コラム:息苦しいのは「酸素が足りない」から?
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は息苦しさの原因について解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
「息が苦しい原因は何?」と聞かれら、ほとんどの人が「酸素が足りないから」と答えるのではないでしょうか。しかし、「息を止めて、苦しくなったら手を挙げて」と言われたら、多くの人が40秒くらいで手を挙げるのです。
考えてみると、吸引などで患者さんが40秒くらい呼吸できない状況になることは現場でも多いと思います。そのとき、患者さんのSpO2は下がっていますか? 実は、40秒程度では下がらないのです。
「息が苦しい」と感じる原因は「酸素が足りない」からではなく、「二酸化炭素を吐き出したい」からなのです。
酸素不足で苦しくなるのは、かなりSpO2が下がってからです。たとえば、標高3,000m近くになると、健常者のSpO2も92〜93%くらいに下がりますが、安静にしていればその程度では苦しいとはあまり感じません。
つまり、SpO2があまり低くないのに、息苦しいと訴える患者さんは「酸素濃度が足りない」のではなく、「換気が足りない」という可能性を必ず考えてほしいのです。
だから、SpO2が十分高いのに「息苦しい」と訴えられたからといって、マスクをつけて少量の酸素を流す…なんて、患者さんにとっては拷問みたいなものなのよ!!
換気が足りないとわかれば、その理由を探しましょう。
多くの場合は疼痛(痛みがあると、怖くて深呼吸ってできないものです)や体位が原因です。それならば、鎮痛やヘッドアップで対応できますよね。
しかし、酸素は回復を含めたあらゆる活動の源泉なので、術後もしっかりほしいわけです。
また、酸素が足りないと、必要なところにたくさん酸素(血液)を届けるために、心臓に大きな負担がかかります。
ただし、酸素は酸化につながる毒である側面も持つため、なんでもかんでも高濃度酸素を投与すればよいかというと、それも問題です。そこで、術前のroom airでのSpO2をちょっとだけ上回る、が理想です。
・苦しいと言っていなくても酸素が足りていないとき(術前のSpO2を下回る)
→モニターを確認し、必要な酸素投与
・苦しいと言っていてもSpO2の低下がみられないとき
→換気が足りない可能性を考え、原因を見つけて対処
【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂