《災害医療の基礎知識》災害医療とは

『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は災害医療について解説します。

 

 

 

濱谷寿子
さいたま赤十字病院看護副部長
認定看護管理者

 

 

災害医療とは

災害医療とは、災害によって、対応する側の医療供給能力を上回るほど多数の医療対象者が発生した際に行われる、災害時の急性期・初期医療のことを指します。

 

災害医療の目的は、防ぎえた災害死(preventable disaster death)をなくすことです。

 

通常の救急医療では、多くのスタッフや医療機器・薬剤などの医療資源を投入することが可能ですが、災害医療では、医療の需要と供給のバランスが圧倒的に崩れることとなります(図1)。そのため、災害医療の原則や方法論に則り、柔軟に対処することが必要となります。

 

図1 傷病者と医療資源のバランス

傷病者と医療資源のバランス

 

 

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国の防災基本計画とBCP

わが国では、災害対応の責任は行政の長が担うことになっており、災害対策本部の長は、災害の規模が大きくなるに従い、市町村長、都道府県知事、内閣総理大臣へと移行します。

 

防災基本計画とは、災害対策基本法に基づき、中央防災会議が作成する基本指針を示すもので、防災分野の最上位計画です。この計画に基づき、指定行政機関および指定公共機関は「防災業務計画」を、地方公共団体は、その地域の実情に即した「地域防災計画」を作成しています(図2)。

 

図2 防災基本計画に基づいた協働

防災基本計画に基づいた協働

 

BCPとは事業継続計画のことで、災害や危機が訪れた際に、損害を最少にとどめ、できるだけ早期に事業の復旧と継続を図るための計画です。

 

memo:BCP

business continuity planning。災害対応マニュアルでは約3~7日間の活動を想定しているが、BCPでは医療事業の継続という観点から、発災直後から数か月の中長期にかけて計画する。企業だけでなく、病院もBCPの策定が求められている。

memo:スフィア・プロジェクト

1997年にNGOと赤十字・赤新月社連盟の運動により、人道憲章と援助の主要分野全般に関する最低基準―スフィア・ハンドブックが作成された。災害や紛争における被災者の権利と生活を守るための行動規範や給水、衛生促進、食料安全保障、避難所や避難先の居住地、保健医療の各分野の最低基準を定め、人道援助の質と効果、説明責任を高めることを目的としたプロジェクトである。内閣府では、避難所運営にあたり、スフィアを参考とすべき国際基準として示している。

 

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災害時の医療チーム

災害発生時には、日本赤十字社が常備編成する救護班や、日本医師会が組織するJMAT(Japan Medical Association Team)、1995年の阪神・淡路大震災を契機として発足したDMAT(Disaster Medical Assistance Team、災害医療派遣チーム)、都道府県などが組織するDPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team、精神医療支援チーム)、DMORT(Disaster Mortuary Operational Response Team、遺族支援チーム)など、多くのチームが協力して、災害支援活動に従事します(図3)。

 

図3 医療救護チーム

医療救護チーム

東日本大震災で、救助ヘリで救出された被災者を待つ医療救護チーム(DMAT・日赤救護班)

 

都道府県や市町村、医療機関などの災害対策本部で活動調整を行う、災害医療コーディネーターチームや、小児周産期リエゾンと呼ばれるメンバーも活動にあたります。

 

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病院での災害対応体制と情報システム

災害発生時、すべての病院には、職員や患者さんの生命と健康を守るため、災害業務モードに切り変えて機能維持を図ることが必要となります。そのつど、対応方針や達成目標(ゴール)に向かって活動します。

 

被災により建物の倒壊の危険性がある場合や、機能維持が困難な場合には、病院から避難することもあり得ます。EMIS入力、都道府県災害対策本部、DMATなどとの連絡により、搬送調整、搬出トリアージや患者情報の伝達などが行われます。

 

memo:EMIS

広域災害救急医療情報システム(Emergency Medical Information System)。災害時の医療情報をインターネット上で情報集約・情報交換し、被災地支援時に役立てられるようにしたツール。国、地方公共団体および医療機関は、災害時に医療施設の診療状況などの情報をEMISなどにより把握し、応援の派遣等を行う。病院においては安否確認の意味があり、発災後すみやかにEMIS緊急時入力を行い、要支援か否かを発信することが大切である。

 

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災害看護の特徴と心得

災害看護とは、「国の内外において災害により被災した多数の人々の生命、健康生活の被害を最小限にとどめるために、災害に関する看護独自の知識や技術を適用し、他の専門分野の人々と協働して、災害サイクルすべてに関わる看護活動を展開すること」3)です。

 

災害看護は、被災現場や応急救護所、病院や各施設、避難所や在宅避難者への支援など、いろいろな場で展開されます(図4)。また、医療チームの一員として、災害対策本部での活動もあります。

 

図4 応急救護所における災害救護活動の訓練

応急救護所における災害救護活動の訓練

埼玉県内の赤十字病院と日本赤十字埼玉県支部が合同で行った救護訓練の様子

 

人命救助や健康管理には迅速な行動と柔軟な判断が大切です。災害種やハザード(危険の原因、潜在的危険)を考慮し、「すべては被災者のために」をモットーに、災害医療に携わる多職種と良好なチームワークを保ちつつ、地域医療を守るための活動を行います。

 

病院内では、各自が初動時の行動をとれるよう災害対応マニュアルを読み、アクションカードの確認とともに院内防災訓練や災害シミュレーションに参加して、リアルなイメージをもつことが有効です。

 

災害時には、二次災害や感染症のリスク、限られた医療資源や不自由な環境下での活動など、ストレスがかかり、心身の不調が生じやすくなります。自身やチームメンバーの健康管理にも留意しましょう。

 

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病院における災害時の看護活動

自然災害時の被災地病院における対応として、1)外来・入院患者さんへのケアと、2)被災地域における救護活動時のケアに留意します。

 

地震などの発災直後は、「3 safety」として、自身の安全(self)場の安全(scene)患者さんの安全(survivors)を確保します。責任者は火災を含め被災状況を確認し、災害対策本部への報告と初動対応計画に則り対処します。

 

患者さんや付き添い者がパニックに陥らないよう、安心できる言葉かけを行います。

 

交通機関や通信状況に支障がある場合は、外来患者さんの待機場所の確保と連絡対応担当者が必要です。外来・入院患者さんの被災により新たな傷病者が発生した際は、迅速な医療提供を行います。

 

災害対策本部への被災状況報告により、病院内の安全が確認されたら、CSCATTTに則り、職員の招集、傷病者受け入れの新設エリア立ち上げ、増床計画の実行、医療チーム派遣などを全職員が協力して進めていきます(表1)。初動対応体制からBCPに基づき、診療機能維持を図ります。

 

表1 災害医療対応の原則(CSCATTT)

災害医療対応の原則(CSCATTT)

 

memo:CSCATTT

災害医療の原則CSCATTTは、どのような災害でも共通する対応項目として示されている。

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社

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