膵癌
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は膵癌について解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
外科専門医・臨床研修指導医
膵癌
原因
はっきりとはわかっていませんが、喫煙や慢性膵炎、糖尿病が発症のリスクにかかわっているとされています。
症状
早期では無症状であることが多く、腹痛や背部痛、黄疸などの症状が出現したときにはすでに進行癌であることも多いです。
治療
手術や薬物療法、放射線療法が選択されます。
膵頭部癌では、癌の状態にあわせて膵頭十二指腸切除術を行います。
膵体尾部癌では、脾合併膵体尾部切除術が基本です。
進行癌では、胆管バイパスやステント留置、胃空腸吻合術を伴う姑息的(こそくてき)手術が行われることもあります。
姑息的…? 卑怯なってこと?
「一時しのぎ」とか、根治ではなく症状の軽減を目的にする場合に使う言葉だよ。
たとえば、胆管癌で胆管が閉塞してしまっているけれど根治が見込めない場合や、高齢で侵襲性が高い手術をすることが難しいと判断された場合、症状が落ち着くのを待ってから手術に踏み切りたい場合など、とりあえずステントを留置することで閉塞を解除したりして、まずは症状の軽減を目指すことだよ。
腸閉塞でイレウス管を入れて腸管を減圧して、浮腫が落ち着くのを待つ…みたいな感じですか?
そうそう! そういうこと!
膵仮性嚢胞
膵炎や外傷などで痛んだ膵にできる嚢胞です。膵液や壊死組織、滲出液などが溜まります。
そのまま消失することも多いですが、大きくなり続けて痛みなどの症状や感染がみられる場合には治療が必要です。
内視鏡的に内容液を排泄する処置のほか、手術が必要になることもあります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
膵管内にでき、良性(原則)の腫瘍が産生する粘液が溜まって嚢胞のように見えるものです。
癌化することがあるため、手術適応になる場合もあります。手術は膵癌の術式に準じることが多いです。
膵液と膵炎
手術で治療することはまずありませんが、膵炎(特に急性膵炎)について説明します。
膵炎は死亡するほど重篤になることもあります。いくつかの原因がありますが、一番はアルコールです。
はっきりと原因がわかっていない部分もあるのですが、アルコールが膵臓自体の膵液からの防御機構を働かないようにしてしまうことがあることがわかっています。
そうなると自分で出した膵液で膵臓が消化され、さらに傷ついた膵臓から膵液がお腹の中に漏れていくんです。
膵液はなんでも溶かす最強の消化液です。それがお腹の中に漏れると大変なことになるのは、わかりますよね。
もしお腹の中で漏れたらまわりの内臓が大やけどする感じになります。
内臓がやけどするってどんな感じなんですか?
皮膚のやけどを思い出して。腫れて、水ぶくれができて、それが破れたらただれて汁が出るよね。
内臓も同じ。水ぶくれこそできないけど同じようなことが起こっているよ。
内臓が腫れてただれて汁が出る。それも大量に。いわゆるサードスペースに水がいっぱい逃げてくる。だから大量に輸液してあげないと、どんどん脱水が進んで大変なことになるんだ。10L/日くらい輸液しないといけないなんてことはざらにあるんだよ。
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膵癌の術式
ここでは主に膵癌で用いられる術式について説明します。切除する場所によって、術式が異なります。
膵切除術
❶膵頭十二指腸切除術
膵頭部・膵鉤部を切除するときの術式です(図1)。
膵頭部の中を胆管が貫き、また膵臓と十二指腸は剥がせないほどよくくっついているので、膵頭部と胆嚢・胆管、十二指腸、胃の幽門側を同時に切除し、消化液が流れるように空腸をつなぎ直します。
なお、最近では胃の幽門側を温存する術式が多く用いられています。
❷膵体尾部切除術
膵頭部を残し、膵体部や膵尾部を切除します(図2)。
同時に脾臓や周囲のリンパ節も切除します。最近では、脾臓を温存する術式が用いられることもあります。
❸膵全摘術
件数としては非常に少ないですが、膵臓をすべて摘出します。
膵臓のほか、胆嚢・胆管、十二指腸、胃の幽門側を同時に切除し、消化液が流れるように空腸をつなぎ直します。
全摘するので、膵臓の機能は失われてしまいます。
膵臓の術後のドレーン
膵頭十二指腸切除術では、図3のように膵管ドレーンと胆管ドレーンを留置します。その目的は2つです。
1つ目は、吻合部にトラブルが起きて詰まってしまったら、膵管なら膵炎、胆管なら閉塞性黄疸になってしまうため、そうならないように別の出口をつくっておく、ということです。
2つ目は、万が一トラブルで狭窄しそうになっても、管の太さよりは細くならないようにしておくことです。
術後、吻合部が落ち着いたころになったら、ドレーンをクランプします。そこで、膵液や胆汁が問題なく流れていることがわかれば抜去します。
…ということは、膵管ドレーンが自己抜去されたら、膵液漏になっちゃいますよね…
だから、膵管の自己抜去だけはされないように、ナースも命をかけます!
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注意が必要な術後合併症と術後ケアのPOINT
ドレーンの排液の性状や炎症反応、腹痛、背部痛に注意が必要です!
注意が必要な術後合併症
それぞれの合併症については、該当ページをチェック!
膵液漏
膵液が本来通るべきルートから漏れ出すことです。
膵液はアルカリ性で、タンパク質を溶かす働きがあります。また、膵臓の周囲には大きな血管がたくさん走行しています。そのため、膵液によって周囲の血管が溶けてしまうことで、術後に大出血を起こすリスクがあります。
また、他の臓器も膵液に損傷されると、臓器がやけどしたような状態となり、強い炎症を起こします(膵液と膵炎参照)。
消化された組織は栄養のスープのようになって膿瘍形成や感染のもとになります。場合によっては、腸に孔があいて腹膜炎になるなど重篤になります。
治療は、とにかく漏れた膵液の早期かつ確実なドレナージの継続です。
観察項目
- 強い腹痛や背部痛
- 発熱や血液検査による炎症反応(CRP、WBCなど)
- ドレーン排液の性状→膵液漏では排液が赤ワイン色に!
- ドレーン排液のアミラーゼ値
膵液漏を発見したら医師に即報告!
時には再手術になることもあります!
膵臓の周囲には大きな血管がこんなにあるよ!(図4)
そうそう。ドレーン排液のアミラーゼ値だけど、血中アミラーゼ値が200の人なら、ドレーン排液も200くらいあっても当然なんだよ。
えええーっ!
大丈夫なんですか?!
ちなみに純粋な膵液のアミラーゼ値は20万とかだよ。だから、ドレーン排液のアミラーゼ値が2000とかでも100倍希釈されているよね。
漏れている量は非常に少ないから、「たいしたことないな」って外科医は思っているよ。
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【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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「先輩に叱られるのがつらい」「丁寧すぎて注意された」「リーダー業務のコツを知りたい」「やる気のない自分に自己嫌悪」…。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂