呼吸器の解剖
【大好評】看護roo!オンラインセミナー
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は呼吸器の解剖生理について解説します。
平澤真実
さいたま赤十字病院ICU看護主任
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
呼吸器の全体像
呼吸器は、空気の通り道である気道と、ガス交換の役割を担う肺胞で構成されています。ここでは酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する役割を担っています。
目次に戻る
気道の構造
気道は、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)と下気道(気管、気管支、細気管支)に分けられます(図1)。
口腔から終末細気管支の部分は、ガス交換には関与しない空気の通り道なので、この部分を解剖学的死腔と呼びます(図2)。
上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)の構造
上気道は空気の通り道としての役割をもち、鼻腔、咽頭、喉頭から構成されています(図3)。
鼻腔:空気の通り道です。咽頭に向かってゆるやかなカーブになっています。この解剖生理が吸引手技の際にとても重要になります。
咽頭:空気の通り道である以外にも、耳管咽頭口から中耳、耳介へとつながっています。
喉頭:空気の通り道としての役割以外にも、嚥下時に下気道と肺の保護をする役割と、発声の機能をもちます。
声帯の役割は図4のとおりです。
下気道(気管・気管支)の構造
気管は成人で約10cmの長さで2本の主気管支に分岐します(図5)。
気道内腔の形状を維持する気管軟骨は、気管支まで存在します。気管の内径は平滑筋によって調節されています。
細気管支以降は、軟骨の代わりに間質の弾性線維が形状を維持する役割を果たしています。
下気道は、感染防御機能のはたらきによって無菌状態です。外から異物が侵入しても粘液で包まれ、線毛運動によって食道や口外に排出されます(図6)。
気管支の内腔は線毛円柱上皮細胞と杯細胞によって構成されています。線毛円柱上皮細胞は線毛運動、杯細胞は粘液分泌のはたらきをします。
目次に戻る
肺胞の構造
肺胞はガス交換を行う、気道の末端になります。ここには豊富な血管が走行しています。
肺胞とは気管支が分岐した最終点にある小さな袋状の組織です(図7、図8)。肺胞上皮細胞と、間質という薄い壁の周りを、毛細血管が取り囲んでいます。
肺胞は約3億個あり、総表面積は70~130m2、直径は約0.1~0.2mm、壁は約1μmと非常に小さくて薄い構造をしています。
肺胞上皮の90%はⅠ型肺胞上皮細胞で覆われています。ここにある肺胞腔と毛細血管を介して拡散によってガス交換が行われています。
memo:Ⅰ型肺胞上皮細胞
血管内皮、基底膜ともに血液空気関門を形成してガス交換を行っている。
肺胞には、組織間液によって常に表面張力がはたらいています。それを界面活性物質であるサーファクタントが低下させ、肺胞がつぶれるのを防いでいます。
目次に戻る
肺の構造
肺は右が3つ(上・中・下葉)、左が2つ(上・下葉)の肺葉に分かれます(図9)。
肺葉は肺区域に分かれ、それぞれ支配気管支があります(図10、図11)。
図11 区域気管支(B)(segmental bronchus)
目次に戻る
胸郭の構造
胸郭は、胸骨・肋骨・胸椎からなる骨性胸郭と、外肋間筋・内肋間筋・最内肋間筋・横隔膜などの呼吸筋により構成されています(図12)。
胸郭に囲まれた空間のことを胸腔といいます。
肺は胸膜に覆われており、胸膜は臓側胸膜と壁側胸膜からなります。
memo:縦隔
縦隔胸膜に囲まれた部分。縦隔には心臓や大動脈、上下大静脈、肺動脈、肺静脈などの大血管、気管、食道、胸腺が存在する。
骨性胸郭
胸椎は12個の椎骨からなり、胸椎には肋骨が連結して胸郭を形成しています(図13)。
肋骨は左右に1~12本あります。肋骨の間を肋間とよびます。
memo:肋軟骨
肋骨は第1~10肋骨までが肋軟骨によって胸骨につながっている(第11、12肋骨はつながっていない)
呼吸筋
呼吸運動に重要なのが呼吸筋といわれる筋肉です(図14、図15)。大部分は吸気筋の横隔膜、外肋間筋が担いますが、その他にもたくさんの筋肉が関係していて、これらが伸展・収縮をすることで胸郭の体積が変化し、また胸腔内圧が変化することで呼吸が行われています(図16)。
memo:陰圧
外の空気より内部の空気圧のほうが低い状態
memo:陽圧
内部の空気圧が外部の圧力よりも高い状態
目次に戻る
血管系の構造
肺血管には血液のガス交換を担う肺動脈、肺静脈と、気管支組織に酸素供給を行う気管支動脈、気管支静脈があります(図17)。
肺動脈:右心室から肺に向かい、気管支の分岐に添って肺胞の毛細血管まで伸びています。二酸化炭素が多く含まれている静脈血が流れます。肺胞での静脈血の大半は肺動脈へ流れます。
肺静脈:肺から小葉間結合組織を通り、区域間を走行して左心房に到達します。ガス交換を終えて酸素を多く含む動脈血が流れます。
気管支動脈:大動脈から出て気管支に並行して肺胞まで到達し、肺胞を栄養します。
気管支静脈:細気管支の静脈血を上大静脈に還流し、右気管支静脈は奇静脈、左気管支静脈は副半奇静脈に注がれます。
肺動脈が静脈血を、肺静脈が動脈血を運びます。これは心臓から出る血管を動脈、心臓へ向かう血管を静脈と呼んでいるからです。ここは少しややこしいので、解剖生理とともに覚えましょう。
右肺は左肺より大きいため、右肺動脈は左肺動脈より太く長くなっています。
目次に戻る
呼吸運動の調整
呼吸運動の調整は、脳の延髄にある呼吸中枢が担っています。呼吸中枢は体のさまざまな部位にある受容体からの情報を受けて、呼吸の調節を行っています。
呼吸の調節は化学的調節、神経性調節、行動性調節に分けることができ、それぞれ刺激となる情報によって呼吸が調節されます(表1)。
memo:不随意に調節されるものの例
普段の呼吸運動、100m走後は呼吸が荒くなる
memo:随意的に調整できるものの例
しゃべる、歌う、咳
体内の血液ガスの変化を感知する器官に中枢化学受容野と末梢化学受容体があります(図18)。
目次に戻る
リンパ系の構造
胸部には右リンパ本幹や左気管支縦隔リンパ本幹、胸管という主要リンパ管があり、静脈角で静脈と合流します(図19)。
リンパ管の合流点には、リンパ節があります。
肺内のリンパは末梢から肺門に向かって流れており、肺内の余分な組織間液を吸収して、ガス交換の効率を上げる役割を担っています。
悪性腫瘍のリンパ節転移
悪性腫瘍のリンパ節転移では、腫瘍細胞がリンパ管を通り、転移巣を形成します。
悪性腫瘍で浸潤しやすいのは、縦隔リンパ節や肺門リンパ節、鎖骨上窩リンパ節などです。小細胞がんは早期からリンパ節転移をきたします。
目次に戻る
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社