胸腔ドレナージ
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は胸腔ドレナージについて解説します。
永松美愉
さいたま赤十字病院12F西病棟
呼吸療法認定士
どんな治療?
胸腔ドレナージは、胸腔内にドレーンを挿入することで、貯留した気体や液体(胸水や血液、膿)を持続的に体外へ排出(ドレナージ)する治療法です(表1、図1)。
胸腔内に気体や液体が貯留すると、肺が圧迫され再膨張が妨げられます。そして胸腔内圧が高くなることにより、胸部圧迫感、呼吸困難、縦隔偏位が起こり、循環機能、呼吸機能に影響を及ぼします。これらを改善するために、胸腔ドレナージによって貯留物を排出し、胸腔内の陰圧を保ちます。
縦隔は左右壁側胸膜で区分けされ胸郭の正中に位置しているが、左右胸郭の内圧バランスの変化により偏位することがある。
1)患側の圧が減少
→患側に偏位:無気肺、外科的肺切除後など
2)患側の圧が上昇
→健側に偏位:気胸、血胸、胸水貯留、肺の過膨張など。緊張性気胸では著しい縦隔偏位をきたし、右心への静脈還流が阻害されて閉塞性ショックをきたすため、緊急に胸腔ドレナージを行う。
memo:肺瘻
手術手技に基づく肺切離部または損傷部からの持続的な空気漏れのこと。
memo:気管支断端瘻
術中に閉鎖した気管支断端に生じた小孔。発症すると胸腔内に重篤な膿胸、瘻孔からの空気漏れから肺炎を併発する。
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ドレナージシステムのしくみ
胸腔ドレーンを胸腔内に挿入します(表2)。このとき、胸腔内は陰圧(約-5cmH2O)であるため、ドレーンを留置しただけでは胸腔内に空気が流入してしまいます。そのため、排出したい空気や貯留物が逆流しないように、必ず低圧持続吸引装置に接続して-8~-15cmH2Oの圧をかけます。
吸引方法
胸腔ドレーンの排液システムは、1)排液ボトル、2)水封室、3)吸引圧制御ボトルからなる古典的3瓶法(3連ボトルシステム)を基本にしています。
吸引方法には、水封式サイフォン法と低圧持続吸引法があります。
水封式サイフォン法
水封式サイフォン法は、吸引をかけずにサイフォンの原理で排液を促します(受動的ドレナージ・図2)。
排液は、胸腔ドレーンと排液バッグの高低差により行われます。排気は、胸腔内圧が水封圧より高い場合に行われます。気胸の治療経過の把握に重要です。
排液バッグは患者さんより低い場所に設置し、逆流しないように注意します。
低圧持続吸引法
持続的に低圧で吸引をかけて、排液を促します(能動的ドレナージ・表3、図3、図4)。
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看護師は何に注意する?
ドレーンの固定と挿入部の観察
胸腔ドレーンを挿入後、ドレーンが抜けないように固定します(図5)。
ドレーンの固定位置が変わっていないか、屈曲やねじれ、刺入部の感染徴候(発赤、腫脹)、出血、皮下気腫、皮膚障害がないか確認します(図6、図7)。
memo:脆弱な皮膚の場合
脆弱な皮膚は皮膚障害を起こしやすいため、テープを直接貼らず、まず保護膜形成材やフィルムドレッシング材を使用し、その上にテープを貼ることで皮膚への刺激を軽減する。
memo:皮膚障害の対処
テープの刺激により発赤、掻痒感、水疱が生じた場合は、軟膏の塗布や、水疱が破綻しないようフィルムドレッシング材で保護する。
ドレーンの接続が外れたときの対処
まずはドレーンを鉗子でクランプしてから、新しいドレーンバッグを用意し、接続部を消毒してから接続します。
接続が外れたことと、患者さんの状態を医師に報告します。
換気障害による低酸素の有無や呼吸状態に注意して観察します。
ドレーン事故(自己)抜去時の対応
ドレーンが抜けかかっている場合、皮下気腫が生じることがあります。
ドレーンの事故(自己)抜去を発見したら、まず刺入部をガーゼやフィルムで閉鎖します。刺入部から空気が流入することで、肺の虚脱により低酸素を起こす可能性があるためです。
刺入部の閉鎖後、すぐに医師に報告します。医師に報告後、すみやかに胸腔ドレーンが再挿入できるよう、準備をしておきましょう。
排液バッグの位置
ドレーンの排液バッグは、挿入部よりも低い位置に保ち、ベッド柵や点滴台などに固定します。点滴台に固定することで、患者さんが離床しやすくなります。バッグは倒れないようにテープで固定しましょう。
挿入部より上になる場合や、排液バッグを交換するときはクランプをしますが、それ以外は開放します。
memo:排液バッグ交換時の注意点
●ドレーンを鉗子でクランプしてからドレーン接続部を消毒し、新しい排液バッグを接続する
●水封室と吸引圧制御ボトルに滅菌蒸留水を注入しないまま接続すると陰圧の胸腔に空気が入り換気が妨げられるため、注意する
●排液バッグを交換したあとは、正常にドレナージされているか、患者さんの呼吸状態に変化は見られないかを観察する
水封室・吸引圧制御ボトルの観察
水封室を観察(図8)し、水封部の液面の呼吸性変動(図9)、気泡(バブリング、図10)の有無を確認します。
急激なエアリークの増加は、気胸、肺瘻、気管支断端瘻、ドレーンの破損、接続部の不良が原因であると考えられるため、原因を確認します。
水封室・吸引圧制御ボトルの蒸留水は蒸発するため、量が適切であるか必ず確認します。吸引制御ボトルの水量が変化すると、設定した吸引圧がかからなくなってしまいます。
排液量の低下がみられた場合は、治療経過による排液量の減少、粘稠度の高い排液(フィブリンや凝血塊、壊死組織)によるドレーンの閉塞、ドレーンの屈曲や圧迫による閉塞、ドレーン先端の位置のずれ、ドレーンの抜けが考えられます。
排液の観察
急激な血性排液量の増加(術後は200mL/時以上、それ以外は100mL/時以上)がみられた場合、緊急手術となる可能性があるため、医師に報告します。
図11 排液の色調変化とスケール(さいたま赤十字病院看護部)
memo:漿液性変化
術後、経過とともに血性の排液が漿液性(淡々黄色)に変化していくこと(図11)。血性成分が減少し、手術の影響による炎症で滲出液が増加していくために起こる。
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胸腔ドレナージの合併症
再膨張性肺水腫
胸水・気胸・血胸に対してドレナージを行った際、虚脱していた肺の再膨張が一気に起こることで、肺血流の再還流および血管浸透圧が生じ、肺水腫が起こることがあります。
呼吸困難や酸素飽和度の低下、血漿漏出による血圧低下が起こるため、全身状態の観察が必要です。
皮下気腫
肺やドレーン挿入部から皮下に空気が漏れ、貯留することで生じます。
皮膚に粗いぶつぶつとした触覚(握雪感)がみられた場合、その部位のマーキングを行い、拡大の有無を観察します。
進行すると、頸部循環障害や胸郭の拡張障害を起こすため、観察が重要となります。
memo:頸部循環障害
頸部に皮下気腫が生じると、空気が頸部の血管を圧迫して循環血流量が低下することで、血圧低下が起こる。
疼痛
胸腔ドレーンの留置では、1)ドレーン刺入部の疼痛、2)ドレーン固定による疼痛、3)体動制限による疼痛などが生じます。
疼痛が緩和できないと、呼吸が十分にできないことや、排痰や体動が困難になるなどの弊害が起こり、無気肺や肺炎といった二次的合併症を起こす可能性があります。また、疼痛が強い場合には、肺実質の損傷の可能性もあります。そのため、鎮痛薬を使用し、適切な疼痛コントロールが必要です。
memo:胸腔ドレーン刺入部に生じる疼痛の要因
●太いトロッカーカテーテルの挿入
●硬いチューブの留置
●刺入部付近に分布する肋間神経の損傷
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ドレーン抜去時のポイント
ドレーン抜去のタイミングは、ドレナージの目的が排気の場合と排液の場合とで異なります(表5)。
胸腔ドレーン抜去の際は、患者さんに深呼吸をして呼吸を止めてもらい、一気に抜去します。ドレーンの抜去時に、肺に空気が流入するのを防ぐためです。ドレーン抜去後の観察ポイントは表6のとおりです。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社