コラム:なぜ、経腸栄養が大事なの?
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は、なぜ経腸栄養が大事なのかについて解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
「経腸栄養は大事」とよくいわれますが、点滴でも栄養は入れられますよね。それでは経腸栄養の利点はどのようなものなのでしょうか。
経腸栄養と静脈栄養のいちばんの違いは、栄養が腸から吸収されるかどうかです。経腸栄養は腸から門脈を経て、必ず1回肝臓を通ってから全身に届けられます。一方で、静脈栄養は直接血管に入って全身に届けられます。どちらも最後は全身に届くのだから同じじゃないかと思えますが、実は違います。
経腸栄養の利点には、腸を使うことで腸壁の元気が保たれたり、腸内細菌がいい感じになったりなどもありますが、最大の利点は「肝臓を通る」ことなのです。
栄養は必要なものですが、危険もあります。ブドウ糖はエネルギーになりやすい(燃えやすい)ですが、それは、他の物質と反応しやすい、つまり周りのものを傷つけやすいということでもあります。
たとえば、石油は燃やして発電などに利用されますが、闇雲に燃えたら危険ですよね。栄養も同じで、余計なところで周りを傷つけないようにきちんと管理しなければなりません。ちょっと難しくなりますが、図1を見てください。
グルコースにはホルマリンの性質をもつアルデヒド基(体に悪い)がついています。しかし、肝臓はバラバラに流れてきた栄養成分を鎖のように、しかもアルデヒド基をうまく接続部に使って隠すようにつなげるのです。そうしてできるのがグリコーゲンです。分子(グルコース)に1個ずつ付いていたアルデヒド基が、鎖(グリコーゲン)1つで1個に減ります。
もし、1万個のグルコースがつながれば、毒性は1/1万ですね。さらに、肝臓はその鎖を自身の中にしまっておき、必要なときに必要なだけその鎖をちぎって体に流してくれるのです。
だから、肝臓を通る経腸栄養は、栄養の持つ毒性が劇的に少ないのです。体にとっては、石油をバケツに入れて闇雲に大量に持ってくるのと、防火タンクに入れて必要なときに必要な量だけ持ってきてくれるのくらい安全性が違うのです。
肝臓は、似たようなことをアミノ酸でもやっているんだよ!
【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂