疼痛管理
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は疼痛管理について解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
痛みを我慢することにメリットはないのだよ!
疼痛管理の必要性
手術に疼痛はつきものですが、最近では疼痛を我慢しないよう指導する施設が多くなっています。
日本人は疼痛を我慢しがちですが、積極的に疼痛コントロールを行うことで早期離床にもつながります。
痛みを我慢させても心にも体にもいいことはひとつもない、という意識を持ちましょう。
「痛みがわからないと合併症が発見しにくい」などという人もいるけれど…
もし異常が起こっていれば、程度の差はあるけど痛みが全くわからないというところまで完全に消えることはまれ。
きちんと観察と問診をしていれば、ちゃんと徴候はとらえられるよ!
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疼痛の評価
疼痛は個人によって差があります。
「患者さん自身が感じている痛み」を伝えてもらうために、下のようなスケールを使用して、疼痛の状態を把握しましょう。
❶NRS(Numerical Rating Scale)
0〜10の11段階で痛みを示してもらいます(図1)。
安静時に3以上で疼痛管理が必要とされています。
図1 NRS(Numerical Rating Scale)
❷フェイススケール
6段階の顔のイラストを指すことで痛みを示してもらいます(図2)。
❸CPOT(Critical-Care Pain Observation Tool)
客観的に疼痛を判定できるスケールで、患者さんが疼痛の自己申告ができない場合に使用されます(表1)。
表1 CPOT(Critical-Care Pain Observation Tool)
いずれのスケールでも、指標が0になるように疼痛コントロールを行います。
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注意が必要な疼痛
生理的な疼痛は、閾値による個人差はありますが、起き上がるときなどに増強し、安静時にはなくなります。
安静時にも持続するような強い疼痛があるときは、術後合併症を疑いましょう。
観察項目
バイタルサイン
・ショックバイタルでは縫合不全による腹膜炎や出血、また肺塞栓症や心筋梗塞の可能性があります。
ドレーン排液
・ドレーン排液の性状が正常でない場合は縫合不全を疑います。
腹部症状
・腹膜刺激症状(腹部を強く押したとき増強する疼痛など)がある場合、縫合不全による腹膜炎を疑います。
創部の状態
・創部感染でも疼痛が増強することがあります。
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鎮痛薬の種類
❶NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)
ロキソプロフェン(ロキソニン®)やジクロフェナク(ボルタレン®)、フルルビプロフェン(ロピオン®)に代表される、解熱・鎮痛作用のある薬剤です。
NSAIDsには「天井効果」があり、短時間で重ねて使っても効果が乏しく、副作用のリスクが高まるだけといわれています。
NSAIDsを使用しても十分な効果が得られない場合は、ほかの薬剤を選択します。
NSAIDsの代表的な副作用は以下のとおりです(表2)。
腎障害 |
・腎障害を誘発する可能性があるので注意 |
胃腸障害 |
・潰瘍や穿孔のリスクがあるため、特に胃の術後には使用を控える |
低血圧 |
・特に坐薬は即効性があり、発熱して脱水状態の人が急に解熱するときに一気に多量に発汗することで、循環血漿量が急激に減ってショックに近い血圧低下を誘発することがある |
喘息 |
・「アスピリン喘息」が有名(喘息患者の10%はNSAIDsが原因とされている) |
❷アセトアミノフェン
カロナール®やアセリオなどに代表される薬剤で、一般用医薬品にも多く使用されています。
解熱作用はありますが、抗炎症作用はほとんどありません。
NSAIDsに比べると腎障害や胃腸障害などのリスクは低いです。
NSAIDsとは作用機序が違うので、併用で相乗効果が期待できます。
アセリオの使い方
アセリオは量に関係なく「15分で投与」と投与時間が定められています。これより早くても遅くても十分な効果が得られないとされています。
アセトアミノフェンの投与量と効果
近年、添付文書が改訂されて以前より多くの量が使えるようになりました。これまでの「弱い薬」という印象は量が少なかったせいで、ちゃんとした量を使えばアセトアミノフェンはよく効く薬です。
❸オピオイド
麻薬性鎮痛薬(モルヒネ、フェンタニルなど)や麻薬拮抗性鎮痛薬(レペタン®、ソセゴン®など)などです。
フェンタニルに代表される麻薬性鎮痛薬は、術後に硬膜外鎮痛法で用いられることがあります。
麻薬拮抗性鎮痛薬は麻薬性鎮痛薬と似た機序で作用しますが、「拮抗」とあるだけに麻薬性鎮痛薬と一緒に使用すると麻薬の作用が減弱してしまうため、同時に使用することは控えます。
呼吸抑制や悪心・嘔吐、尿閉、徐脈などの副作用があるため、これらの症状がみられたら使用は控えます。
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硬膜外鎮痛法
「エピ」、「エピドラ」などともよばれます。
術後、仙骨あたりにある脊椎の硬膜外腔(=硬膜と黄靱帯の隙間、図3)にカテーテルを留置されて戻ってくることがあります。
カテーテルからは鎮痛薬などが持続投与されています。
カテーテルの先端がどこにあるかは術式によって異なります。
硬膜外鎮痛法の合併症は表3のとおりです。
神経症状 |
・穿刺や血腫形成によって下半身の痺れや麻痺などが出現することがある |
尿閉 |
・局所麻酔薬による骨盤神経と陰部神経の麻痺が原因 |
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PCA
PCA(patient controlled analgesia)とは、患者さん自身が痛みをコントロールすることができるしくみです。
疼痛時にボタンを押すことで、持続的に流れている薬剤が急速投与されます(図4)。
図4 PCA(patient controlled analgesia)
一度押すとロック機能が作用して、一定時間経たないと再度押せなくなり、必要以上に流れすぎないようになっているので、過剰投与の心配がありません。
硬膜外鎮痛法でも静脈からのオピオイド投与でも用いられます。
なにより患者さん自身が疼痛をコントロールすることができるのがメリットだよね!
でも、物理的にカテーテルが閉塞して薬剤が流入していないことがあるから、三方活栓の向きはこまめにチェックしましょうね!
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【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂