脳血管にいざという時のバックアップ機構はあるの?
『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。
今回は「ウイリス動脈輪」に関するQ&Aです。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
脳血管にいざという時のバックアップ機構はあるの?
脳は生命の維持や、感覚や運動などのあらゆる生命活動をつかさどっています。その脳に血液を送り込んでいるのは、左右の内頸動脈と椎骨(ついこつ)動脈です。
このうち、椎骨動脈は脳幹の前で左右の動脈が合流して1本になり、脳底動脈と名前を変えます。そして、大脳の底の部分で内頸動脈とも合流し、視床下部の底部を囲むようにしてほぼ六角形の輪を作ります。
これをウイリス動脈輪(どうみゃくりん)といいます(図1)。
図1脳の血管
ウイリス動脈輪の役目は、別々の動脈系である内頸動脈と椎骨動脈を連絡することにより、どちらかの動脈に血栓が詰まって血液が流れなくなっても、もう1本の動脈によって最低限の血液を確保することです。
ウイリス動脈輪は、たとえば高速道路の環状線です。環状線には、四方八方から複数の高速道路が入り込み、線沿いには市場や工場など、生活を維持する大事な機能がありま す。
もし、環状線内のどこかの道路(左後大脳動脈→左後交通動脈→左前大脳動脈→前交通動脈→右前大脳動脈→右後交通動脈→右後大脳動脈のどれか)が事故で閉鎖されたら、生活はどうなるでしょう。
何本かあるほかの道路を通り、環状線沿いの工場(脳実質)に物資を届ければいいのです。多少の時間がかかっても、物資は確実に運ばれます。
道が1本しかないと、その道路が閉鎖されてしまったら物資は流通しなくなります。脳でこのようなことが起きれば、脳の神経細胞が壊死し、生命の危機が生じます。
脳の動脈の大半は、毛細血管のように互いが網の目で連絡(吻合)されているわけではなく、吻合をもたない終動脈です(「終動脈とはどんなもの?」参照)。
ウイリス動脈輪は、こうした脳動脈の弱点を補うためのバックアップ機能(代替装置)ということができます。
※編集部注※
当記事は、2017年11月30日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版