「“総合診療医”に続く、“総合看護師”の存在が必要」―インタビュー◎どうなる?准看護師制度
“総合診療医”に続く、“総合看護師”の存在が必要
「地域を支える看護職員養成促進議員連盟」事務局長 赤枝恒雄衆議院議員に聞く
神奈川県をはじめとする一部の自治体で新規養成がストップするなど、准看護師のあり方は時代にあわせて大きな変革の時期を迎えています。一方で、超高齢化社会を支える担い手として、准看護師はなくてはならないという声も根強くあります。昨年6月に設立された「地域を支える看護職員養成促進議員連盟」事務局長の赤枝恒夫議員に、21世紀の准看護師のあり方についてお話をうかがいました。
赤枝恒雄(あかえだ・つねお)議員
1944年生まれ。産婦人科医、衆議院議員(自民党・2期)。東京医科大学を卒業後、1977年に東京港区に赤枝六本木診療所を開設する。通称“赤ヒゲ先生”。六本木の街で女性達の性相談に乗るほか、コンドームを配るなど地域に密着した性教育を続ける。
介護と一体になって地域を支えるには准看護師が不可欠
――准看護師の養成は必要という理由を教えてください。
赤枝議員 超高齢化社会をいかに支えていくか考えた時、介護と一体になって地域を支えてくれる准看護師の存在は必須です。また、看護師の過重労働、負担増の問題を解消するには、トータルで看護職員の“数”を増やす以外に方策はありません。そのためには看護職へのすそ野を広げる、准看護師が必要と考えていますし、これは「すべての女性が輝く社会」のためにも女性の働き方のひとつとして看護職の間口を広げることにもつながります。
看護職員の総数を増やすために、看護協会は“潜在看護師の掘り起し”ということをいっています。しかし、掘り起しのためにさまざまな施策を行っても、依然として看護師不足はまったく解消されていません。ナースセンターへの届け出制度も新たに始まりますが、すぐに効果が出ると考えるのは楽観にすぎるでしょう。
准看護師の入学者は、多くが30代以降の子育てが終わった世代です。(※1)この年代の非正規労働者は数百万人に上ります。働きかたが多様化する中、こうした人達の力を活用すれば、看護職の人手不足に役立つことは間違いありません。
准看護師は「社会人が看護師になる道のひとつ」
――政府が1996年にまとめた准看護婦問題調査検討会報告書では「21世紀初頭の早い段階をめどに」看護師と一本化としています。
赤枝議員 これまでの厚生労働行政の中で、准看護師養成を停止しようとする時代が確かにありました。ですが超高齢化社会における問題に直面し、今は政府も准看護師が必要と改めて認識を変えています。
その象徴となる出来事の1つに、塩崎恭久厚生労働大臣が国会質疑で行った答弁があります。塩崎厚労大臣は、私の質問に答える形で、「地域における看護職員の充足に、准看護師は貢献している。社会人が看護職員になる道の1つとなっている。(准看護師は)看護師になるルートの1つになっていて、地域で必要な看護職員の確保、地域偏在の解消に有益だ。厚労省としては、今後とも准看護師をふくめて、看護職員の確保に取り組んでいく」と明言しました。
正看へのルート、10年の経験年数は短縮すべき
――准看護師と正看護師では、教育内容が大きく異なるにも関わらず、現場ではほぼ同様の業務を行っている矛盾があります。
赤枝議員 日本医師会では厚労省の看護師研修に準ずる形で、准看護師の教育プログラムを作成する予定です。その上で、正規のプログラムを受けた准看護師に対しては、より早く正看護師になれる道を作るべきと考えています。現在、10年以上の経験があれば通信教育を受けて正看護師の受験資格を得られる制度になっています。ですが、10年という年数は長すぎると思います。この点については厚労省の医政局も、短縮する必要性を認めています。つまり、看護師への道を広くすることにより、准看護師が希望を持って仕事ができる環境をつくりたいと思っています。
特定行為は、「医師の専門医制度と同じ誤り」では?
――議連では、特定行為についても議論をしていく予定ですね。
赤枝議員 特定行為については、医師教育の失敗と同じことになるのではないかと懸念しています。日本の医師教育では専門性を追求するあまり、患者や疾患の全体像を見るのではなく、細分化した臓器を診る専門医ばかり作ってしまいました。その結果、専門医の間を患者がたらいまわしにされるという問題が起きています。
この反省点を踏まえて、現在の専門医に続く19番目の資格として「総合診療専門医」を創りました。地域のプライマリケアを担う専門医で、身体に不調を感じるもののどこの診療科を受診すればいいかわからない患者さんが、最初にアクセスできる専門医として活躍します。
地域のリーダーとなる、プライマリケアの専門看護師養成を
看護師の特定行為は、専門家・細分化を進め過ぎたために全体を見ることができなくなった医師の専門医とまったく同じことだと思うのです。特定行為ができる看護師を養成するなら、それと並行して患者の全体を見ることのできる、プライマリケアの専門家としての“総合看護師”の育成にも力を入れるべきです。
高齢化が本格化する2025年にむけて、地域包括支援センターや訪問看護ステーションの役割はますます重要になります。プライマリケアに精通した、医療と介護を総合的に看られる高度な知識を持つ看護師を養成し、ぜひとも地域包括支援センターの長になるなど地域の医療を支えて欲しいと願っています。一方で、全体を看られる看護師のもと、現場を支える人材として、准看護師はますます必要になるのではないでしょうか。
(聞き手=横井かずえ)
※1 厚労省「就業保健師・助産師・看護師・准看護師の年齢階級別年次推移」によると、准看護師の7割は40代以上が占める
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