コラム:術前にH2ブロッカーを投与する理由
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は術前にH2ブロッカーを投与する理由について解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
病棟でよく使う胃薬にはPPI(オメプラール®など)とH2ブロッカー(ガスター®など)がありますが、どうして術前はH2ブロッカーなんですか?
両方とも胃酸を抑制するという作用は同じなんだけど、その機序と作用時間に違いがあるんだよ。
胃に限らず、術前にH2ブロッカーが投与されることは多いと思います。その理由は①胃食道逆流や誤嚥の予防、②手術によるストレス性胃潰瘍の予防です。
全身麻酔で噴門部が弛緩し、胃の中の分泌物が逆流しやすくなります。また、胃の中の分泌物が逆流すると誤嚥の可能性が高くなるため、胃酸を抑えるH2ブロッカーの投与が多くの手術で術前のルーチンとなっているのです。
でも、胃酸の分泌を抑制する薬には、 H2ブロッカー以外にもプロトンポンプ阻害薬(PPI)もありますね。なぜ、PPIではなくH2ブロッカーでなければならないのでしょうか?
「胃の解剖生理」の記事で「胃酸はプロトンポンプ(=モーター)から生成される」と説明しました。胃酸を作らせたくないのであれば、モーターがまともに動けなくなるように細工するのが一番強力ですよね。PPIはプロトンポンプが動けなくなるようにする薬剤です。ところが、モーターを完全に止めるのには時間がかかります(図1)。
そこで、取り急ぎ、主にスイッチを入れているヒスタミンさんの邪魔をするのが、H2ブロッカーです。ヒスタミンさんの邪魔をするだけではプロトンポンプは完全には止まりません。しかし、とりあえず胃酸の生成を大きく抑制することはかなり早くできます(図2)。
術前投与薬には、H2ブロッカーが選択されるんだね!
【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂