肝癌
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は肝癌について解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
肝癌とは?
原因
・原発性と転移性があります。
・原発性は肝炎ウイルスの感染や飲酒などによる肝臓への障害が慢性的に続いていると、肝細胞が癌化して起こります(図1)。
・転移性は他の癌から肝臓に転移したものです。
・内臓のなかでも、肝臓と肺は他の癌からの転移が起こりやすい臓器です。
肝炎→肝硬変→肝癌って進行していくんだね…
細胞が傷ついて再生するなかで遺伝子のエラーを引き起こして癌化するのは「がんとは?」で勉強しました!
肝硬変になると肝臓自体の状態が悪くなって、再生能力も落ちてくる。
そうなると、外科的な手術が困難になる場合もあるんだよ。
症状
・肝臓は再生能力が非常に高いため、病気になっても早期には症状が少ないのが特徴のひとつです。
・原発性肝癌では肝硬変を伴っていることが多いです。
・肝臓機能の低下で起こる下肢の浮腫や腹水、皮膚黄疸といった主訴で受診し発覚することも多いです。
・アンモニア分解作用が阻害されると、肝性脳症など重大な意識障害が現れることもあります。
・肝性脳症になるとさまざまな精神症状などがみられ、その昏睡度は表1のように分類されています。
治療
・手術や薬物療法のほか、肝動脈塞栓療法(TAE)、経皮的エタノール注入療法(PEIT)、ラジオ波焼灼、放射線療法など、さまざまな方法があります。
・手術を行う件数としては、原発性より転移性のほうが多いです。
・これまでは、癌が転移するともう完治が望めなくなると考えられてきましたが、近年では、肝転移した癌を切除したら治ったという報告もあり、特に大腸癌の肝転移は、切除で完治する場合もあるので、大きさや数によっては手術が第一に選択されます。
肝癌の治療は種類が多い!
一般的な癌の再発は、目に見えない癌細胞の取り残しや生き残りが時間をかけて育ってきたもので、細胞を比べると再発前の癌とまったく同じです。
一方で肝癌の再発の場合、まったく新しい肝癌が別のところで出てくることも少なくないです。これは、多くの原発性肝癌はウイルス性肝炎を背景としているため、切除して取りきれたように見えても、また新しい癌が出てくることがよくあるためです。
だから、医師は肝癌は再発するもんだと思っている。
一度、癌を取り切れたとしても完治する可能性が低いと考えているため、なるべく傷つける肝臓を小さくしよう、何度もできる治療をしよう…ということで、さまざまな治療法が編み出されてきたのです。
まずは、TAEやPEITとかラジオ波焼灼で内科の先生が頑張ってくれるから、手術は最後の手段と考えている施設も多いよ。
最後の最後だから、その分手術が大変になるんだけどね…
目次に戻る
肝癌の術式
ここでは肝癌で用いられる術式について説明します。癌の部位や大きさに応じて切除する場所を決めます。
なお、癌を切除する際、切除する部分が大きいと、術後に肝機能が十分に残せないことがあります。そこで、事前に切除する方の肝臓を栄養している門脈を塞栓させて弱らせ、残したい部分の肝臓を先に頑張らせて肥大させておく門脈塞栓術を行うこともあります。
切除してから頑張るべき残る部分の肝臓を実際の手術より前にリハビリして体力をつけて備えておく、といったイメージです。
肝切除術
最近は技術や術式の進歩に伴い、腹腔鏡下で行われることも増えてきているよ。
❶肝部分切除
癌のある部分とその周囲の小範囲のみを切除します。
複数か所切除する場合もあります。
❷肝区域切除
肝臓内のグリソンの支配域に基づいて、肝臓全体の1/8~1/3を切除します。
肝動脈・門脈・胆管の3本は束ねられてひとつの鞘に入っている感じで肝臓の中を走行しているの。
この鞘はグリソン鞘って呼ばれているのよ。
❸肝葉切除
肝臓の右葉、あるいは左葉を切除します。
たくさん仕事してるのに、こんなに取っちゃって大丈夫なんですか?
肝臓はとにかくやることが多いんだけど、予備能力や再生能力が高いのも特徴のひとつでね。
2/3つまり全体の66%程度を切除しても正常に機能するんだよ。
ダメになることも許されないんですね…
だからこそ、「沈黙の臓器」の名のとおり、肝障害による症状が出るころには病状が進行していることが多いんだよね……
目次に戻る
注意が必要な術後合併症と術後ケアのPOINT
ドレーン排液や感染徴候、肝機能低下に伴う症状に注意が必要です!
術後肝不全
術後5日目以降の総ビリルビン上昇や、プロトロンビン時間延長を認める場合に術後肝不全が疑われます。術中の大量出血による肝循環不全や大量肝切除などが原因です。
プロトロンビンとは、肝臓で生成される血液凝固因子です。肝機能が低下すると血中の凝固因子が減少し、血液が固まるのに時間がかかる、つまり出血傾向になります。
また、肝臓は司る機能が非常に多く、そのなかにはアンモニアの代謝や消化管から吸収された栄養物の代謝、解毒・排泄など、生命にかかわる機能も多くあります。肝機能が低下すると、毒素のひとつであるアンモニアを尿素に変換できなくなり、血液中のアンモニア量が増えることで肝性脳症を発症したり、血中のビリルビンを胆汁として排泄できず、血中ビリルビン値が上昇し、黄疸症状をきたすなど、重症となる可能性があります。
なお、アンモニアが高値となった場合には、アンモニアの吸収低下を目的としてラクツロース(モニラック®など)や、アンモニアの処理促進のため、分岐鎖アミノ酸製剤(アミノレバン®)などが投与されます。
「不全」=「生きていくのに十分な機能が果たせていない状態」だから、治療でなんとか機能を補ったり、取り戻してあげなきゃいけないんだね。
観察項目
肝性脳症になっていないか?
・意識レベルの低下や見当識(表1を参照してね!)
・血液中のアンモニアの値(基準値:30~80μg/dL)
→「3桁以上で高値」と覚えると覚えやすいよ!
アンモニアが高値の場合は緊急性が高いので、すぐに判断できるように!
黄疸が出ていないか?
・皮膚や眼球の黄染
・血液中のビリルビン値(基準値:総ビリルビン:0.2~1.2mg/dL)
→2.0mg/dL以上で眼球黄染、3.0~5.0mg/dL以上で皮膚黄染が出現!
黄疸とビリルビン
術後に限らず、血液中のビリルビン値が上昇すると、このビリルビンが皮膚や眼球などを黄色く見せます。これが黄疸です。ビリルビンは皮膚に沈着して末梢神経を刺激するため、瘙痒感や皮膚の脆弱性を伴います。なお、ビリルビンは尿中にも排泄されるため、尿を黄色く染めます(ビリルビン尿)。
このビリルビンですが、間接ビリルビンと直接ビリルビンに分かれています。赤血球は脾臓で破壊されてヘモグロビンが間接ビリルビンになり、それが血流で運ばれて肝臓に入ってグルクロン酸抱合されて直接ビリルビンになり、胆汁に排泄されます。
血中に間接ビリルビンが多い=肝臓に入る前のビリルビンが多いということは、すなわち、赤血球の破壊が多い、または肝臓がビリルビンを取り込めない状態だということです。一方、血中に直接ビリルビンが多い=ビリルビンは肝臓に入って変化させられているもののうまく排泄されていない状態、すなわち、排泄路のどこかが詰まっていることが疑われます。
黄疸が出たとき、 どのビリルビン値が高いかでどこに異常が起きているかがわかる!
通常ならば、術後に肝不全による症状をきたすことはあまり多くないのですが、肝臓自体の状態が悪い場合などでは、黄疸や腹水、肝性脳症などの症状が出現する場合があります。また、浮腫を伴うことが多く、術後はほぼ全例でドレーンが入ってくるため、スキントラブルには十分注意しましょう。
以下に、肝不全による瘙痒感や腹水・浮腫への対応方法をまとめました。
❶瘙痒感
黄疸が進行すると、ビリルビンがいろいろなところに沈着します。ビリルビンには末梢神経を刺激する作用があるため、強い瘙痒感が出現する場合があります。
そこで、なるべく皮膚を刺激しないように愛護的なケアを行い、かゆみ止めの外用薬などの処方を行います。
掻破によるスキントラブルを防ぐためには、
①皮膚の清潔を保つ
②室内の温度・湿度の環境調整を行う
③通気性のよい衣服を着用する
などの対応をしましょう!
また、掻破痕からの感染や、肝機能低下に伴って出血傾向でもあるから、掻破部からの出血にも注意が必要ね!
❷腹水・浮腫
肝機能低下の結果として、肝臓のアルブミンの合成能力も低下します。アルブミンは血液に流れているタンパク質のメインであり、この量が少ないと水分が血管内に留まっていられなくなります。すると、血管外に漏れ出た水分は腹水や浮腫となって現れてきます。
浮腫を起こした皮膚はスキントラブルを起こしやすいため、術後に浮腫を認める場合はしっかりと除圧し、スキントラブル防止に努めましょう。足浴なども血行を改善するため苦痛の緩和につながります。
腹水が貯留していると臥位では苦痛を感じやすいため、クッションを使い坐位を保つなどして安楽なポジショニングを保ちましょう。ホットタオルで温罨法を行うことで筋緊張の緩和にもつながります。腹水で伸展した皮膚は筋緊張を起こしている場合が多く、瘙痒感なども伴います。愛護的なスキンケアや外用薬の塗布などを行い、瘙痒感の緩和に努めましょう。
肝膿瘍
肝臓は血液が豊富な臓器なので、そのなかに膿瘍ができると敗血症のリスクが非常に高いです。重度になると、ショック状態や臓器不全によるDICなど重症になることもあるため、発熱などの感染徴候を早期に発見することが大切です。
肝膿瘍と診断されたら、抗菌薬の投与のほか、排膿のために穿刺ドレナージを行うこともあります。
胆汁漏
切除した肝臓の断面から胆汁が腹腔内に漏れ出した状態です。ときに胆汁性腹膜炎を起こします。胆汁漏が少量であれば経過観察とする場合もありますが、必要であれば漏れた胆汁を体外へ出すための経皮的ドレナージを行う場合もあります。
観察項目
胆管ドレーン以外に胆汁が漏れていないか
・ドレーン排液(胆汁様)、排液のビリルビン値の上昇
胆汁漏があるときの排液はこんな感じの色になります。
きちんと異常に気づけるようになりましょうね!
肝臓から分泌された色。さらさら
胆汁が酸化すると緑色に。 粘性がある場合、感染を疑う
目次に戻る
【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
【2021/11/15発売!】
『ナスさんが答える!ぴんとくるお悩み相談室』
「先輩に叱られるのがつらい」「丁寧すぎて注意された」「リーダー業務のコツを知りたい」「やる気のない自分に自己嫌悪」…。
看護師がぶち当たるいろんなお悩みに、現役看護師が全力で答えます!
読むと「明日からもがんばろう!」って気持ちになれるかも。
本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂