血管性認知症(VaD)
『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』より転載。
今回は血管性認知症(VaD)の検査・治療・看護について解説します。
木戸佐知恵
東海大学医学部付属八王子病院看護部副主任
認知症看護認定看護師
小川和之
東海大学医学部付属八王子病院看護部主任
認知症看護認定看護師
血管性認知症(VaD)とは?
血管性認知症(VaD;vascular dementia)は、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血などの脳血管障害によって引き起こされます(図1)。
脳血管障害が起こる原因は動脈硬化です。動脈硬化の危険因子は、高血圧、糖尿病、心疾患、脂質異常症、喫煙などであるため、血管性認知症は生活習慣によって引き起こされるといえます。
女性よりも男性のほうが多く発症しているといわれています。
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患者さんはどんな状態?
障害される脳の部位によって症状が多岐にわたることが特徴です。さまざまな失語症状を呈したり、頭頂葉障害では空間失認をはじめとする症状が出現したり、前頭葉の障害では抑うつや意欲低下を顕著に認めます(図2)。
memo:空間失認
空間における物の位置や、物と物との位置関係がわからなくなる。視空間失認ともいう。
脳血流の循環不全を伴うことから、症状は突然悪化したり、日内や日間で変動したりすることが特徴的です。
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どんな検査をして診断する?
頭部画像検査(CT、MRI、脳血流SPECTなど)で脳梗塞や脳出血などを評価します。脳血管障害が認知症の原因と判断される場合、血管性認知症と診断されます。
脳につながる頸動脈エコー(超音波検査)を行い、動脈硬化を評価します。
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どんな治療を行う?
認知症の背景となる脳血管障害を再発させないことが一番の予防策といえます。
脳血管障害の原因は、高血圧や脂質異常症、糖尿病、運動不足や過食、ストレスなどであることから、生活習慣の是正が重要となります。生活習慣を見直すために早期より介入し、適切な指導を行う必要があります(図3)。
薬物療法
脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などを内服によって適切にコントロールします。
脳梗塞再発予防のために、抗血小板薬などを使用することもあります。
意欲・自発性の低下、興奮といった症状に対しては脳循環代謝改善薬が有効な場合もあります。
血管性認知症に多い抑うつに対して、抗うつ薬が使用されることもあります。
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看護師は何に注意する?
脳血管障害の再発予防
症状は脳血管障害の発作のたびに進行するため、再発の予防が必要です(図4)。動脈硬化の危険因子に対する管理を早期に行い、生活習慣を見直すことが進行の抑制につながります。
怠薬しないための服薬指導もしっかりと行う必要があります。
症状への対応
初期段階の場合、自分が認知症であることを認識している人が多いとされています。周囲の人から、「これくらいできないの?」「どうしてわからないの?」などといわれても、本人はどうすることもできません。認知症でできないことが増えていくことを自覚するのは、本人にとっては大変つらい状況です。そのことに配慮し、つらい状況を受け止める言動を心がけましょう。
無関心、自発性・活動性の低下などの症状も出現し、廃用症候群をまねきやすくなります。生活の乱れが生じやすいため、適度な活動ができるようなかかわりも必要となります。
血管性認知症の人は、1日のうちでも調子がよいときと悪いときの波があります。そのことを理解して、その人の自立度に合わせて援助を行うようにしましょう。
感情失禁を認める場合、落ち着いていても急に悪化することがあります。その多くは本人にとっては理由があると考えて、感情の変化を観察していきます。
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社