神経情報の伝達のしくみ(1)|神経系の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、神経情報の伝達のしくみについての解説の1回目です。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 神経系の構成単位はニューロンであり、これは細胞体と突起(神経線維)からなる。突起には樹状突起(情報を神経細胞に伝える)と軸索(神経細胞からの情報を末梢に伝える)がある。
- 2. 神経線維には有髄神経と無髄神経があり、インパルス(活動電位)の伝導速度が異なる。
- 3. 有髄神経はミエリン(脂質に富んだ髄鞘)で覆われ、ところどころにくびれ(ランビエ絞輪)がある。インパルスはランビエ絞輪から絞輪へと跳躍伝導するので、情報はすばやく伝えられる。
〈目次〉
ニューロンの構造と働き
中枢神経であれ末梢神経であれ、神経を構成する単位はニューロン(neuron)であり、ニューロンが集合して神経系を構成する。
ニューロン(図1)は、細胞体とその突起である神経線維(nerve fiber)からなる。突起は樹状突起と軸索からなる。
図1ニューロンの構造
末梢神経系には有髄神経と無髄神経が存在しており、有髄神経では、シュワン細胞の細胞膜が軸索の周囲をいく重にも取り巻いて髄鞘を作る。一方、中枢神経系はほとんどが有髄神経であり、オリゴデンドログリアが髄鞘を作る。
(堺章:新訂目でみるからだのメカニズム.p.146、医学書院、2000より改変)
神経細胞は、核をもち、細胞の栄養・代謝の中心をなしている。神経細胞からは突起(樹状突起と軸索)がのびており、その長さは数μmから1mにも及ぶ。樹状突起も軸索もともに興奮を伝導するが、その方向性が異なる。
すなわち、樹状突起は神経情報を神経細胞に伝える(求心性)役割を果たし、軸索(通常、神経線維といえば、突起の長い軸索を指す)は神経細胞からの情報を末端に伝える(遠心性)役割を果たしている。
神経細胞によっては数百の樹状突起をもつものもあるが、軸索は神経細胞1個につき1本しかない。軸索には軸索側枝をもつものもあるが、すべての軸索はその末端近くで枝分かれし、軸索終末で終わる。
神経線維は、軸索の周囲を円筒状に取り巻く鞘(さや)状の髄鞘(ずいしょう、ミエリン鞘)とよばれる被膜で包まれているかどうかによって有髄神経線維と無髄神経線維に分けられる。末梢神経の髄鞘は、シュワン細胞 (Schwann cell)からできており、中枢神経の髄鞘はオリゴデンドログリア(希突起膠細胞)と呼ばれるグリア細胞の一種からできている。
有髄神経線維の構造と特徴
有髄神経線維は、脂質に富んだミエリン(myelin)という髄鞘で覆われている。髄鞘はところどころくびれ、消失している。この髄鞘が消失している部分をランビエ絞輪(node of Ranvier)という(図1)。
髄鞘は絶縁体の役目を果たし、隣の神経線維との混線を防いでいる。また、神経の保護にも役立っている。
インパルス(活動電位)である神経情報は、電気抵抗が高い髄鞘を飛び越えて、ランビエ絞輪から絞輪へとスキップして伝わるので(跳躍伝導)、髄鞘のない無髄神経に比べて、情報をすばやく伝えることができる。
すばやい興奮伝導を必要とする運動神経や知覚神経は有髄で、それほどスピードを必要としない自律神経節後線維は無髄神経である(自律神経節前線維は、薄い有髄をもつ有髄神経である。また、温度感覚や痛覚の感覚神経線維には、有髄神経のものと無髄神経のものがある)。
神経系の情報伝達方法
神経情報の伝達は、①神経線維では活動電位の伝導(興奮の伝導ともいう)によって電気的に行われ、②シナプス間隙および神経筋接合部では神経伝達物質によって化学的に行われる。
電気現象が神経線維を伝わる場合を伝導といい、化学伝達物質がシナプス間隙を介して情報を伝えることを伝達といい、区別している。活動電位が軸索を伝導する速度は、その神経が太いほど速い。すなわち、太い有髄神経の伝導速度が最も速く、細い無髄神経の伝導速度が最も遅い。
※編集部注※
当記事は、2016年4月21日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版