食道癌

『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は食道癌について解説します。

 

著者/ぷろぺら(看護師)

医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医

 

 

 

食道癌とは?

原因

・食道癌の発症と喫煙や飲酒には強い関連があります(両方の習慣がある人はより高リスク!)。
・熱いものを飲んだり食べたりすることや、胃食道逆流で胃酸にさらされることもリスクのひとつと考えられています。

 

症状

・早期では自覚症状がないことがほとんどです。
・進行すると、飲食時の違和感胸痛咳嗽や嗄声などの症状が出ます。

 

治療

手術、放射線療法、薬物療法を組み合わせて集学的治療が行われますが、最近では放射線療法と内視鏡治療が増加し、手術の件数が減ってきています。

 

Point

食道はリンパの関所が少ない?!

リンパ管に入った癌は関所(リンパ節)で関止めされます。腸ならば、腸からリンパの本管(胸管)に入るまで、およそ3段階程度の関所があります(1群→2群→3群→本管)。

 

そこで、手術をするときには、それぞれD1郭清、 D2郭清、 D3郭清を行います。

 

一方、食道は本管(胸管)がすぐそばにあるため、関所(リンパ節)の数が少ないのです(1群→すぐ本管というイメージ)。つまり、癌を関所で止められる可能性が低くなるため、より早く全身転移に至りやすいのです。

 

 

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食道癌の術式

ここでは主に食道癌で用いられる術式について説明します。

 

看護師顔画像

食道の手術って術後大変なイメージがありますー!

 

食道癌の切除方法

❶内視鏡

ごく早期で粘膜内に限定している癌(0期)であれば、内視鏡による切除で治療できます。

侵襲性は非常に低いですが、術後、切除部に狭窄が起こるリスクもあります。

 

医師顔画像

最近では技術の進歩で内視鏡で手術が行われることも多くなってきたよ。

 

❷開腹・開胸手術

食道の周囲には気管支、心臓、大動脈、甲状腺等の重要な臓器が多数存在するため、手術には消化器外科だけでなく呼吸器外科、呼吸器内科、甲状腺外科、形成外科、耳鼻咽喉科…と複数の医師が関わることも珍しくありません。

 

切除部位によっては、開胸し肋骨を折って処置する場合もあるので、侵襲性は高いです。また、同時に食道再建術を行う必要があります。

 

①胸部食道癌の場合

・右胸部を開胸し、食道へアプローチ
・原則的に胸部食道を全切除し、胸部リンパ節を摘出

②腹部食道癌の場合

・左胸部を開胸し、食道下部と胃の噴門部を切除
・場合によっては、開胸せず開腹のみですむことがある

 

 

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食道の再建術

食道再建術(図1)は、基本的には胃を持ち上げて食道と吻合する手術です(胃を使えない場合には、代わりに腸をつなぐこともあります)。

 

図1 食道の再建術

食道の再建術

 

たとえ、癌があるのが一部だとしても、1ヵ所切除してしまうと切除した両端をつなぎ合わせるのはとても困難です。無理につないでも、長さに限度があるので縫合部にテンションがかかり、縫合不全を起こしてしまいます。

 

そこで、大きく食道を切除し、胃を首まで持ち上げ食道と吻合する術式になるのです。

 

医師顔画像

ちなみに、食道は蠕動することで、食物を運搬するけど、持ち上げた胃(または腸)には、蠕動運動はないんだよ。

 

看護師顔画像

だから術後の経口摂取は慎重にしなきゃいけないんですね!

 

医師顔画像

食道はいろんな要素が絡まりあっているから手術も大変だし、術後経過もトラブルが起こりやすい。
だから、看護師さんたちの普段からの観察がとても重要になってくるんです!

 

医師は24時間、患者さんに付きっきりというわけにもいかないから、看護師さんたちの観察眼を信用しているよ!

 

再建した食道をどこに走行させるかで術式に違いがあります。

 

看護師顔画像

術式を把握することで、観察項目のポイントが絞れてくるよ!

 

❶後縦隔ルート

肺の後ろ、脊椎の前を通すルートです(図2)。

 

図2 後縦隔ルート

後縦隔ルート

 

医師顔画像

縦隔がどこのことを指すのかはわかるよね?(「縦隔と横隔」参照)

 

看護師顔画像

縦隔の一番奥にあるから、再度処置するのは難しそうなのがわかります!
これは縫合不全が起こったときには私たちが早期に発見する必要がありますよね!

 

メリット

・最も生理的なルートであるため、縫合不全を起こしにくい
・後々胃癌がみつかったときなどにも処置がしやすい

デメリット

・処置がしにくく、一度縫合不全が起こると、膿胸や縦隔炎などの重度の合併症を起こすなど、致命的になりやすい

 

❷胸骨前ルート

胸骨の前面を通すルートです(図3)。

 

図3 胸骨前ルート

胸骨前ルート

 

看護師顔画像

胸骨の前に食道が再建されるから、見た目が気になるところ!

 

食道が前面にあるから、術後にトラブルがあったときには処置がしやすそうだけど…距離が長くなるのがネックだね~

 

メリット

・術後合併症に対応しやすい

デメリット

・最も非生理的で経路も長く、縫合不全などの合併症を起こしやすい
・整容的にもいまいち

 

❸胸骨後ルート

胸骨の後ろ、肺の前を通すルートです(図4)。

 

図4 胸骨後ルート

胸骨後ルート

 

看護師顔画像

最も行われている術式だね。

 

メリット

のよいとこどりをしようとした術式
・後々胃癌がみつかったときなどにも処置がしやすい
・整容的にもよい

デメリット

・一度縫合不全が起こると、膿胸を起こしやすい
・胸骨と肺に圧迫されるため、屈曲してしまう

 

 

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注意が必要な術後合併症と術後ケアのPOINT

多くの場合、再建時に胃を伸ばして吻合しているため、貯留機能がなくなります。そこで、下の表に挙げたものに加えて胃の術後と同じような合併症にも注意し、ケアを行いましょう。

 

看護師顔画像

胃の術後合併症は胃癌のページを見てね!
さらに呼吸器合併症や反回神経麻痺、食事開始時の嚥下状態、リンパ節郭清に伴う乳び胸など、観察項目がたくさんあるよ!

 

注意が必要な術後合併症
縫合不全
術後出血
イレウス
深部静脈血栓症
創部感染
呼吸器合併症
乳び胸
反回神経麻痺
・通過障害(吻合部狭窄など)
ダンピング症候群

 

それぞれの合併症については該当記事をチェック!

 

 

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呼吸器合併症

食道の手術は開胸を伴うため、それだけで呼吸器合併症のリスクが高くなります。

 

また、術中に気管支や反回神経を触られたり、周囲で電気メスを使われたりすることによる刺激や、リンパ節郭清に伴う刺激によって、気管粘膜の浮腫を起こすリスクが高いのです。

 

その他、嚥下反射や咳嗽反射の低下、喀痰の増加に伴う気道狭窄によって、呼吸苦の症状が出ます。また、肺へ酸素が十分に行きわたらないため、無気肺の状態になることも多いです。

 


呼吸の観察には細心の注意が必要!

 

Point

観察項目

呼吸状態
・吸気不十分による浅く早い呼吸があったら危険なサイン!
酸素飽和度(SpO2
・低下すると冷汗や強い呼吸苦が出るよ!
呼吸音
・きちんと換気が行われているかしっかり聴診!
検査結果
・画像診断(X線、CTなど)、血液ガスの結果も要チェック!

 

医師顔画像

十分な換気ができないと、体に二酸化炭素が溜まるCO2ナルコーシスになるから注意して観察しようね(「息苦しいのは『酸素が足りない』から?」参照)。

 

Point

呼吸器合併症予防のためのケア・患者指導

十分な深呼吸
・肺は横隔膜を動かすことで十分に膨らむため、重力の影響により、臥位より坐位の方がしっかりと呼吸ができます。
痰の喀出
・患者さん自身で痰を出してもらうようにします。
・ただし、咳嗽で疼痛が増強するため、疼痛コントロールをしっかり行いましょう(創を抑えて前かがみになると、疼痛が緩和されます)。
・必要なら吸引を行います。
離床
・無気肺予防はとにかく離床!
・同じ姿勢でじっとしていると、長時間下敷きになった方の肺が自らの重みでつぶれてしまうので、離床を促しましょう。
禁煙
・どんな手術でも術前は禁煙です!
・タバコは痰の量を増やすため、術前にしっかりと禁煙指導を行いましょう!!

 

 

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乳び胸

看護師顔画像

というか、そもそも「乳び」ってなんですか?!

 

医師顔画像

小腸で吸収された脂肪が分解されて、乳び管でリンパ液と混ざりあって乳化された白い液体のことだよ。

 

看護師顔画像

栄養ありそうだよね!漏れたらもったいないよねー!

 

リンパ管は非常に脆いうえに個人差が大きく、術中に認識しきれなかったリンパ管が結紮されなかったり、術後に狭窄を起こしたりすることでリンパ液が漏れ出すことがあります。

 

これが漏れると胸郭内に白く混濁した胸水が多量に流出・貯留します。そうするとドレーン排液が白く濁るのですぐにわかります。

 


ドレーン排液に注意!

 

看護師顔画像

乳び胸のときの排液はこんな感じのヤクルトっぽい色になるよ!

 

乳び胸は基本的には保存的に治療します。胸腔ドレナージで乳び液をドレナージしたり、脂肪制限食による食事療法を行います。それでも止まらなければ…再手術やリンパ管に対する放射線療法を行うこともあります。

 

 

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反回神経麻痺

術中に反回神経を傷つけることで起こります。食道の手術は周囲のリンパ節郭清をする範囲が大きく、神経の損傷のリスクが高くなります。特に、左反回神経麻痺のリスクが高いです。左反回神経(図6)は手術の操作部が近く、より障害を受けやすいためです。

 

図6 左反回神経

左反回神経

 

反回神経麻痺になると、嗄声、嚥下障害、咳嗽などがみられます。挿管による喉の痛みや嗄声は通常4〜5日で改善するので、術直後からの嗄声が改善しているか、嚥下の状態に変化はあるか、中長期的な観察が必要になります。

 

保存的に経過をみる場合がほとんどです。通常、6か月程度で症状が改善するといわれていますが、早期に嚥下訓練や発声訓練を行うことで、誤嚥予防に努めます。

 

看護師顔画像

STさんや管理栄養士さんの協力が必要不可欠です!

 

Point

その咳嗽の原因は?

食道の術後に起こる咳嗽の原因には、呼吸器合併症や反回神経麻痺のほかに、胃食道逆流(胃酸の逆流)によるものもあります。胃食道逆流による場合は、ヘッドアップや坐位にすることで症状の軽減が期待できます!

 

 

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【著者プロフィール】

ぷろぺら@puropera44

看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。

 

 

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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂

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