JTAS(緊急度判定支援システム)|知っておきたい臨床で使う指標[10]

臨床現場で使用することの多い指標は、ナースなら知っておきたい知識の一つ。毎回一つの指標を取り上げ、その指標が使われる場面や使うことで分かること、またその使い方について解説します。

 

根本 学
埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科診療部長

 

JTAS

(Japan Triage and Acuity Scale)

 

前回、トリアージは、「傷病者など治療を受ける必要のある人々の、診療や看護を受ける順番などを決定する診療前の1つの過程」であり、主に災害や多数傷病者発生事案で使用するSTART法トリアージについて紹介しました。
今回は、主に救急外来や時間外外来で使用される緊急度判定支援システム「JTAS(Japan Triage and Acuity Scale)」について紹介します。

 

〈目次〉

 


 

JTASを主に使う場所と使用する診療科

JTASは救急外来におけるトリアージに使用されます。
基本的には看護師(トリアージナース)が行いますが、救急車搬送患者では、初診を担当する救急部の医師によって行われることもあります。

 

JTASで何がわかる?

JTASは患者の緊急度を評価することができます。
救急外来や時間外外来にはさまざまな訴えの患者さんがやってきます。救急車で搬送されてきた患者さんだから必ずしも緊急度・重症度が高いわけではなく、自家用車や独歩で来院された患者さんでも緊急度・重症度が高いことが少なからず存在しています。
従って、来院方法にかかわらず、すべての患者さんはトリアージされなければなりません。

 

JTASをどう使う?

JTASは、正確には患者の緊急度を評価するためのシステムで、これまで紹介してきた指標とは少し使い方が違います。

 

JTASでは成人は17カテゴリー・165症状に分けられており、患者さんの症状をこのカテゴリーから選び、さらに患者さんのバイタルサインや症状などを合わせて緊急度を判定します。
JTASは現在、アプリ化されており、ダウンロードで購入することも可能です。
患者さんの症状や容態などをアプリ上で選択していくと、トリアージレベル判定ができます(図1)。

 

 

図1JTASの緊急度判定(JTASレベル)

JTASレベル JTAS緊急度判定レベル

 

JTASの緊急度判定は、、白の5段階に分類されています。
はもっとも緊急度が高く、直ちに診察および治療が必要と判定されます。
は緊急で10分以内に診察が必要なレベルとされ、15分ごとに再評価を行います。
は準緊急で、30分以内に診察が必要なレベルです。再評価は30分ごとに行います。
は低緊急で、1時間以内に診察が必要なレベルです。再評価は1時間ごとに行います。
白は非緊急で、2時間以内の診察とされています。再評価は2時間ごとに行います。

 

JTASを実際に使ってみよう

例として「動悸」を主訴に来院した患者さんを想定してJTASを使ってみましょう。

 

まずはタブレットやパソコンからJTASのアプリを立ち上げ、患者さんの年齢を選択します。ここでは「15歳以上」をタップしてみます(図2)。

 

 

図2JTAS立ち上げ画面

JTAS

 

すると、「成人 症状リスト(17カテゴリー・165症状)」の画面が表示されます(図3)。動悸なので「心血管」をタップします。

 

 

図3成人 症状リスト画面

JTAS症状リスト

 

心血管系に関するメニューが表示されるので(図4)該当する項目である「動悸・不整脈」をタップすると評価に必要な項目(成人:第1段階)が表示されます(図5)。
その画面から、さらに患者さんの容態に該当する項目を選んでタップしていくと、緊急度が表示されます。

 

 

図4心血管系メニュー画面

JTAS症状リスト 心血管系

 

 

図5評価に必要な項目画面

JTAS症状リスト

 

JTASを導入している施設はたくさんあると思いますが、大切なことは緊急度判定を行うことではなく、その判定結果に従って診察・治療が開始されているかどうかを評価することです。

 

例えば、「赤(緊急)」と判定されても診察開始まで15分かかっていれば判定する意味がありません。

 

そのため、外来カルテには、JTAS判定時間と診察開始時間を記録し、振り返って調査や解析などができるようにしておくことが必要です(図6)。

 

 

図6外来カルテ記載例

外来カルテ記載例

 

JTASの成り立ち

JTASは、もともとカナダ使用されていた緊急度判定システムCTASの日本版です。 カナダでは、多くの患者さんでごった返す救急・時間外外来で、それぞれの患者さんがどのくらいの間なら安全に待つことができるかを判断し、円滑で安全な救急診療を行う目的で作成されました。
1998年に実施要綱(ガイドライン)が策定され、その後、数回の改定を重ねて現在に至っています(1)

 

日本では、2005年に日本臨床救急医学会に設置された「地域救急医療体制検討委員会」によってカナダの救急医療体制が参考に取り上げられ、同時期に日本救急看護学会でもトリアージナースの議論がされていたことから、2007年に合同委員会が設置されました。

 

その後、2009年に設置されたJTAS検討委員会等が中心となり、日本救急医学会、日本救急看護学会および日本臨床救急医学会の監修により、「緊急度判定支援システム CTAS 2008 日本語版/JTASプロトタイプ」(2)が刊行され、今日では多くの医療施設で使用されています。

 


[文 献]

 

  • (1)American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis.Crit Care Med20(6)864-74,1992
  • (2)Goldstein Bet alInternational pediatric sepsis conference:Definitions for sepsis and organ dysfunction in pediatricsPediatr Crit Care Med6(1)2-82005

 


 

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