妊娠初期に活用できる母子保健制度

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は妊娠初期に活用できる母子保健制度について解説します。

 

花原恭子
聖泉大学看護学部講師

 

 

妊娠の届出(母子保健法第15条)

妊娠がわかったら、医療機関から妊娠届をもらい、市区町村長(市立・区立の保健所がある場合には保健所)に妊娠届を提出する。

 

法律上における妊産婦の定義

妊娠中または出産後1年以内の女子をいう。

 

 

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母子健康手帳の交付(母子保健法第16条)

妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳が交付される。内容は、妊娠の経過、出産や出産後の母体の経過、新生児期から6歳までの成長過程、児の予防接種の記録や健康相談などの結果が記載されている(図1)。

 

図1 母子健康手帳

母子健康手帳

各月に妊婦自身の気持ちなどを記載する欄もある。

 

 

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マタニティマークの活用

2006年より「健やか親子21」の推進において、「マタニティマーク」が導入された(図2)。

 

図2 厚生労働省が出しているマタニティマーク

厚生労働省が出しているマタニティマーク

 

妊娠初期は、外見からは妊娠していることがわかりづらく、周囲の理解が得られにくい。妊産婦が交通機関等を利用する際に身につけ、周囲が妊産婦へ配慮を示しやすくし、災害緊急時に、妊婦であることを知らせやすくなる。さらには、公共機関などが、その取り組みや呼びかけ文をポスターなどに掲示し、妊産婦にやさしい環境づくりを推進するものである。

 

 

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働く妊婦の母性健康管理措置、母性保護規定

男女雇用機会均等法

保健指導や健康診査を受けるための時間の確保(第12条)
事業主は、雇用する女性労働者が保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

 

指導事項を守るための措置(第13条)
事業主は、雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減、交通手段や通勤経路の変更、休業等必要な措置を講じなければならない。
医師の指導事項を事業主に的確に伝達するため、「母性健康管理指導事項連絡カード」が定めており、事業主はその利用に努めることとされている(図3図4)。

 

図3 母性健康管理指導事項連絡カードの活用

母性健康管理指導事項連絡カードの活用

厚生労働省:働きながら安心して妊娠・出産を迎えるために、より改変)
 

 

図4 母性健康管理指導事項連絡カード

 

妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止(第9条)
事業主は、女性労働者の結婚・妊娠・出産・産前産後休暇や育児時間の取得を理由とする解雇その他不利益取り扱いをしてはならない。

 

不利益な取り扱いとは

解雇すること、契約社員に対して契約を更新しないこと、正社員と非正規社員に労働契約の変更を強要する、降格させる、減給、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うことなど。

 

妊娠・出産等に関するハラスメント対策(第11条の2)
職場の上司・同僚による就業環境を害するハラスメント行為を事業主に対して防止対策を講じることが義務付けられた。ハラスメントとは妊娠・出産に関する制度又は措置を利用する女性労働者および育児に関する制度を利用する男女労働者の言動により、職場における嫌がらせなどの就業環境が害されるものを指す。妊娠・出産した女性に対してマタニティ・ハラスメント(マタハラ)、育児のために休暇や時短勤務を希望する男性に対してパタニティ・ハラスメント(パタハラ)ともいわれている。

 

マタニティ・ハラスメントの実態

2015年の厚生労働省のマタハラの実態調査では、被害に遭った割合は、契約社員13%、正社員21%、派遣社員は48%と最も高く、雇用の不安定な派遣社員の被害に遭いやすい実態が明らかになった1)。その結果、派遣先に対しても男女雇用機会均等法(労働者派遣法第47条の2)で適応されることになった。

 

紛争の解決(第15条~第27条)
母性健康管理の措置が講じられず、事業主と労働者間に紛争が生じた場合、調停など紛争解決援助の申出を行うことができる。

 

労働基準法における母性保護規定

妊婦の軽易業務転換(第65条第3項)
妊婦が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない。

 

妊産婦等の危険有害業務の就業制限(第64条の3)
妊産婦等を妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせることはできない。

 

危険有害業務とは

量物を取り扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務、著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務などを指す。

 

妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限(第66条第1項)
変形労働時間制が取れる場合であっても、妊産婦が請求した場合、1日および1週間の法定時間を超えて労働させてはならない。

 

法定労働時間とは

・1日8時間
・1週間40時間

 

妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限(第66条第2項および第3項)
妊産婦が請求した場合、時間外労働、休日労働、または深夜業をさせることはできない。

 

深夜業とは

午後10時~午前5時までの就業

 

坑内労働の就業制限(第64条の2項)
妊産婦が請求した場合、すべての坑内業務に就かせることはできない。

 

坑内業務とは

炭鉱やトンネルなどにおける労働のこと。

 

 

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引用文献

1)厚生労働省:妊娠等を理由とする不利益取り扱いに関する調査の概要、2019年12月5日検索

2)尾保手正成:全ての座席のシートベルトの着用とチャイルドシートの使用の徹底、人と車、54(8):4~ 12、2018

3)厚生労働省保険局:高額療養費制度を利用される皆様へ、2019年12月27日検索

4)厚生労働省:平成30年度雇用均等基本調査(速報)、2019年11月21日検索

参考文献

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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