胆嚢・胆管の主な疾患-胆嚢癌、胆管癌、胆石症
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は胆嚢・胆管の主な疾患-胆嚢癌、胆管癌、胆石症について解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
外科専門医・臨床研修指導医
胆嚢・胆管の主な疾患は、下記の通りです。
- 胆嚢炎
- 胆石症
- 胆嚢癌
- 胆管炎
- 胆管癌
- 閉塞性黄疸
- 膵・胆管合流異常症 など
このうち、外科的な治療が選択されるのは主に胆石症、胆嚢癌、胆管癌です。
胆石症、胆嚢癌、胆管癌についてざっとおさらいしましょう。
胆石症
原因
胆嚢や胆管内で胆汁内の成分が析出して石のような状態になることです(図1)。
胆石が詰まり胆嚢が収縮しようとしても収縮できない。重症の場合、胆嚢がラプチャー(破裂)することもある。
この石が詰まると、感染・炎症を起こします(糞石で起こる虫垂炎と同じ理屈です)。
胆石の主な成分はコレステロールとビリルビンなので、脂質やコレステロールの取り過ぎも胆石の原因のひとつとなります。
症状
無症状のこともありますが、腹痛や発熱などの症状で受診し、発覚することも多いです。
治療
薬物療法や内視鏡的治療(ERCPなど)、体外衝撃波破砕療法などが選択されることもあります。
外科的な手術を行う場合には胆嚢摘出術を行いますが、可能なら腹腔鏡下での手術が選択されます。
腹腔鏡下手術で経過が良好であれば、1〜3日程度の入院ですむクリニカルパスを採用している施設も多いです。
だから、開腹するときはいろいろと面倒なことが起こっていることが多いよ。
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胆嚢癌
原因
胆嚢内にできる癌です。
膵・胆管合流異常症という先天的な形成異常が危険因子とされていますが、生活習慣などとの関係はまだわかっていません。
症状
黄疸、腹痛などの症状があります。
ただし、早期の段階では症状が出ない場合が多く、症状が出るころにはかなり進行しています。
治療
早期癌なら胆嚢を摘出します。
浸潤がある進行癌でも手術が可能であれば、周囲臓器(肝臓やリンパ節)を伴う拡大胆嚢摘出術や拡大肝右葉切除術が選択されます。
胆嚢って取っちゃっても大丈夫なんですか?
そもそも胆嚢の仕事は「胆汁を溜めて濃縮させること」。
だから、胆汁自体は肝臓で生成されているんだよね。
つまり、胆汁生成に直接影響があるわけではないということ。
ただ、胆嚢がないと濃縮されていない胆汁が垂れ流しになるわけだから、いままでできていた「十二指腸に入った食事に反応して、濃縮された胆汁を流す」ことができなくなるね。
胆汁の作用は脂肪を溶かすことだから……
脂肪を適切に溶かす量を調整できなくなるわけだから、油物を多く食べたときに下痢をしてしまうようになるってこと。
だから、下痢をする覚悟があるなら、多少揚げ物なんかを食べても大丈夫かな。
術後は胆汁を抑制する内服薬を出すこともあるから、それをふまえて食事指導を行ってね。
そもそも、胆嚢自体に異常がなくても手術のときに胆嚢がないほうが有利だから…って理由で切除することもまれにあるよ。
えぇー!?
でも、胆汁はお腹のなかで漏れたら大変な消化液ではあるんだよ。
胆嚢はとても軟らかい臓器なので、手術中に破けてしまうこともよくあるよ。
そのようなときはしっかり洗ってくるけれども、術後に腹腔内膿瘍になる可能性もあるから、そういう場合は十分に注意してドレーンや全身状態、疼痛の観察をお願いね!
手術記録からの情報収集が大切なんですね!
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胆管癌
原因
胆管内にできる癌で、癌のできる部位によって図2のように分類されています。
症状
初期ではほぼ無症状です。
進行してくると、以下のような症状が現れます。
- 閉塞性黄疸(眼球黄染、皮膚黄染、皮膚瘙痒、白色便、ビリルビン尿)
- 心窩部痛、右季肋部痛
- 食欲不振、全身倦怠感 など
治療
根治を目指すには、多くの場合で手術が必要になります。
しかし、切除ができない場合もあり、その場合には薬物療法や放射線療法が第一選択となります。
胆管切除ができないのは、
- ①癌が重要な血管に浸潤し、安全に切除することができない
- ②肺などの離れた臓器への遠隔転移や大動脈周囲のリンパ節への転移がみられる
- ③腹膜播種(腹膜に癌が散らばって転移した状態)を伴う
などの場合。
つまり、「リスクを冒して手術をしても、根治が見込めないとき」ってことだね。
胆管が閉塞している場合は、内視鏡(ERCP)を用いて閉塞を解除するためにステントを留置することもあります。
ステント留置
癌などによって胆管に閉塞をきたした場合には、ERCPなどを用いて胆管の閉塞を解除するためのステントを留置して閉塞を解除することもあります(図3)。
しかし、ステントはあくまで異物なので、常に感染やステントの閉塞の可能性を考える必要があります。
胆管の疾患って何が問題かというと、肝胆膵をつないでいる道だから、詰まったりして問題が起きても胆嚢みたいに取るだけで手術が終わりになるわけではないところなんだよね。
通り道をつなぎ直さなきゃいけないし、場合によっては肝臓や膵臓ごと切除しなくちゃいけなくなることもあるし。
そう考えると、胆管の閉塞ってすごく大変なことなんですね!
重要臓器にも近いから、癌になると他の臓器への浸潤やリンパ節転移の可能性もある。
腹膜播種になったら、もちろん外科的な治療は難しいから、薬物療法に頼るしかなくなるね。
膵・胆管合流異常症
消化液は混ざるとスイッチが入って活性化されるので、腸に入る前に混ざると危険です。
だから、膵液の流れる膵管と胆汁が流れる胆管は、十二指腸開口部ではじめて合流するのです。
ファーター乳頭に力が入っているときは、2つの管とも閉じられている状態で、膵液と胆汁は十二指腸に流れ出る本当に直前まで混じり合わないようになっています(図4)。
しかし、それがより手前で合流してしまうと(膵・胆管合流異常症、図5)、胆汁が膵管に流れたり、膵液が胆管に流れたりして、それぞれを傷つけます。
すると、痛めつけられた胆管は膨れ(胆道拡張症)、膵癌や膵炎、胆管癌、胆管炎などのリスクが非常に高くなります。
症状が出ててから見つかることもありますが。無症状でもなんらかのきっかけで見つかった場合には手術適応です。
手術は胆汁の流れと膵液の流れを分断してあげればよいのですが、膵臓の中でそんな器用なことはできないので、後述する方法で再建します。
なお、がんではないので、周囲のリンパ節は取りません。
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術式
ここでは、胆嚢の手術と胆管の手術に分けて解説します。
胆嚢の手術
胆嚢を摘出する手術です(図6)。
胆嚢の壁は何層かになっていて、一部分は肝臓に張り付くように食い込んでいます。
胆石症の場合は、肝臓に張り付いている一層を肝臓側に残して摘出します(胆嚢摘出術)。
癌の場合は、肝臓に張り付いている部分も含めて全層切除を行います(胆嚢全層切除)。
もし、癌が肝臓に張り付いている側の壁にあったら、肝臓自体も薄く削ります(肝床切除)。このとき、深く切除すればそれだけ出血や胆汁漏のリスクは高くなります。
進行した胆嚢癌では、周囲のリンパ節とその先の胆管も含めて切除します(肝外胆管切除術、図7)。
胆管の手術
❶中部胆管癌、進行胆嚢癌、膵・胆管合流異常症の手術
肝臓の外、膵臓の外にある胆管を切除して再建します(図7)。
胆管癌の手術として行うには非常に条件が限られていて、正直なところほぼ見ないです。
しかし、進行した胆嚢癌の手術や膵・胆管合流異常症の手術としては最もよく見られる術式です。
❷肝門部領域胆管癌、中枢型肝内胆管癌の手術
肝門部や中枢(肝臓に入ってすぐ)の肝内胆管に癌がある場合、癌のある部分の胆管を取ってしまうと胆汁の出口がなくなってしまいます。
胆汁の出口を手術で作り直すことができなければ、その部分の肝臓は胆汁が排泄できなくなり、生きていけないので、肝臓も切除せざるをえないのです(図8)。
❸遠位側胆管癌、乳頭部癌の手術
下部胆管は膵臓の中を通って十二指腸に達します。
そこに腫瘍がある場合、膵臓内の胆管だけを取って切除する…なんて器用なことはできません。だから、管が通っている膵臓ごと切除せざるをえないのです。
さらに、十二指腸と膵臓もしっかりくっついていて離すことができないので、十二指腸も一緒に切除しなければなりません。
その結果、膵頭十二指腸切除術になります(図9)。
❹末梢型肝内胆管癌の手術
肝内胆管癌は、正確には肝臓の中にある胆管の癌ですが、腫瘍の場所が胆管の末梢のため、肝臓の中にしこりができたというイメージです。
実際、手術も肝癌とほぼ一緒なので、「少し性質の違う肝癌」と考えるとよいでしょう(肝癌の記事参照)。
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その他
開腹手術のほかに、内視鏡や超音波を用いた処置や検査も行われます。
結石の除去や胆管が閉塞してしまったときには閉塞を解除し、胆汁を体外にドレナージすることもあります。
❶ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)
口から内視鏡を入れ、十二指腸から膵管や胆管内にカテーテルを挿入したら造影剤を注入し、膵管や胆管内のX線撮影を行います。
このとき使ったカテーテルをうまく利用して、ステント留置や結石の除去などの治療を行うこともあります。
❷EST(内視鏡的乳頭切開術)
口から十二指腸まで内視鏡を進め、十二指腸にある総胆管の入り口(ファーター乳頭)を切開します。
結石の除去やステント留置のときに行われることが多いです。
なお、「内視鏡的」とはいえ切開を行うので、術後は膵炎のリスクを伴います。
❸ERBD(内視鏡的逆行性胆管ドレナージ)
口から内視鏡を入れ、十二指腸乳頭部から胆管の閉塞している部分の上部までドレナージチューブを送って胆汁が十二指腸内に排出されるようにします。
このとき、閉塞予防のステントを留置することもあります(図10)。
❹ENBD(内視鏡的経鼻胆道ドレナージ)
鼻から胆管にドレナージチューブを入れ、胆汁を排出する方法です。
手術までの「一時しのぎ」としては、最も多く行われています。
❺PTBD(経皮経肝胆管ドレナージ)
超音波下に体表から穿刺し、肝臓内から胆管までカテーテルを送って溜まった胆汁を体外に排出します(図10)。
挿入したカテーテルはそのまま体表に留めなくてはならないので、術後はドレーン管理をする必要がありますが、十二指腸を経由しないため膵炎のリスクがないのがメリットです。
ただし、肝臓を貫くので出血のリスクは大きいです。
ERBDとPTBDはどちらも目的は同じ「胆汁のドレナージ」。
十二指腸側から閉塞部分にアプローチするか、肝臓側から閉塞部分にアプローチするのかの違いだね!
ちなみに、ENBDやPTBDで回収した胆汁だけどね。
捨てるのが長期になることが予想されるなら、胆汁は消化管に戻したいからドレーンバッグに回収した胆汁を経管から入れたり、時には患者さんに飲んでもらったりするよ。
そんなこと、本当にやるんですか?!
本当にやるよ。
コーラで割るのが飲みやすいって聞いたことがある…
やったことないけど。
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注意が必要な術後合併症と術後ケアのPOINT
ドレーン排液や感染徴候などに注意が必要ですが、胆嚢・胆管の術後合併症は、術後出血や縫合不全などの一般的な術後合併症のほか、胆管でつながっている肝臓や膵臓の術後合併症と共通しているので、くわしくはそれぞれのページを参照してくださいね。
注意が必要な術後合併症
Point
胆嚢・胆管の疾患・手術の考え方のコツ
胆嚢・胆管の疾患や手術は「癌だから~」「胆石だから~」と分けて考えていると、頭のなかが混乱してしまいます。
なので、まずは原因となる疾患にかかわらず「胆管が閉塞すると、どのような症状が起こるのか」を理解しましょう。
そこからさらに「胆管の閉塞を手術によってどう解消しているか」「胆嚢だけを切除する場合と胆管切除を伴う場合では、胆汁の輸送経路にどのような違いがあるか」に焦点を当てて考えると理解しやすいですよ!
肝臓でつくられた胆汁がどのようにして十二指腸に流れ込むかを理解できれば、胆嚢・胆管の術後は怖くないよ!
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【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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『ナスさんが答える!ぴんとくるお悩み相談室』
「先輩に叱られるのがつらい」「丁寧すぎて注意された」「リーダー業務のコツを知りたい」「やる気のない自分に自己嫌悪」…。
看護師がぶち当たるいろんなお悩みに、現役看護師が全力で答えます!
読むと「明日からもがんばろう!」って気持ちになれるかも。
本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂