「家族ってそんなに完璧じゃないから」家族を支援するケアの意味

「家族ってそんなに完璧じゃないから」家族を支援するケアの意味|家族支援専門看護師

 

Profile

家族支援専門看護師

児玉 久仁子(こだま・くにこ)さん

東京慈恵会医科大学 医学部看護学科 在宅看護学 講師

▼2009年度、東海大学大学院 健康科学研究科 看護学専攻家族看護学 修了

▼2010年度~、家族支援専門看護師

 

家族支援専門看護師児玉久仁子さん(東京慈恵会医科大学)は、専門看護師となって約10年、臨床の現場で患者さんを含む家族ケアに当たってきました。

 

2020年秋からは大学へとフィールドを移し、教育・研究の面から「家族支援の充実」に取り組んでいます。

 

 

家族ケアを取り入れたら、看護はこんなにスムーズなのか

患者さん本人だけでなく、「家族」全体を看護ケアの対象として捉える――という家族支援の考え方は、特に在宅医療が推進されるようになった今、ますます注目されています。

 

「患者さんの入院前から積極的に家族ケアを行うことが診療報酬で仕組み化されるなど、ここ数年、医療システムの中でも家族ケアが強化されてきました。家族ケアに対する、社会の熱量のようなものを感じます」

 

そう話す児玉さんが家族支援専門看護師を目指したのは、「家族ケアを取り入れた看護は、問題解決がこんなにスムーズなのか」と気づいたからだと言います。

 

※「入退院支援加算」「入院時支援加算」など。入院前の早い段階から患者・家族との面談を行う、退院困難な家族状況がないかスクリーニングするなどの取り組みが診療報酬上で評価されている。

 

専門看護師としてスタッフの相談に応じる児玉さんの写真

 

そんな気づきを得た一つが、児玉さんが看護師4~5年目のころに経験したエピソード。

 

誤嚥性肺炎で入院した女性患者の息子さんが、どんなに説明しても絶食の方針を守らず、こっそり母の好物を持ち込んでは食べさせることを繰り返していたそう。

 

いら立ちを感じていた児玉さんは、ある日の吸引で「大量の大福のかけら」が出てきたとき、たまりかねて上司に、

 

「早く治して帰してあげたいのに! 治療に協力しないで、ひどいご家族です!」

 

とプンプン怒って訴えました。

 

「ところが、『息子さんは、どうしてそこまで食べさせたいの?』と静かに返されて。『……あ』ってなりました(苦笑)。食べさせちゃダメと繰り返してきたけど、息子さんの気持ちはちゃんと聞いてなかったと、そこで初めて気がついたんです」

 

と児玉さん。「その上司は大学院で家族支援を専門に学んできた方で、『家族の無理解と言う前に、まずしっかり家族のケアをすること』の大切さを教わりました」と振り返ります。

 

家族支援専門看護師を目指したきっかけについて振り返る児玉さんの写真

 

あらためて息子さんに話を聞いてみると、母はいかに食べることが好きか、食べるとき、どんなにうれしそうな表情をするか、その母が一人息子の自分にとってどれだけ大事な人かを語り、「母の口に何か少しでも入れば、自分は安心できるんです」と打ち明けてくれたそう。

 

背景にあった家族の不安を知って、患者さんの肺炎フォーカスするだけが看護のメインじゃないと捉え直すことができたという児玉さん。

 

この日から、少量のゼリーなら食べてもOKにしたり、息子さんが同席する中で嚥下機能の評価をしたりと、「母と息子」の家族を一体でケアする看護計画に変更することに。

 

「患者さんの健康問題を一緒に解決していくパートナーとして、同時に、母親の老いを目の当たりにして不安定な気持ちを抱えたケアの対象者として、息子さんと新たな関係性を築いたんです。

 

そしたら回復、退院と嘘のようにスーッと進んで…。家族を支援する看護の意味を知りました

 

 

「困った家族」は「ケアが必要な家族」

この体験が原点の一つとなって、児玉さんは、そのころ創設されて間もなかった家族支援専門看護師の道へ。

 

大学院で「家族システム理論」「家族発達理論」「家族ストレス対処理論」などの看護理論を学ぶことで、より多層的に、より俯瞰的に患者さんとご家族を見つめたケアが実践できるようになったと感じています。

 

現場スタッフをサポートする児玉さんの写真

「『患者さんを支える家族』ではなく『患者さん自身も家族を構成する一人』と捉え、家族全体を支援の対象とする考え方を、現場では一番に伝えてきました」という児玉さん

 

 

自分自身の過去の経験、そして専門看護師として勤務した東京慈恵会医科大附属病院で、数多くのケースを支援してきた経験を踏まえ、児玉さんは、

 

「看護師にとって患者さんのご家族は時に、治療やケアをうまくいかなくする『困った家族』として現れるかもしれません。でも、それは実際には『ケアが必要な家族』なんです」

 

と強調します。

 

症状を受け入れられない家族、意見が互いに食い違う家族、怒りや困惑を抱える家族…。

 

看護師が「困った家族」のレッテルをつい貼りたくなるようなとき、「この家族に何が起きているんだろう」と視点の転換を促すサポートをするのが、専門看護師である自分の役割だとし、こう続けます。

 

「みんなが健康なときでも、家族っていろいろありますよね。そこに誰かの病気が加わったら、ひずみが出たり不安定になったり、支援が必要になっても当然です。医療者は『患者さんを支えるための資源』になってくれることを期待しがちですが、たぶん、家族ってそんなに完璧なものじゃない

 

家族間の課題、家族と医療者間の課題を交通整理して、より良いケアに導くのが、家族支援専門看護師のスキルなのかなと思います」

 

 

活動の軸足は「教育」と「研究」へ

大学の講義や外部講演などを行う児玉さんの写真

 

この10年、臨床現場でさまざまなコンサルテーション(相談)に応じたり、院内外で家族支援の研修会を開催したりと横断的に活動してきた児玉さん。

 

その実践に触れ、専門看護師を目指す後輩も育ってきたそう。

 

すでに家族支援のプレCNSが院内で活動を始めています。「次の人たちが続いてくれるというのは、やっぱりうれしいですよねえ」と、児玉さんは喜びを噛みしめるように話します。

 

※大学院の専門看護師コースを修了し、専門看護師の資格認定を受ける前の人

 

 

そして、後進が育ったのを機に2020年秋、臨床を離れて東京慈恵会医科大の講師に着任。専門看護師としての活動の軸足を「教育」と「研究」に移しました

 

「専門看護師とは縁の下を支える黒子だとよく言われますが、次世代を育てる大学教育は、まさに黒子の仕事です」と言い、教育・研究を通じて「現場の課題に対し、より長期的な成果を生むこと」に次の目標を見据えています。

 

「というか、誰かを支える・育てるのがもともとすごく好き!というのもあるんですけどね」と楽しそうに笑いながら、専門看護師として新たなステージへ進み出しています。

 

※記事中の写真は、新型コロナウイルス感染症の拡大前に撮影したものを含めてお借りしています

 

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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