小腸癌・大腸癌
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は小腸癌・大腸癌について解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
小腸癌・大腸癌とは?
原因
・腸管の癌のうち、大腸癌はとても数が多い疾患ですが、小腸癌は非常に件数が少ないです。
・大腸癌は年々増加しており、欧米型の食生活といった生活習慣などがリスクを上昇させる要因のひとつと考えられています。
症状
・下血や血便のほか、腹痛、下痢、便秘などが起こります。
治療
・外科的手術(内視鏡手術を含む)、進行の度合いによっては薬物療法が選択されることもあります。
・直腸では、進行している場合、術前に放射線療法を行います。
・術式によっては、ストーマ造設が選択されることもあります。
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大腸手術の術式
ここでは主に、大腸に対する腸管切除術について説明します。
結腸の切除術
切除する場所によって、術式が異なります。また、結腸を全摘・亜全摘する場合には、再建するときに回腸で袋をつくって(回腸嚢)、それをつなげることもよくあります。
❶回盲部切除術
❷結腸右半切除術
❸横行結腸切除術
❹結腸左半切除術
❺S状結腸切除術
❻大腸亜全摘術
❼大腸全摘術
大腸全摘・亜全摘と回腸嚢
「大腸全摘」とは、文字どおり「直腸を含む大腸をすべて切除すること」。そこで、大腸が一部でも残っていれば「亜全摘」になります。
全摘・亜全摘では回腸嚢をつくってつなげることがありますが、これは「直腸を切除しても、直接便が出るより少し便を溜める袋があったほうが排便コントロールがしやすいだろう」という狙いによるものです。
また、回腸嚢をつくることで、蠕動が弱くなり、肛門の圧を上回れないので、便漏れが少なくなります。必ずしも大腸全摘・亜全摘=回腸嚢をつくる、ではないのですね。
矢印の部分が回腸嚢だね
直腸の切除術
肛門括約筋を温存するかどうかによって、術式が異なります。
❶前方切除術(肛門温存)
❷腹会陰式直腸切断術(マイルズ手術)(肛門閉鎖)
ハルトマン手術
結腸・直腸の手術で切除範囲の肛門側が直腸まで届く場合、切除した腸同士を吻合せず、肛門側の断端を閉鎖し、口側の断端に単孔式ストーマを造設する術式です。物理的に腸が届かない場合や、吻合するのが危険な場合(高齢・合併症・腹膜炎など)に選択されます。
ストーマ
腸管切除術と切っては切れない関係なのがストーマ(人工肛門)です。
❶ストーマ造設
大腸は長さに余裕がないからね…
無理やり引っぱってつなげないことはないけど、無理して切除した腸管どうしをつなげると縫合不全のリスクが格段に上がるんだ。
そこで、一時的にストーマを造設して便や消化液による物理的刺激をやわらげたり、そもそも縫合不全するものと見込んで、漏れて困るものが腸管内にないようにしておくって理由で一時的ストーマ(カバーリングストーマ)をつくることもあるよ。
腸管の切除部位によって、造設するストーマの種類が異なります(図1)。回腸ストーマの場合、一時的ストーマとして造設されることが多いため、双孔式ストーマがよくみられます。大腸に造設する場合、大腸は上行結腸と下行結腸で固定されていて、横行結腸を切除すると上行結腸と下行結腸が届かないため、分離式ストーマが選択されることもあります。
しかし、分離式はストーマが2つ並ぶ形になっていて管理しにくいため、腸管同士を縫合してつなげる二連銃式が選択されることが多いです。また、肛門を切除する場合(マイルズ手術)やハルトマン手術では単孔式ストーマとなり、永久ストーマとなることが多いです。
❷ストーマ閉鎖術
・一時的ストーマを閉鎖する手術です。
・双孔式ストーマをそのままつなぐのではなく、ストーマを造設して孔が開いている部分の腸を短い範囲で腸ごととって腸をつなぎなおします。
・約10cmの小さな腸の部分切除術です。
一時的ストーマをイレオストミーでつくる理由
大腸は血流も可動性も悪く、縫合不全が起きやすい臓器です。もし、大腸で縫合不全が起こったら腹膜炎になり、またその手前でストーマを造設することになったりして…エンドレスです。一方、小腸にはそういうことがほとんどありません。
だから、小腸でストーマをつくるとき、外科医は「そのうち閉じるつもりだぞ」という意思を持っていることが多いよ!
イレオストミーは、便の性状も軟らかくて管理も大変ですが、多くは半年くらいで閉鎖できるので、ストーマ閉鎖術をしたときに合併症を起こさず、一回の手術で絶対に終わらせるぞ…という意味が込められているそうです。
ストーマについては、「ストーマケア」の記事で超!くわしく解説したので、そっちをチェックしてね!
ストーマのケアは看護師さんの大切な仕事だから、頼むよ~
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注意が必要な術後合併症と術後ケアのPOINT
術直後~数日はドレーン排液の性状や創部の状態、腹部症状に注意しましょう。術後しばらくしてからは排便に関する症状に注意が必要です。
それぞれの合併症については該当記事をチェック!
縫合不全
基本的には「縫合不全」の記事で解説したとおりですが、腸管の術後は腸管浮腫が起こります。術後に腸管がむくんでいる間は腸管が腫れている状態なので、仮に穴があったとしても、穴が押しつぶされて漏れづらいです。しかし、術後徐々に浮腫が軽減してくるとしぼんでくるので、穴から便が漏れ出すことがあるのです。
浮腫がとれた後、 術後3日以降に縫合不全が起こりやすい!
なお、腸管の縫合不全は腹膜炎と直結するので、注意が必要です。
ドレーン排液の性状・においをきちんとチェックしよう!
縫合不全のときは排液が濁って便臭がするよ!
ひどいと便がそのまま出てくることも…
便の性状の変化
術後は便の性状が変わります。たとえば大腸を多くとった場合は水様便が続くため、時に便を固めるような薬が処方されることがあります(「ストーマの観察項目」参照)。
便性状を確認する!
医師は便の性状をみることはあまりないので、ナースがきちんとみて、医師に伝えることが大切だよ!
排便障害
排便は自律神経によってコントロールされています。この神経は骨盤のなかにあって、直腸の手術ではこの周辺をよくいじったりして、時に損傷してしまいます。
また、進んだ癌では神経を切らなければならないこともあります。そのようなときには、術後に排便コントロールが難しくなることがあります。
具体的には…
・ 直腸内に便があるのに感知できず便漏れを起こす
・逆に、排便後も残便感が残ってしまう
などだね。
排便障害は、病棟ではあまりみることがないかもしれないわね…
でも、退院後に排便コントロールがうまくいかなくて悩む患者さんは多いのよ。
恥ずかしくて外来で医師に言えない人もいるから、退院指導で「排便障害が起こることがある」と伝えておけるといいわよね。
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【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂