピスケアを受けていた日本人の患者さんに出会いました。
心臓病を患っていた彼女は、会話をすることも食べることにも興味を失い、うつ病と診断されていました。私は彼女のうつ病を和らげるため、担当の看護師から音楽療法を委託され、月に数回彼女のもとに通うことになりました。
患者さんは沖縄戦を経験し、戦後アメリカ人と結婚してアメリカに移住した人でした。これまで彼女は戦争の経験を人に語ることはなく、息子さんにさえ過去を明かすことはなかったそうです。でも、人生の最後、彼女は過去にとらわれていました。
音楽療法のセッション中、懐かしい日本の歌を使って少しずつ彼女と信頼関係を築いていきました。すると、彼女は少しずつ過去を語り始めたのです。
楽しかった子ども時代の思い出、沖縄戦で死んだ弟や名古屋空襲で死んだお姉さんの話。沖縄で戦死したお父さんのこと。
そして、自分の人生をひと通り話し終わったとき、彼女の容態はよくなっていました。ご飯を食べるようになり、私以外の人とも話をするようになりました。
その後、彼女は一年間生きました。
音楽療法士ができるのは「回復する環境をつくる」こと
音楽療法は、音楽が直接患者さんを「癒す」のではありません。音楽を使って、患者さんが回復したり成長できたりする環境をつくることによって、その人がもともと持っている力を引き出すのです。それが、本来の意味でのセラピーだと思います。
この連載では、患者さんや看護師さんとのエピソードを踏まえながら、音楽療法を紹介していきたいと思います。多くの方に音楽療法の魅力を知っていただくきっかけになれば幸いです。
【佐藤由美子】
ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院音楽科を卒業後、オハイオ州シンシナティのホスピスで10年間音楽療法を実践。2013年に帰国。帰国後は青森県在住。15年からは青森慈恵会病院の緩和ケア病棟で音楽療法士として働いている。著書に『ラスト・ソング』(ポプラ社)がある。ハフィントンポスト(日本版)でBlog「佐藤由美子の音楽療法日記」を掲載中。
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コメント
コメント一覧 (1)
由美子先生の終末期医療のご本を読みましたが、今高齢者の認知症予防としての音楽療法が必要とされています。私は高齢者の方達とコーラスを楽しんでいますがもっと療養の要素も取り入れたいと思っておます。