きざみ食はなぜ嚥下リハビリテーションに向かない?
『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
嚥下リハビリテーションについて解説します。
浅田美江
愛知県看護協会教育研修課長(摂食・嚥下障害看護認定看護師教育課程主任教員)
きざみ食はなぜ嚥下リハビリテーションに向かない?
きざみ食は“まとまりが悪く”“食塊形成が難しい”ことから、かえって誤嚥などの誘因になることが指摘されています。
〈目次〉
“嚥下食に対応”とする病院の約6割が“きざみ食”を提供
日本療養病床協会栄養・摂食管理委員会が行った717病院を対象とした実態調査1では、摂食嚥下障害に対応した食事を提供していると回答した施設の割合は6割を上回ると報告されています。そのうち6割近くの病院では、軽度の摂食嚥下障害患者に対する第1選択として、「きざみ食」や「超きざみ食」を提供していたということです。
しかし、きざみ食は、摂食嚥下障害患者にとって本当に安全な食形態といえるのでしょうか?
きざみ食は「まとまりが悪く食塊形成が困難」「状態に差がある」
きざみ食は、常食や軟食の副菜をきざむことにより、咀しゃくが不十分でも飲み込める形態に調整した食事の総称です。
ここできざみ食は“咀しゃく機能を補う”ためには有効ですが、まとまりが悪いために食塊形成が難しく、誤嚥等の誘因となる危険性が指摘されています2。また、「きざみ食」という同一名称を使っていても、それぞれの施設により食形態の物性特徴、すなわち硬さ・大きさ・粘度等に隔たりがあることが問題視されています3。
これに対し、嚥下しやすい食形態としては、食塊の密度が均一で凝集性が高く、付着性が低く、変形性が大きいものが有利とされています4。厚生労働省は、特別用途食品の一種として、「嚥下困難者用食品」の許可基準を示しています(表1)5。この基準から見ても、きざみ食が嚥下しやすい食形態とは言い難いのです。
“きざみ”だけでなく“とろみ”を加えてまとめることが必要
高橋ら6は、きざみ食に見立てた4mm大のゲル試料(小麦でん粉と寒天を固形化したもの)に、山芋粉を用いてまとまりをもたせたゾル試料(サラダオイル状、プレーンヨーグルト状、マヨネーズ状に調整)を加えた「ゲル-ゾル混合食物」について、若年正常者を対象に官能評価と嚥下造影(videofluoroscopic examination of swallowing、VF)による飲み込みやすさの比較をしています。
その結果、官能評価では、粘性が低く流動性の高いサラダオイル状のものに比べ、他の2種類のゲル-ゾル混合食物は口中で感じるまとまりやすさ、飲み込みやすさが有意に良好であったことが示されています。さらにVFでは、ゾルの粘性が高くなるにつれて、中咽頭から下咽頭までの移動速度と嚥下反射惹起のタイミングが遅くなる傾向にあったこと、咽頭残留が起こりにくかったことを報告しています。
すなわち、嚥下反射惹起遅延や咽頭残留をきたしやすい嚥下障害患者にとっては、きざみ食よりも、きざみ食にとろみをつけてまとまりをもたせた形態のほうが食べやすいということです。
高齢者が急増する現在、病院・施設で提供される食事形態の質向上と施設間での格差是正が求められています。少しでも安全な食事を提供するために、嚥下食提供体制の整備が重要です。
[文献]
- 1)星野和子:栄養管理実施加算及び摂食・嚥下障害対策等に関する実態調査結果報告.日本療養病床協会 栄養・摂食管理委員会,2007.http://jamcf.jp/enquete/enquete071022nutrition.pdf (2017.1.20アクセス)
- 2)大越ひろ:経口摂取困難な患者への安全な食品の物性.日本病院会雑誌 2000;47(6):99-108.
- 3)小城明子,竹内由里,柳沢幸江:給食施設における摂食機能の低下を考慮した食種の標準化を目的とした食形態および適応の現状分析.日摂食嚥下リハ会誌 2011;15(1):14-23.
- 4)才藤栄一,向井美惠 監修:摂食・嚥下リハビリテーション 第2版.医歯薬出版,東京,2007;13-27.
- 5)厚生労働省ホームページ:特別用途食品の表示許可等について.
http:www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/dl/28.pdf (2017.1.20アクセス) - 6)高橋智子,二藤隆春,小野江茉莉,他:とろろを用いたゲル-ゾル混合系食物の物性,食べやすさ,および咽頭相における嚥下動態.日摂食嚥下リハ会誌 2010;14(3):201-211.
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P.19~20「きざみ食はなぜ嚥下リハビリテーションに向かない?」
[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社