ナースのチカラ~私たちにできること 訪問看護物語~【1-1】

ママナースもも子』でお馴染みの広田奈都美さんが描く、訪問看護師マンガ。

単行本1巻の発売を記念して、月刊誌『フォアミセス』より特別転載でお届けします!

 

ナースのチカラ扉絵

 

 

 

―たいていの訪問看護ステーションは、患者さんを受け入れる時病院などからどんな患者さんなのか聞きます― 訪問看護ステーションでナースとして働く持田さんが、師長さんと打ち合わせをしています。「この方は※ADLが下がってて家事ができません(※日常生活動作)」 「ヘルパーさんと連携して家事も自立するように持っていく?」 「本人次第よね…まずは会ってみましょう」  打ち合わせをする2人を黙って見つめながら、後輩看護師の花はこう考えています。 (だいたいこの2人がメインで決めているのですが…)(新人の私は余計なことを 言わないようにしている…よくわからないから)

 

すると、50歳新人ナースの幸代が花に話しかけてきました。 「花ちゃんは3年目でしょ?いろいろ教えてくださいね!!」 花は慌てて返事をします。 「えっ…あっ…そんなー。…3年目だけど全然自信ないです…。いいなぁ幸代さんは新人で…」 ともらす花に、幸代はツッコミを入れます。 「なぜ!?50歳の新人だよ!?」 「2人で行けるじゃないですかー」 「あーそういう…」 「それに幸代さんはベテランに見えるし…なめられないじゃない ですかー」 「…あーまあ…そうね…」 今は1人で訪問に言っている花には幸代が羨ましく思えます。 「失礼なことサラッと言ってるねー」 「本当ー成長ない」 すると、先輩ナースの持田と馬渕からツッコミが入ります。

 

「3年目なんだから新人さんに教えるくらいじゃないとだめなのよ」 「そうよカンファレンスでも発言しないとー」 「……う」 先輩2人にダメ出しをされて言葉に詰まる花。 「わかってます。わかってますよー。…あーもう時間なので行ってきます!!」 とそそくさと訪問に出かけます。 (人生経験のない24歳が在宅の訪問に行くと2パターンある) とある訪問先のご家族からは…「あら花ちゃんよろしくねー」 (孫のように扱う。…または) また別の訪問先の患者さんからは…「…馬渕さんにくるように頼んだんだけど…」 (全く信頼されない…) と、花は落ち込みます。

 

(どちらにしろ…私が未熟者だという認識には変わりない…。ここにいるのは…私じゃないほうがいいのだと思う) 花は己の未熟さに自信をなくしています。。 場面が変わり、訪問看護ステーションでは…。 持田さんが増岡さんに話しかけます。 「さて私たちも行きますか」 「……研修の間はあなたとペアを組むのね…」 と、増岡さんがつぶやくと、 「そうねあとは時々他のスタッフにも頼むと思うけどまずは私で…。栗田さんは馬渕さんねー」 とペアを割り振り、幸代は「はいっよろしくお願いします」と緊張した様子で答えます。

 

幸代とペアを組むことになった馬渕さんは、幸代に話しかけます。 「ペアで訪問するのは1年間だけです。その間にいろいろな 技術を覚えてください。でもまぁ幸代さんは人生経験があるからそこは安心していますが…」 「人生経験というほどのものは…」 馬渕に褒められて謙遜する幸代。馬渕さんはフォローします。 「お姑さんを介護してお子さん2人も育ててらっしゃる じゃないですか。すごい経験ですよ、それは立派です。」 幸代は少し驚きつつ、こう考えます。 (ここの人たちが素敵なのはこんな私のこともこうやってかついでくれることだ…。ささいなことだけど、人生に自信のない人ほどこういう言葉に支えられてる。私も真似しよう…)

 

車で訪問先に向かいながら、馬渕さんはふと3年めの花のことを考えます。 (助手席に新人のせるって久しぶりだな…。あの子…最近元気ないけど大丈夫なの だろうか…。) すると、幸代は無邪気な様子で馬渕さんに話しかけます。 「花ちゃん私の立場をうらやましがっていましたね。」 幸代の言葉に、馬渕さんは少し考えたあと、こう答えます。 「あの子は…無自覚な甘えん坊だからなー。」  場面は代わり、花の訪問先では…  「痛み止めが効かないから、もっと処方するように先生にお願いしてよ!!」 と呆れた様子で花の訪問先の患者さん(木元 一(きもと はじめ))は花に訴えています。  「そうなんですね…どの時間にどのくらい痛いんですか?」 花は少し困ったように答えますが、患者さんは「ずっと痛い」「とにかく痛み止めがほしい」と言い続けます。 「日記をつけてもらってると思うんですが…」 と花が確認しようとすると、「日記?」と木元さんは信じられないという風に返事をします。

 

「日記なんて痛くてつけてられないよ…ったくもう…早く医者に処方書いてもらって…。あーあー持田さんや馬渕さんなら話が早いのに…。」 持田さんや馬渕さんだったらよかったのに、という木元さんの言葉に花は「すみません…」と答えることしかできません。 (この頃本当に自信がなくなってきてる。2年目の時はできなくて当然という部分があったけど…。3年目の今は自分でもダメだなって思う…) と花は落ち込みます。

 

場面は代わり、事務所に戻って持田さん、馬渕さん、増岡さん、花、幸代で共有をしています。 「木元さんね…(※1)オピオイド増量希望か」 と、持田さん。馬渕さんは花に質問をします。 「痛みの評価は?」 「あっ…(※2)STASで3くらいかと…」 「そうじゃなくて(※3)レスキューの量とか時間とか痛みの部位とか」 「…はいすみません…聞こうと思ったんですけど、木元さんイラついてて…」 (※1医療用麻薬、※2 痛みのスケール、※3 頓用の医療用麻薬) すると、馬渕さんと花の会話を見かねた様子で増岡さんが入ってきました。 「そりゃ相手は痛いんだもの。イラついて当然でしょ?なに言ってんの?それに 対応するのがナースでしょ?ここに3年いてこんな感じなら私ここきた意味あるのかしら。正直病棟のほうが学べることたくさんあるような気がする。午前中も投薬確認とケアぐらいしかやってないし。

 

すると、 「…午後私が木元さんの所にいってみるわね と持田さんは提案し、馬渕さんと幸代はその様子を黙って見守ります。 ―木元 一(きもと はじめ)(71)大腸がんのステージⅣで、全身に転移。妻とは離婚し、子供とも離れ一人暮らし。手術後抗がん剤を使用したが寛解(かんかい)せず、現在は緩和ケア中。最後は病院ではなく自宅で亡くなりたい、と本人の希望で在宅療養中―  午後、持田さんと増岡さんは、木元さんの自宅に車で向かいました。 訪問中の車の中で、持田さんは「基本的に主治医はオピオイドやレスキューは末期の方には制限しないドクターだけれど…はてさてどうしたものか…」とつぶやくと、増岡さんは信じられないという風に答えます。「なにを迷うことがあるわけ?もう残りわずかな人生を痛みと共に生きるなんて、気の毒だわ」

 

「それはわかってる。でも痛みは不安や孤独からもくる。もう一度、彼にとって麻薬(オピオイド)を使う意味を考えたいの。」 木元さんの要望通り、早く麻薬(オピオイド)を処方するべきだという増岡さんの意見に、増岡さんは真剣な様子で答え、増岡さんはそんな持田さんを少し驚きながら見つめます。  ―木元さんの自宅― 「初めから持田さんがきてくれたらいいんだよ」 「木元さん痛みが取れないって聞いて…」 木元さんの言葉に持田さんは答えます。木元さんはベッドに横たわりながら、話し続けます。「そうなんだよーせつなくてさー。俺1人だろー。夜中なんてさー心細くてまいっちゃうよ。ぽつんと1人でいるとさー、このまま死ぬのかなーなんて思うと辛くなっちゃうよ」

 

木元さんの言葉に、「辛いですね…」と共感する持田さん。増岡さんは二人のやり取り黙って見つめています。木元さんは更に続けます。「辛いなんてもんじゃないよ…1人だもん。あんた、わかるかい?」「でも夜1人が怖いんだったら病院に行く手もありますが…」と辛さを打ち明ける木元さんに持田さんが提案すると、木元さんは「それはイヤ!!病院は嫌いっ。煙草もだめだし、食事はマズイし…!!大部屋はうるさいし…」と病院に行くことを強く拒否します。そんな木元さんを、増岡さんはワガママだと思い顔をしかめます。しかし、「それに俺は病院ではやっかい者だから」という木元さんの言葉に、少しハッとします。木元さんは続けます。  「ワガママだとか自分勝手だとか医者や看護師はみんな言うんだ。息子や元女房だって そうだよ。俺がこうなったこと知っても知らんぷりだよ。持田さんみたくさー

 

「皆 優しくない!!冷たいんだよ!!俺だって病気で辛いんだっ!!」 と不満をもらす木元さん。持田さんは話題を変えようと話しかけます。 「……木元さんて昔、営業されてたんですってね」 「ん?……あぁそうだよ」 「ビール会社の!!評判の営業さんだったんですってね…」 「いや別に評判て訳じゃないけどあれだよ…地区ナンバーワンで社長賞もらったよ」 「へーっすごい!!社長賞!!どんな言葉かけてもらえましたか?」 「そりゃあほめられたよ」 「みんなの前で?あぁそうだよ、みんなの前で…」 仕事で活躍していたことを褒められて、木元さんは嬉しそうに答えます。

 

「結局、なんだったの?あの木元って人」 持田さんは答えます。 「聞いてもらいたかったんだと思う…。緩和ケアに入ったとはいえ…まだ今日明日というわけではないから。今 増量してやりたいことができなくなるのは避けたいでしょ?」 「あの人のやりたいことってなに?」 増岡さんの一言、率直な質問を、持田さんは黙って受け止めるのでした。

【2】に続く

 

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【著者プロフィール】

広田奈都美(ひろた・なつみ) HP

漫画家・看護師。某地方総合病院にて勤務後、漫画家としてデビュー。著書は「僕達のアンナ」(集英社)、「お兄ちゃんがコンプレックス」、「ママの味・芝田里枝の魔法のおかわりレシピ」(秋田書店)他。

 

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マンガ・ママナースもも子の今日もバタバタ日誌

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