心筋細胞と電気現象|心臓とはなんだろう(2)
【大好評】看護roo!オンラインセミナー
心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、心筋細胞と電気現象について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
細胞内電位
静止膜電位
右腕で力コブをつくってみましょう。腕を曲げるときに筋肉が縮むのがわかりますね。これは、脳からの指令が神経を通って、微弱な電気信号が筋肉を刺激して収縮しているのです。この収縮という状態は、筋肉が信号によってアクティブあるいはオンになっている状態で興奮ともいい、信号がなくなればインアクティブあるいはオフ、安定状態となり、筋肉は緩み、弛緩状態になります。
人間にはオン・オフが必要です。勉強や運動や仕事をし続けるのは不可能で、がんばって活動したら、一定時間休まないと身体を壊しますよね。筋肉は人間の組織の一部ですから、オン・オフがありますし、その筋肉は筋肉細胞からできていますから、この細胞にオン・オフがあるのです。
心臓のポンプ機能は、筋肉でできた心室という袋が、収縮によって容積を小さくして血液を送り出すというものです。心臓の筋肉ですから心筋といい、心筋は心筋細胞の集まりです。この心筋細胞がオン状態になれば心筋が収縮し、血液を絞り出し、オフ状態になれば心筋は弛緩して容積が大きくなって(拡張して)血液を吸い込むというわけです。
まず、ここでは個々の心筋細胞のオン・オフについて勉強しましょう。
細胞とは細胞膜という壁で区切られた個室です。個人に個性があるように、心筋細胞という部屋も固有の特徴があります。オン・オフに必要な最も重要な特徴は、細胞内が細胞外に対してマイナスの電位になっているという点です(図1)。
電位なんていうと、緊張してしまうでしょうが、電流はプラス極からマイナス極に流れるというのは、実生活から理解できると思います。プラスとマイナス電位の差を電圧といい、電圧が高いほど多くの電流が流れるということも何となく知っているはずです。
体内で電気の性質をもっているのは、イオンというものです。心筋細胞のオン・オフに関係するイオンは、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca++)の3種類で、いずれもプラスの性質をもちます(いずれも体内ではイオンの形をとるので、以下ナトリウムといえば、ナトリウムイオンのことです)。
細胞内をマイナスに保つためには、プラスイオンを細胞外にくみ出してしまえば、内外に電位差をつくることができます。生物はもともと海で生活していたため、体内は海水に近い成分で、最も多いのが塩分つまり塩化ナトリウムで、ナトリウムが最も豊富です。細胞内外で電位差をつくるなら、このナトリウムを細胞外にくみ出してしまえば簡単です。ちなみに細胞膜はイオン類を勝手に通さないようにできています。
細胞内は、細胞外に比べてナトリウム濃度が低く、カリウム濃度が高いという環境で活動しますので、ナトリウムをくみ出すと同時にカリウムを細胞内に引き込みます。このシステムはナトリウム・カリウムポンプといい、細胞膜に標準装備されています。このポンプのおかげで細胞内は細胞外に比べてナトリウムが少なく、カリウムが多いという環境をつくり出します(図2)。
このポンプは働き続けるポンプで、エネルギーを使って、常にナトリウムをくみ出して、カリウムを取り込み続けています。
しかし、このままでは、細胞内にカリウムが増えすぎてしまうため、細胞膜にはカリウムだけが通過できる出入り口がつくってあります。この穴を通ってカリウムは出入りしますが、濃度の差からいうと細胞内は濃くて、細胞外は薄いので外に出たがるし、電位でいうと細胞内はナトリウムがくみ出されて少ないのでプラスイオンが少なく、細胞外に対してマイナスになっていますから、プラスの性質のカリウムは細胞内に入りたがります。この出入りのバランスがとれている状態が平衡状態です。
もう1つ、心筋の収縮に重要な役割を果たすのが、カルシウムです。カルシウムにも細胞内外の濃度差が必要で、細胞内は少なく、細胞外には多くしてあります。ナトリウムを取り込み、カルシウムをくみ出すナトリウム・カルシウム交換系というシステムがあります。
- ①ナトリウム・カリウムポンプによる、ナトリウムのくみ出しとカリウムの取り込み
- ②カリウムの自由出入り口
- ③ナトリウム・カルシウム交換系による、ナトリウムの取り込みとカルシウムのくみ出し
主にこの3つのシステムによって、細胞内は細胞外に対して、ナトリウムとカルシウムの濃度は低く、カリウム濃度が高く保たれています。絶対量としては、ナトリウムが圧倒的に多いので、細胞内外の電位差はナトリウムが大きく影響していて、細胞外にプラスイオンが多く、細胞内に少ないという状態ができて、細胞内の電位が低くなります。
この状態が、通常の状態、言い換えればインアクティブ、オフ、安定状態です。
この電位を静止膜電位(静止電位)といい、細胞内は細胞外に対して-90mVのマイナスの電位に保たれます。結局、いろいろな仕掛けを駆使してつくったイオンの細胞内外の濃度差は、この電位差をつくるためともいえます。
この電位差により、細胞外がプラス、細胞内はマイナスの電気を帯びていて、膜をはさんでプラスとマイナスに分かれているため、分極といいます。
夏の部屋をイメージしてみましょう。外は暑い。何とか部屋を涼しくしなければ。外気に対して-90mVにするために必要なのは、強制的に温度を下げる装置、そうエアコンです。
ナトリウム・カリウムポンプというエアコンで強制的にカリウム冷気を室内に入れ、ナトリウム熱気を外に吐き出します。
エアコンの問題点は乾燥しすぎて湿度が下がってしまうことですよね。カリウム冷気を入れすぎると湿度が下がりますので、何とかカリウムを減らさないといけませんね。これがカリウム冷気の自由出入り口、つまり通風口です。これによってたまりすぎたカリウム冷気は外に排出され、室内の乾燥を防ぎます。
カルシウムは部屋のにおいです。これはナトリウム・カルシウム交換系で外に出しましょう。安静状態、静止膜電位、分極つまり、インアクティブ、オフの状態では、室内は、-90mVの冷えた状態で、通風口で湿度はほどほど、カルシウムにおいは少ない、という過ごしやすい部屋です。
まとめ
- 安定状態では、細胞内は細胞外に比べて、ナトリウムとカルシウム濃度が低く、カリウム濃度が高いため、ナトリウムを細胞外へ、カリウムを細胞内に運ぶナトリウム・カリウムポンプ、カルシウムを細胞外に排出するナトリウム・カルシウム交換系、カリウムの自由出入り口、という3つの仕掛けがある
- 結果として、細胞内は-90mVのマイナス電位が保たれ、静止膜電位という
- この膜電位によって、細胞内はマイナス、細胞外はプラスに分極している
脱分極・再分極
オンの状態、アクティブ状態、興奮状態の細胞はどうなっているのでしょうか。興奮状態になる細胞には2つの目的があります。1つは興奮状態に変わることで、心筋が収縮すること。もう1つは、静止状態にある隣の細胞に興奮を伝えることです。
ここで言葉の整理をしておきましょう。
左側は安定状態をいろいろな視点から表現したもので、同様に右側は興奮状態の表現です。左右は対義語の関係にあります。
安定⇔興奮
静止⇔活動
分極⇔脱分極(後で説明します)
弛緩⇔収縮
以下は医学用語ではありませんが、理解の手助けに。
インアクティブ⇔アクティブ
オフ⇔オン
■伝導とは
サッカーの試合などで盛り上がってくると、スタンドの観衆が“ウェーブ”をやりますね。まさに波のように、隣が立ち上がると次は自分、その後は反対隣、立ち上がったあとは、また着席。遠くから見ると“興奮が伝導”していくことがよくわかります。興奮が波及していくことを伝導といいます。
■興奮とは
心筋細胞内は、静止状態では-90mVですが、その電位がプラスに向かってゼロ(0)になると、細胞内でさまざまな活動が行われ、心筋が収縮します。この電位は、静止電位に対して活動電位といいます(図3)。また、細胞内がマイナス、細胞外がプラスに分極していたのが、ゼロ(0)になって分極から脱するので、脱分極といいます。
それでは細胞内のマイナスをプラス側に転じていくにはどうすればよいでしょうか。マイナスにするために、ナトリウム、カリウムの濃度差をつくりましたから、ゼロ(0)に戻すには、プラスの性質をもつ、そのナトリウムを細胞内に入れてあげればよいですね。
まず、隣の心筋細胞から信号が入り、膜電位がわずかに低く、つまりプラス側にフレます。すると通常は細胞外から細胞内へ入れないはずのナトリウムのために、秘密の入口が開きます。この入口をナトリウムチャンネルといいます(図4)。
具体的にいうと、細胞内電位が-55mVに達すると、チャンネルが開いて、マイナスの細胞内に向かってプラスの性質のナトリウムが大量に細胞内に流入します。プラスのナトリウムが大量に流入しますので、マイナスだった細胞内電位は急激に上昇して、ゼロ(0)を超えてプラスに転じます。いままで分極していた電位がゼロ(0)になりますから脱分極したといいます。
これで心筋細胞はスイッチが入り、オフからオンの状態、安定から興奮状態に、静止から活動状態に変化して、筋肉の収縮が起こるのです。
ナトリウムチャンネルは、短時間だけ開いて大量のナトリウムを細胞内に入れた後はすぐ閉じてしまいます。入口が閉じた後は、ナトリウム・カリウムポンプによって、また、静止状態ではカルシウム排出に使われていたナトリウム・カルシウム交換系が、活動状態では逆回りしてカルシウムを取り込みながら、ナトリウムは外にくみ出されます(図5)。
このままでは、活動状態がすぐに終了するので、次に筋収縮に重要な役割を果たすカルシウムをまねき入れます。この入口はカルシウムチャンネルといい、ナトリウムチャンネルからわずかに遅れて開き、ナトリウムチャンネルのようにすぐには閉じないで、脱分極つまり活動状態を維持します(図6)。
また、ナトリウム・カルシウム交換系は、静止状態ではカルシウム外・ナトリウム内でしたが、活動時は逆回りして、カルシウムを取り込み、ナトリウムを排出します。このカルシウムチャンネルとナトリウム・カルシウム交換系で細胞内にカルシウムが増えます。
カルシウムイオンもプラスの性質ですので、細胞内に流入すればマイナスを打ち消しますよね。実は、このカルシウムが細胞内の筋肉システムに結合して収縮するので、実質スイッチの役割をしているのです。つまり、ナトリウムはカルシウムをまねき入れるための準備を整えて、主役のカルシウムが入場してくるわけです。
この活動電位がコンマ何秒間か持続して、静止状態に戻るわけですが、くみ出しポンプだけに頼っては、電位が静止状態の-90mVに戻るのが遅くなります。なんとか素早く細胞内をマイナスにする必要がありますので、プラスの性質をもったイオンに出て行ってもらいたいわけです。ナトリウムもカルシウムも流入している状態で内外にあまり濃度差がありません。
細胞内に大量にあって外には少ないプラスイオンは、そうカリウムですね。カリウムを短時間に外に出してしまえば、電位は速やかに静止状態に戻ります。このカリウムの出口がカリウムチャンネルです。活動電位の終了時に開いて、濃度差に従ってカリウムは細胞外に流出します(図7)。プラスイオンが外に出るわけですから、細胞内はマイナスに戻って静止状態に回復します。
細胞内外に電位差ができて、また分極しますので、この回復過程を再分極といいます。
図8を見てみましょう。
細胞内電位は、電気刺激によって閾値に達し、ナトリウムチャンネルが開いて、大量のナトリウムが流入し、電位が急峻に上昇します。これを0相といいます。
開いたナトリウムチャンネルは、すぐ閉じて、電位が少し下がります。ここが1相です。ほぼ同時にカルシウムチャンネルが開いて、カルシウムが流入し、活動電位を保ちます。この平らな部分を2相とよびます。
カルシウムの流入が終わるとカリウムチャンネルによって、細胞内からカリウムが細胞外に流出して、電位は静止電位に向かって下降していきます。これを3相といいます。電位を下げながら、ナトリウム・カリウムポンプでカリウムを細胞内に戻し、ナトリウムを細胞外に出して、静止電位に回復つまり再分極します。この静止電位を4相といいます(図9)。
お部屋の話に例えましょう。
エアコンポンプによって、熱ナトリウムは外に出て、冷湿気カリウムは室内に入り、部屋の中は、冷えて、ある程度の湿度が保たれています。外は熱ナトリウムで暑く、湿気カリウムが少ない乾燥状態です。
また、空気清浄機交換系で香りカルシウムは、多少の熱ナトリウムと交換で外に排出されていますので、においのない部屋です。このマイナス静止電位の部屋で、心安らかにオフ状態で安定しています。
この状態で、隣室から熱気信号が伝わってきました。さあ仕事です。窓ナトリウムチャンネルを全開にします。急激に熱ナトリウムが入ってきて、瞬く間に温度電位は上がり、活動状態です。香り穴カルシウムチャンネルが開いて、興奮を誘うカルシウム臭が部屋を襲います。雄たけびを上げてあなたは興奮状態となり収縮します。
しかし長く持続するのは無理です。熱気を反対隣に伝導しながら、安静状態に戻らなければ。とにかく部屋を冷やさなければいけませんが、エアコンポンプでは間に合いません。そうだ、ドライにすれば冷える。というわけで、冷湿気カリウム排出チャンネルを開けます。すると、みるみる湿度が下がるとともに温度が下がって、マイナス静止電位に戻ります。後はゆっくり熱ナトリウム、香りカルシウムを排出して、冷湿気カリウムを取り込みましょう。
まとめ
- 隣接する細胞が興奮すると、静止膜電位がプラスに向かい、それをスイッチにナトリウムチャンネルが開き、大量のナトリウムが細胞内に流入する
- プラスイオンが大量に流れ込むため、膜電位は急峻に上昇してゼロ(0)を超える。分極していた細胞内外がゼロ(0)になって極性を失うので脱分極という
- 活動電位となった細胞内にはナトリウムに引き続きカルシウムチャンネルが開いて、カルシウムが入ってくる。カルシウムは心筋収縮の引き金の役割とともに、プラスイオンの性質から活動電位の持続にも貢献する
- 活動電位から静止電位に戻るために、カリウムチャンネルが開いて、細胞内に多いカリウムが、細胞外に出ていく。結果的にプラスイオンを減らした細胞内は静止電位まで下がる。再び分極するので、再分極という
心筋の構造と電気現象
心筋細胞の仕事は、結局のところ収縮と伝導2つだけです。
・細胞の長さを縮めて、ポンプの力を発揮する……収縮
・信号を隣の細胞に伝達する……伝導
収縮は機械的な構造、伝導は電気現象で、ここではこの2つを学習します。
収縮
ナトリウム、カルシウムの流入で活動電位となり、カリウムの流出で静止電位に戻る。そして活動電位となると収縮が行われると述べました。
それでは、実際に細胞がどのようにその長さを変える、つまりどのように収縮を行うのかそのメカニズムを解説します。
手のひらをパーの形にして、胸の前でお互いの指を、指の間に入れる形をつくってみてください。これが心筋の弛緩状態です。ここからお互いの指の根元まで押し込むと両手のひらが縮みますね。これが収縮です(図10)。
心筋細胞の構造をみると、縦長の細胞は介在板によって仕切られ、網状に連なっています。これをさらに拡大すると、筋原線維(ミオフィブリル)が見えます。筋原線維は筋節(サルコメア)をつなげた組織の束が何本かまとまったものです。これをおおっているのが、心筋細胞の細胞膜である筋鞘(サルコレンマ)です(図11)。
各々の筋原線維をおおうように筋小胞体が取り囲み、また筋原線維を分断するようにT管が間に入り込んでいます。このT管も細胞内外を分ける細胞膜です。またところどころに、エネルギーの供給源であるミトコンドリアがあります。
実際の収縮・弛緩を行っているのは筋節(サルコメア)で、これを拡大してみると、主にミオシンというタンパク質でできた棒(フィラメント)の両端に、隙間に入り込むように主にアクチンというタンパク質でできた棒(フィラメント)があります。このアクチンフィラメントは外側がT管になっています。
先ほどの指の収縮は、まさにこれで、両側のアクチンフィラメントが、中央のミオシンフィラメントに重なるようにスライドして、長さを縮めることで収縮をするのです(図12)。この長さの短縮は、アクチンフィラメントにカルシウムがくっつくことで始まり、離れるまで続きます。
カルシウムの結合の始まりは、活動電位の始まりで、静止電位に戻ると離れて収縮が終了します。つまり、活動電位の持続時間が収縮時間すなわちカルシウムがアクチンフィラメントに結合している時間ということになるわけです。
それではこのカルシウムはどこから調達するのでしょう。もともとカルシウムは細胞内にわずかしかありません。しかし脱分極してカルシウムチャンネルが開くと細胞内に流入してきます。心筋細胞では、いくつかの筋原線維を被覆する筋鞘(サルコレンマ)が細胞膜で、また筋節(サルコメア)の外側にT管があり、これも細胞膜ですから、両方からカルシウムが流入してアクチンフィラメントに結合します。
しかし、たくさんのアクチンフィラメントに結合するには量が足りません。実は筋小胞体という筋原線維の周囲の網状の組織はカルシウムを貯蔵している袋なのです。カルシウムの細胞内濃度が上がると、それを合図に筋小胞体の貯蔵カルシウムが放出されて、アクチンフィラメントに結合し、収縮させ、静止電位に回復するとともに筋小胞体に戻ります(図13)。
ミオシンが内側でアクチンが外側、これはよくどっちだっけ~と間違えます。鍋料理を思い出しましょう。アクは取ったほうがおいしいですから、“アクは外で、中ミオ固定”。アクチンは外側、ミオシンは中で固定されているという創作ダジャレです。
まとめ
- 心筋の収縮は、固定されたミオシンフィラメントの両端から、層状に入り込んでいる、アクチンフィラメントが中央にスライドして長さを短縮することで達成される。この収縮の最小単位を筋節(サルコメア)という
- サルコメアの短縮は、アクチンフィラメントにカルシウムが結合している間持続し、離れるとアクチンフィラメントは外側に戻って終了する(弛緩)
- カルシウムは、活動電位が持続している間、細胞外からの流入と、筋小胞体からの放出で供給されてアクチンフィラメントに結合し、静止電位に回復すると、細胞外に排出され、また、筋小胞体内に再取り込みされて元の状態に復帰する
Note筋節(サルコメア)
収縮・弛緩の最小単位。主にミオシンというタンパク質でできた棒(フィラメント)が中央に固定され、その棒の間にわり込むようにアクチンのフィラメントが両側から入り込んでいる。両外側はT管という隙間があり、細胞膜になっている。アクチンのフィラメントにカルシウムが結合すると、両側からアクチンのフィラメントがスライドして中央に寄って筋節(サルコメア)全体が短縮する。
NoteT管(Tチューブ)
各筋節の間を区切るように入り込み、筋節側は細胞内、管内は細胞外に交通している。内外を分ける細胞膜であり、チャンネルやポンプを通して、ナトリウム、カルシウム、カリウムの出し入れをする。
Note筋小胞体
カルシウムの貯蔵庫で、筋原線維を網状に取り囲んでいて、活動状態になってカルシウムの細胞内濃度が上昇すると、貯蔵カルシウムを放出して筋節のアクチンフィラメントに結合して収縮を維持する。静止状態に戻るとカルシウムは、筋小胞体に再貯蔵される。
Note心筋細胞
筋鞘がいくつか束ねられて、介在板で区切られているのが個々の心筋細胞になる。細胞なので核をもつ。活動電位になると、各筋節が短縮するので、この長細い心筋細胞自体が縮む、つまり収縮することになる。
伝導
伝導という字は、伝え導くと書きますね。心筋での活動状態の波及を伝導といいます。細胞レベルでいえば、活動電位の隣接細胞への波及が伝導です。この伝導を考えてみましょう。
心筋細胞を箱と考えますと、静止状態では、内側はマイナス、外側はプラスに分極しています。この箱の端に電気刺激を入れて膜電位を浅くすると、ナトリウムチャンネルが開いて、ナトリウムが流入し、次いでカルシウムチャンネルが開いてカルシウムが流入、結果的に膜電位が急速にゼロ(0)になって脱分極します。
脱分極した膜は隣り合う膜の電位を浅くしてナトリウムチャンネルを開き、カルシウムチャンネルも開き脱分極させ、波のように箱の集まり、つまり細胞全体を次々と興奮させていきます。
細胞同士は膜で区切られていて、この変化は波及しにくいのですが、縦方向の細胞は介在板という、電気を通しやすい膜で隣り合っていますので、この変化は主に縦方向に伝達されていきます(図14)。
これがすなわち興奮の伝導です。興奮の伝わる速さを伝導速度といって、細胞間の介在板の抵抗で決まります。抵抗が小さければ、興奮は素早く伝わり、伝導速度は速い。逆に抵抗が大きければ興奮は伝導しにくくなり、伝導速度は遅くなります。心筋にはいくつかの種類があり、伝導速度の速いものも遅いものもあります。
それでは実験。箱をいくつか縦に一列につなげて、つないだ面に穴を開けます。それをぶら下げて、上から砂を入れますと、上から下に砂が順々に落ちていきますね。この砂を興奮(つまり活動状態)とすると、上から下に落ちていく様子が、“伝導”です。
砂の落ちる速さが伝導速度ですから、速く落ちれば伝導速度が速いといいます。この速度は何で決まるかといえば接合した面に開けた穴の大きさです。穴が大きければ砂の抵抗が少なく速く落ちるし、小さければ砂は落ちにくくなり、時間がかかります(図15)。
この伝導箱を何列かまとめてぶら下げると、より心臓に近いかもしれません。上から砂を入れると、ある列はゆっくり落ちて、ある列では素早く落下する。また、同じ列でも所々穴の大きさによって、速いところ遅いところがある。でも、横のつながりはない。まるで官公庁みたいですね。官邸が命令を出す。ある省では遅々として伝達が進まないけれど、ある省では素早く末端まで届く。同じ省でもセクションによってはテキパキはかどり、別のセクションでは、動きが遅い。困りますね。
まとめ
- 脱分極の波及が興奮の伝導である
- 心筋細胞間は、縦方向に抵抗が少なく、伝導が速い
- 伝導速度は、細胞間の抵抗によって決まる
心電図の原理
心臓の収縮と拡張は、細胞レベルまでつきつめれば、心筋細胞のなかの筋節(サルコメア)の収縮と弛緩です。
心筋の収縮とは、つまり細胞の脱分極であり、その脱分極の伝わりがすなわち伝導です。この脱分極の伝播つまりは興奮の伝導を、電気のフレとしてとらえて視覚化したものが心電図です。
電極という測定場所を2点つくって、一方を基準点として、他方の電極に向かう興奮をプラスとして図に表します。興奮のない状態、静止状態では直線で、基線といいます。
測定側の電極を我々の眼とすると、興奮の下流側で見ていると、興奮が向かって来ますからプラスつまり上にフレます。逆に上流側では、興奮は遠ざかっていきますからマイナスつまり下向きのフレになります。真ん中ではどうでしょう。近づいて、その後遠ざかっていきますので、上→下の2極性のフレとなります(図16)。
脱分極して、活動電位が持続している間は、興奮つまり電気的な動きはないので、心電図では一度基線に戻ります。そしてまた再分極するときに、ゼロだった膜電位は、細胞内がマイナス、細胞外がプラスになるのでこのとき緩やかな電位を形成します(図17)。この緩やかな小さなフレが心電図でのT波の正体です。
心電図の波形は、急激な脱分極による活動電位の立ち上がりが伝導する、鋭いフレと、再分極を示す、小さい緩やかなフレの2つの波で構成されています。
細胞レベルでは、再分極による波は、マイナスからプラスに転じているので、脱分極とは極性が反対のフレのはずですが、実際の心電図では、脱分極のフレと同じ向きに波を形成します。この理由は別の記事でお伝えします。
まとめ
- 心電図は興奮の伝導を波形にして、視覚化したものである
- 興奮していない状態を基線として、電極に向かってくる興奮(脱分極)をプラス(上向き)に、遠ざかる興奮をマイナス(下向き)に表す
- 脱分極が完了して活動電位に達すると、心電図は一旦基線に戻り、引き続き、再分極するときに緩やかな小さな波(T波)をつくる
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版