食道裂孔ヘルニア
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は食道裂孔ヘルニアについて解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
食道裂孔ヘルニア
食道裂孔ヘルニアとは横隔膜ヘルニアの一種で、横隔膜の穴(食道裂孔)から胃の一部が飛び出てしまう疾患です(図1)。胃の造影検査をすると、胃の一部が胸腔内に脱出しているのがわかります。
そもそもヘルニアとは…
語源はラテン語の「脱出」とされています。臓器や組織が本来の位置から脱出してしまう状態のことを指します。
原因
加齢(50歳以上で多く見られます)や生活習慣などで腹圧が上がって起こる場合もありますが、なかには生まれつき食道裂孔がゆるく、ヘルニアを起こしやすい人もいます。
症状
悪心・嘔吐、嚥下困難、咳嗽、心窩部痛など、胃食道逆流と似た症状があります。
治療
・症状が少ない場合、胃食道逆流や呼吸疾患などの合併症がない場合には、特に治療は必要ありません(なので、外科治療が必要な症例も実は少ないのです)。
・まずは、胃液の逆流防止のために制酸薬の内服を行います。内服で改善せず、かなり症状が重篤で生活に支障がでるような場合には手術を行います。
食道裂孔ヘルニアで注意が必要な薬は?
食道と胃の境目には下部食道括約筋(LES)があります。嚥下から胃への食物の運搬はこのLESの弛緩・緊張によって管理されており、 LES圧が正常に保たれることで胃からの逆流を防止しています。食道裂孔ヘルニアによってLESの機能は低下することがわかっており、 LES圧が弱まると、胃食道逆流が起こります(逆にLES圧が緩む機能が障害されるのが食道アカラシア)。
ブスコパン®など、鎮痙作用がある副交感神経抑制薬(抗コリン薬)にはLES圧を下げる効果があり、胃からの逆流を促進してしまうため、症状を悪化させたり、悪心があるときに服用すると嘔吐を引き起こしてしまうことがあります。
食道裂孔ヘルニアの人に抗コリン薬は安易に使わないようにする!
食道裂孔ヘルニアの手術
大きく分けて2種類あります。
①食道裂孔縫縮術:裂孔部を小さくする手術
②Nissen(ニッセン)手術:胃を正しい位置に戻し、再脱出しにくい形にする手術
Nissen手術は図2のように腹部食道を剥離してから腹腔内に引き下げ、腹部食道を胃壁で襟巻状に縫合します。
胃壁のみで手術が完了するよ!
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【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂