乳房トラブルのケア|乳房・乳頭トラブルへの対応②
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は乳房トラブルのケアについて解説します。
山下 恵
中部大学生命健康科学部保健看護学科講師
油井友美
元・汐見台病院助産師
乳房トラブルのケア
適切な授乳姿勢と吸啜による制限のない授乳を頻回に実施することが原則である。
乳房トラブルのケア
・ 乳房トラブルのケアで最も重要なのは予防!
・ 慣習的に行われている乳房への温罨法や冷罨法の有効性は実証されていない。
・ 乳房緊満の対処方法として現在、有効性が実証されているのは「時間制限のない授乳」「適切な授乳姿勢」「痛みのない授乳」のみである。
1乳房の冷罨法
目的
解熱、疼痛緩和、乳汁産生抑制を目的とし、乳房痛や熱感が強い場合に冷罨法を行う。また、血管を収縮させることにより乳房内への血液の流入を低下させ、乳汁産生を抑制する。
手順
主に授乳後に実施する。
1冷たいタオル、食品用保冷剤、乳房用冷罨法パットなどをガーゼや乾いたタオルなどで包む。
2乳房の発赤・疼痛・熱感のある部位に貼用する(乳頭・乳輪への貼用は避ける)。
3乳帯などで冷罨法用具を支える。
留意点
・凍傷に注意し、定期的に観察をする。
・冷やすことにより、授乳婦に不快感や痛みが生じるようであれば中止する。
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2乳房の温罨法
目的
乳房内の循環促進、射乳反射の促進が目的である。血管の拡張により血液・リンパ液の循環を促進し、乳汁の産生・分泌、射乳反射を促す。
手順
主に授乳直前に実施する。
1蒸しタオル、乳房用温罨法パットなどをガーゼや乾いたタオルなどで包む。
2乳房全体、または硬結部分に貼用する(乳頭・乳輪への貼用は避ける)。
3乳帯などで温罨法用具を支える。
※温かなシャワーで、乳房や下肢、全身を温めることもある。
留意点
・低温やけどに注意し、定期的に観察する。
・乳房への血液・リンパ液の流入が亢進し、乳房緊満が増強する可能性がある。
・温めることにより、授乳婦に不快感や痛みが生じるようであれば中止する。
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3乳房の固定
目的
乳房の安静と乳房内の循環促進を目的として行われる。
手順
1タオルをねじって棒状にし、乳房の下にあてる(図1-1)。
2タオルで乳房を体幹中央上方に向かって持ち上げるようにし、乳帯などで支える(図1-2、図1-3)。
留意点
・提乳帯を用いてもよい。
・授乳婦の心地よさが大切である。固定により苦痛を感じるようであれば中止する。
・乳房が大きく下垂している授乳婦(乳房タイプⅢ型)に対する苦痛軽減の効果が高い。
4その他
・乳房マッサージ、リンパマッサージ、背部マッサージ、上半身の体操、足浴、背部温罨法などさまざまな試みがなされている。
・ブラジャーは、ワイヤーの入っていないタイプで、やわらかく締め付けないものを選択する。
・水分制限はしない。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版