乳がん患者の患側での血圧測定・採血、10年以上経過後も避ける?
『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
乳がん患者の患側での血圧測定・採血について解説します。
清水葉子
千葉県済生会習志野病院看護部
腋窩リンパ節郭清を受けている場合は、やはり「血圧測定時の圧迫によるリンパ浮腫」や「採血針による傷からの感染リスク」は残ります。
術後の経過年数にかかわらず、避けることが望ましいでしょう。
〈目次〉
“腋窩リンパ節郭清”を受けたかどうか
乳がん手術後のリンパ浮腫や感染を考えるうえで、“腋窩リンパ節郭清”を受けたかどうかがキーポイントといえます。郭清とは“すべて取る”ことなので、腋窩リンパ節郭清とは“腋の下のリンパ節をすべて取り除く”ことを意味します。
腋窩リンパ節は、リンパ節が分布している範囲により、小胸筋を中心として、外側を「レベルⅠ」、裏側を「レベルⅡ」、内側を「レベルⅢ」と分類します(図1)
患側での血圧測定:リンパ浮腫の発症・増悪につながる
腋窩リンパ節の郭清範囲が広いほど、乳がん術後におけるリンパ浮腫の発症リスクは高くなります。また、いずれの郭清レベルの場合においても、リンパ節を郭清した際には、同時に周囲のリンパ管も切断されてしまいます。
よって、リンパ節郭清後はリンパ管の輸送機能が障害されてリンパ液の流れが停滞し、タンパク成分を多く含む組織間液が皮下組織に過剰に溜まり、むくみが生じやすくなります。
さらに、毛細リンパ管は表皮の直下にあるため、外部からの影響を受けやすいです。そのため、血圧測定時のマンシェットによる患側の圧迫は、毛細リンパ管を壊してしまう恐れがあります(図2)。
リンパ管の切断に加え、毛細リンパ管を損傷することは、皮下組織の組織間液がさらに吸収されなくなり、リンパ浮腫の発症・増悪の要因となることがあります。
患側での採血・注射:免疫機能低下から感染リスクにつながる
また、リンパ節の主な役割の1つに“免疫機能”があります。
リンパ節は、リンパ小節とリンパ洞で構成されています。リンパ小節は、免疫抗体の生産に必要な細胞のリンパ球が集まり、ここで分裂して増殖されます。リンパ洞は、組織細胞からなり、抗体生産と、細菌や老廃物などを濾過して全身に循環するのを防ぐフィルターのような機能をもっています。
しかし腋窩リンパ節郭清の影響によって、これらリンパ節の機能は低下してしまいます。この免疫機能が低下した状態での患側からの採血や注射は、針でできたわずかな傷からでも細菌が侵入してしまい、それが原因で感染を引き起こすこともあります。
患側は引き続きいたわる必要がある
残念ながら、手術で郭清されたリンパ節は、元通りに再生することはありません。
リンパ浮腫や感染の発症をできるだけ回避するためにも、腋窩リンパ節郭清後はずっと患側を愛護的にいたわることを心がけましょう。
また、センチネルリンパ節生検*の場合も、いくつかのリンパ節を取り出していることから、リンパ浮腫や感染の発症リスクがまったくないとはいえません。そのため、センチネルリンパ節郭清後も同様に適切なケアが必要です1。
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P.62~64「乳がん患者の患側での血圧測定・採血、10年以上経過後も避ける?」
[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社