コロナ禍で「感染症看護専門看護師」は…院内感染の経験から見つめるこれから
コロナ禍で「感染症看護専門看護師」は…院内感染の経験から見つめるこれから|感染症看護専門看護師
感染症看護専門看護師
新改 法子(しんかい・のりこ)さん
神戸市立医療センター中央市民病院 新型コロナ専用臨時病棟
▼2012年度、愛知医科大学大学院 看護学研究科 基礎看護学分野 修了
▼2020年度、名古屋市立大学大学院 看護学研究科 博士後期課程 修了
▼2012年度~、感染症看護専門看護師
新型コロナウイルス感染症の流行下で奮闘する、感染症看護専門看護師・新改法子さん(神戸市立医療センター中央市民病院)。
院内で発生したアウトブレイクからの体制立て直しに力を注ぎ、2021年春からは、自身も重症者病棟で感染者ケアの最前線に立っています。
コロナ禍での感染症看護専門看護師の活動と、その中で感じた思いを聞きました。
看護師たちの不安に「立ち止まっていられなかった」
「断らない救急」で全国的に知られる神戸・中央市民病院は、感染症医療においても第一種感染症指定医療機関になっているなど、まさに地域の新型コロナ対応の“とりで”。
その病院で大規模な院内感染が起きた※のは、国内での感染がじわじわと拡大し始めた2020年4月でした。
※2020年4月、入院患者7人、職員29人が新型コロナに院内感染したことが判明。職員約350人が自宅待機となり、救急・外来・手術などの病院機能を一時縮小した。
施設における感染予防や感染者の受け入れに備えた体制づくりは、感染症看護専門看護師に求められる役割の一つです。
新改さんは、院内の感染管理を担うチームのメンバーとして、2020年1月から病院を挙げて体制を整備。実際、当初はパニックもなく落ち着いて対応できていたとした上で「ただ…」と続けます。
ウイルスの感染力が予想をはるかに上回っていたこと、
もともとの病床稼働率が高い中で感染者の入院が急増したこと、
N95マスクなどの個人防護具が市場に流通しなくなり、使用に制限を設けざるを得なかったこと――。
「想定しきれないことが重なっていって、4月初旬、看護師を介して感染が広がってしまいました」
あらためて経緯を確かめるように、当時の状況を説明する新改さん。「やっぱり、ものすごくショックだった」と正直な心情を打ち明けつつ、「だからと言って、そこで何かをごちゃごちゃ思っているような余裕はなかった」と、その後の日々を振り返ります。
職員と患者さんのPCR検査、ゾーニングの見直し、マニュアルの改訂と周知、感染対策の確認・指導……など、感染管理を担当する専門看護師として、アウトブレイクの収束に向けて院内を走り回る毎日。
さらに、現場のスタッフからの問い合わせも殺到したそう。
特に、患者さんの一番近くで働く看護師の不安は大きく、
『体調不良者が出たけど、どうしたらええ?』
『このやり方で大丈夫なんか』
『個人防護具の在庫がなくなってきてるし、怖い』
など、さまざまな声が、新改さんはじめ感染管理室にどっと押し寄せました。
「あの混乱を乗り越えるには、スタッフの不安一つ一つに応えなければなりませんでした。とにかく必死で、正直いうと当時の細かい記憶はほとんどないくらい。文字通り、立ち止まってはいられなかったんです」
看護部全体の協力を取り付けた「新改チェック」
そんな中でも、「新型コロナ対応の体制を立て直す」という最重要ミッションに対し、新改さんが専門看護師の特性を生かすべく意識したことがあります。
それは、看護部全体を巻き込み、協力を取り付ける「調整プロセス」です。
小さなほころびが大きなリスクにつながる感染症の対策。
看護師を介して感染が広がったのには「やはり組織として対策のスキがあったことは否めない」と指摘し、
「だからこそ、看護部が足並みをそろえて取り組まなければなりません。それには、一部の人だけが躍起になって、上から目線で伝えてもダメなんです。そんなんじゃ、『新改さんが、また何か言ってるわ』になっちゃいますから」。
個々の看護師の不安に対応しつつ、一方では、「組織全体にスムーズに感染対策を浸透させる方法」として、看護部長や副看護部長、師長など、“看護部の要所”に丁寧な説明を尽くす手順を踏むのが最適だ、と新改さんは強調します。
こうして、看護部長の全面的な後押しを受けて実践できたのが、延べ500人の看護師を一人ひとりチェックし、手指衛生や個人防護具の着脱などの技術を徹底的に指導する、通称「新改チェック」。
それは、チェックに合格しない看護師にはコロナ対応を預けない、という病院の新たな体制です。
「もう絶対に院内感染を起こさないため、患者さんも看護師も感染から守るためのチェックです。看護部全体の理解を取り付け、全力で後押ししてもらいました」
新改チェックの導入後、看護師の感染対策の遵守率はみるみる上昇し、
「『私はコロナ病棟で看護しても大丈夫なんだ』と安心できた」
「厳しくチェックを受けることで守られていると思えた」
という声が寄せられたそう。
「現場の看護師たちの不安を取り除く材料の一つになれていたのなら、うれしいですよね。…うん、本当にうれしいです」と噛みしめるように話すのは、この春から、自らも感染者を直接ケアする一人になったからなのかもしれません。
これ以上、つらい思いをする看護師が減るように
2020年11月、院内感染の衝撃から体制を立て直し、あらためて地域のとりでとして病院が開設した臨時の重症者専用病棟(36床)。
体制づくりの立場から新型コロナ対応にかかわってきた新改さんも、2021年4月、この病棟に配属されて直接ケアに当たっています。
いわゆる”第4波”の感染拡大の中、息苦しい個人防護具とN95マスクを着けて感染者をケアしている自分が、いつの間にか、ボロボロと涙を流していることに気づくこともあると言います。
「目の前の患者さんをどうにかして助けたいけど、厳しい状態の方もいる。そして、病院の外にはベッドが空くのを待っている患者さんもいる。常につらい判断を迫られる中で、この1年、患者さんのそばに寄り添ってきた看護師の気持ちを思うと…」
感染管理の立場ではわからなかった、ベッドサイドでこその課題や思いに直面していると語る新改さんは、患者さんのケアに全力を尽くす一方で、「専門看護師の自分がこの現場にいてできること」を考え始めています。
その一つが研究活動です。
アウトブレイク時に感染した看護師へのインタビューによる質的研究にすでに取り組んでおり、看護師の感染対策に必要な知見を探るほか、「どうしたら、感染症の前線に立つ看護師がつらい思いをしないでいられるのか」をあらゆる角度から検討したいと言います。
「コロナ以前はいきいきと働いていた看護師が今も後遺症で苦しんでいたり、周囲から言われた言葉にずっと傷ついていたりするんです。
なぜ看護師がそんな思いをしなければならないのか、今後も起こるだろう感染症の流行時にどうすれば看護師が守られ、ひいては患者さんが守られるのか。研究として発信し、提言していきたい」
新改さんは「それが、これからの看護師人生をかけたチャレンジになるかもしれません」と話し、今も新型コロナの最前線に立ち続けています。
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
(参考)
新型コロナウイルス感染症の院内感染に関する報告書・PDF(神戸市立医療センター中央市民病院)
看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査 【感染管理CN・感染症看護CNS】・PDF(日本看護協会)
新型コロナウイルスの検査・陽性者の状況(兵庫県)
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