犬のプリセプター?!|海音、「犬の社会のルール」を覚える
災害救助犬&セラピードッグのおさんぽ日記【6】
南園彩子(Minamizono Ayako)
日本レスキュー協会・セラピードッグトレーナー
まず「人が上」だということを分からせる
「おすわり」「ふせ」「あとへ」が服従訓練の基礎
いよいよお散歩デビュー!
海音のお散歩デビューは、ワクチン接種が済んだ生後4カ月のころです。
犬を子犬のころから育てたことがある方はご存知だと思いますが、基本的に、ワクチン接種が終わっていない子犬をお散歩に連れて行くのは危険です。
子犬のうちはまだ免疫力が弱く、ほかの犬との接触やほかの動物の糞尿によって、さまざまな病気に感染しやすいためです。
そのため、ワクチン接種が済むまでは、海音は抱っこをして散歩していました。
お散歩デビューまでに必要なことは、首輪やリードに慣らすことです。
普段から首輪を着け、「首に何か着いている」状態に慣らします。そしてその後、リードに慣らします。
それまでリードを着けていないので、海音は自由に動けていましたが、リードを着けたことで自由に動けず、自分が行きたい方向ではない方に引っ張られることがあります。そうすると、海音は嫌がって歩かなくなることもありました。
そのため、部屋の中で遊んでいる時にリードを着け、少し引っ張ったり、部屋の中でリードを着けて歩くなどし、徐々に慣らしていきました。
今ではリードも平気です。「この服、カワイイでしょ?」
首輪やリードに慣れてくると、いよいよ外での散歩デビューです。
私には海音のほかにチワワの皆輪(みわ)という担当犬がいます。皆輪は現在、5歳の女の子で、海音にとっては3つ上のお姉さんです。
遊び相手になってくれたり、時には怒られたり、体は小さいけれど皆輪は海音の教育係をしてくれています。
皆輪とのツーショット写真。「身体はワタシのほうが大きいけど、皆輪お姉ちゃんのほうが年上なの」
海音が初めて行く場所や何かをすることは、たいてい先に皆輪が経験していました。海音は人懐こく、怖がりなタイプではありませんが、それでもやはり、初めてのお散歩は海音だけだと少し怖がってあまり歩きませんでしたが、皆輪が一緒だと怖がる様子なく歩くことができました。
初めて行く場所も初めてすることも、皆輪の様子を見ることで海音は安心していました。
訓練などでは人から学ぶこともありますが、やはり同じ犬から学ぶことも多いのです。
たとえば、ほかの犬の真似をしたり一緒に遊ぶことで、犬同士の挨拶の仕方を覚えたり、犬同士で噛み合うことで「噛まれると痛い」ということや、噛む力が強いと相手の犬から怒られたり、嫌がられることから「甘噛みはいけない」など、「犬社会のルール」を覚えていきます。
服従訓練の開始
お散歩デビューができたら、服従訓練も開始します。
災害救助犬もセラピードッグも、基本的にこの服従訓練が基礎となります。
まず「人が上」だということを分からせる
犬がお腹を見せるポーズをしたら、「あなたに敵意はありませんよ(服従しますよ)」という合図だということをご存じの方も多いでしょう。
お家で飼っているペットなどでは、自然とそのポーズで寝ているコもいるかもしれませんが、セラピードッグなどのように訓練を行う犬の場合、そのポーズを取ることも人が主導で教えます。
まず、犬の体をひっくり返して(もちろん優しく)、仰向けにしてお腹をなでます。 犬は最初のうちは、自由がきかないので暴れることもありますが、そのまま大人しくなるまで待ちます。
ポイントは、犬が離してほしいときに離すのではなく、人が離したいときに離すことです。そして、離した後はしっかりほめて遊んであげます。離した後にそのままだと、犬にとっては「嫌なことがあった」だけですが、褒めることで「おとなしくできると良いことがある」と覚えるようになります。
お腹を見せるポーズ訓練中の海音(生後3カ月)。皆輪も一緒にゴロン!
それを繰り返すうち、「この人は自分よりも上の人だ」と理解するようになります。
訓練を行う上で、まず何よりも大切なのは、犬に人がリーダとして認めてもらうことです。犬は元々群れで生活していた動物なので、家族の中で自分よりも上か下かの順番を決めます。そこで「この人は自分よりも下だ」と覚えてしまうと、指示を聞かなくなります
「おすわり」「ふせ」「あとへ」が服従訓練の基礎
服従訓練の基礎は「おすわり」「ふせ」「あとへ」ができるようになることです。
海音は、「おすわり」はすぐに覚えましたが、次の「ふせ」は覚えるのに少し苦労しました。
おすわりからふせの動作をする途中に立ってしまったり、ふせを覚えた後は、おすわりをしたら先読みして勝手にふせをしたり…。そのため、立った状態からふせをする動作も教えました。
「あとへ」は人の左横に犬がついた状態のことを言います。「基本姿勢」とも言います。
そのまま人について歩くことを「脚側行進」といいます。これを覚えると散歩の際もリードを引っ張らず、しっかり横について一緒に歩くことができるようになります。
「あとへ」の訓練は、まずは犬が人のどの位置(左横)につくかを教えます。
まずはおすわりした海音の右横に「あとへ」という号令とともに私がつき、おやつをあげる、という動作を繰り返します。
次に、少しだけ私が海音の前に出ます。そこで「あとへ」と号令をかけ、海音が少しでも横につこうとしたら褒めます。できるようになると、その前に出る距離を少しずつ伸ばし、海音がいつも同じ位置に来るように誘導します。
位置を覚えると次はおやつを見せながら一緒に歩きます。最初は、おやつに飛びついたり、集中が続かず飽きてしまったりしますが、焦らずに繰り返し、1歩でもできるようになれば褒めます。
しかし、ただ歩いていると海音は飽きてしまうため、お散歩の途中に訓練をしたり、訓練場所を変えるなど工夫し、やっと横について歩くことを覚えました。
さらに、海音と向き合い、「あとへ」の号令で海音がくるっと向きを変えて私の左横につくことも教えました。これは、人がどの位置にいても、しっかり横につけるようにするためです。
しかし、まっすぐ一緒に歩くことはできても、位置を変えると意外と難しく、海音もなかなか覚えることができませんでした。私も訓練の動画を見たり、色んな方にアドバイスをいただくなどして訓練を続け、やっと海音も覚えることができたのです。
ハンドラーの号令にきっちり従う海音。「ね、ね、その手に持ってるのちょうだい!」
【南園彩子 みなみぞの・あやこ】
認定NPO法人日本レスキュー協会所属、セラピードッグトレーナー。
介護などの福祉の仕事と、犬と一緒に活動できる仕事に興味を持っていた。専門学校の研修で当協会のセラピードッグの活動を知り、自分のやりたいことが両方兼ね合わしている仕事だと思い、ボランティアを経て2012年入職、現在に至る。
災害救助犬(レスキュードッグ)の育成・派遣を中心に世界規模で活動するNGO団体。国際救助機関として、災害時には国内外問わず、広く活動している。
また、災害救助活動のほか、セラピードッグの育成・派遣や捨て犬・捨て猫の保護など動物福祉・愛護活動も行っている。
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