先輩に貸した480円、「返して」と言うべき？｜ナースの金銭トラブル【1】

「お金」のトラブルは、意外とどこの職場でも身近にあるもの。私には関係ない、と思っていても、ちょっとしたお金のやりとりから深刻な問題に発展することも……。

実際にあったナースの金銭トラブルから、被害を最小限に抑える対策を考えてみましょう。

ナースの金銭トラブル

【１】先輩に貸した480円、「返して」と言うべき？

たった480円でも人間関係は崩壊する

お金の貸し借り、1000円くらいまでならトラブルになりようがない、と考えてはいませんか？　実は職場でのちょっとしたお金の貸し借りをきっかけに、職場の居心地が悪くなる、などという事態に発展しかねません。言い出しにくいからと言って貸し借りの精算を先延ばしにしてしまうのは厳禁です。

大学病院の小児科病棟に勤める看護師、田中美奈子さん（仮名）の体験談を聞いて見ましょう。

はじめはたった480円……お金を返してくれない先輩

看護師3年目の美奈子さんは、和を重んじる人柄。元々小児科で働くのが夢だったので、忙しくも充実した日々を送っています。最近美奈子さんが困っているのは、ひとつ年上の先輩、野津綾子さん（仮名）のことです。野津さんは職場のムードメーカー的存在なのですが、お金にルーズなところがあるのです。

はじめはふたりでランチに行ったときのこと。

「ロッカーにお財布忘れてきちゃった。悪いけどお昼代貸してくれない？　すぐ返すから」

食堂で野津さんが頼んだＡ定職は480円。たいした金額でもないので美奈子さんは快く貸しました。野津さんとのランチは楽しく、前に務めていた病院での話を聞いているうちにあっという間に過ぎていきました。

けれどもロッカールームに戻ったらすぐにランチ代を返してくれるはずが、野津さんはそのまま仕事に入り、財布を出すそぶりもありません。とはいえ美奈子さんもそのときはあまり気にしませんでした。

徐々に積み重なる金額、やがて1万円オーバー！

その後も美奈子さんは、野津さんに何度かお金を貸しました。ジュースを買いたいけど小銭がない、ATMが閉まっているから1000円だけ貸して、財布を家に忘れたから今日のランチ代と電車賃……。いずれも小額で、お財布を圧迫するわけでもないだけに美奈子さんも催促しかねました。細かいお金にうるさい、小さい人間だと思われそうだったからです。

そうこうするうちに数ヶ月が過ぎ、さすがに次の給料日には聞いてみようと決心した美奈子さん。まずは貸した金額を計算しようと記憶を頼りにメモしていくと、なんと金額は1万円オーバー！　積もりに積もった金額に、さすがの美奈子さんも絶句しました。

その後、金額と日付を入れたきっちりとした一覧を作り、給料日を待ちました。それまでに野津さんのほうから思い出さないかと期待したものの、とくにアクションはなく、野津さんはいつもどおり元気に仕事をしていました。

思い切って「返して」と言ったけど……

給料日当日、美奈子さんは意気込んで出勤しましたが、野津さんはシフト上お休みでした。その翌日、野津さんは遅刻ぎりぎりにロッカールームに入ってきて、

「見て見て、昨日思い切って買っちゃった」

と手にしていた新品のブランドバッグを見せてきます。

（私に1万円も借りていたのに……）と美奈子さんは抑えきれない怒りがわいてきました。

「野津さん、そろそろランチ代返してもらえませんか？」

1万円以上たまったメモを見せると、すっかり忘れていた様子の野津さんは驚いた声を上げます。

「そんなに？！　持ち合わせないよ」

その大きな声に、ロッカーにいた全員が美奈子さんたちに注目が集まります。やりとりを見ていた先輩が「ちゃんと返さなきゃ、ね？」ととりなしてくれましたが、野津さんは不機嫌そうに黙り込み、ロッカー内もなんだかピリピリした空気に……。野津さんはどんなに仕事が忙しいときでも職場でそんな顔をしません。周りの同僚もなんだか気まずそうにしていました。

お金は返ってきたものの、人間関係は最悪に

その日の昼休み、ロッカールームで野津さんが美奈子さんに乱暴にお金を手渡しました。

「はい！　これでいいんでしょ」

野津さんには申し訳なさそうな様子は微塵もなく、美奈子さんも無言でお金を受け取るだけ。その日以来、ふたりは仕事上必要最低限の話しかしなくなってしまいました。

おまけに職場内では「金銭トラブルで仲違いした」とうわさが立ち、病棟内どころか病院全体に知られる羽目に。しかも元々おしゃべりな野津さんは、「すぐ返すつもりだったのに、美奈子さんがすごく怒って」などと他の人に言いふらしていました。結局、自分が悪かったわけでもないのに、やがて美奈子さんは徐々に居心地が悪くなり、せっかくやりがいのあった仕事も辞めることに……。

はじめはたったの480円。あの時もっと上手に言い出していればこんなことにはならなかったかもしれない、と美奈子さんは後悔しているそうです。

【教訓】小額でも先輩でも即精算すべし

今回の美奈子さんは、仲の良い先輩と気まずくなりたくないから、と金銭のやりとりを曖昧にしたまま貸し続けた結果、トラブルになってしまいました。

最初にお金を貸した時点でしっかりと催促し、2度目からは「この前貸したぶんを返してくれるまでは貸せない」と断るべきでした。それから小額であっても日付や金額をメモしておき、早めに返して欲しいと明るく切りだせるとよいでしょう。

また、うわさになるなどの二次トラブルを防ぐためにも、話をするときはふたりだけで済ませる、あるいは信頼できる同僚だけに相談して立ち会ってもらうなどの手を打っておくと良かったのではないでしょうか。