ボディメカニクスを重視するのはなぜ?|看護師のボディメカニクス

 

『看護技術のなぜ?ガイドブック』より転載。

 

今回は看護師のボディメカニクスに関するQ&Aです。

 

大川美千代
群馬県立県民健康科学大学看護学部准教授

 

ボディメカニクスを重視するのはなぜ?

看護師は、自身の腰を守るために、さらには患者の負担を軽くするために、体位変換や移動・移送の援助の際にボディメカニクスを重視して行う必要があります。

 

体位変換や移動動作は頻繁に行う作業であり、患者を起こしたり持ち上げたりする時に力を必要とするだけに、不用意な姿勢で行うと看護師自身の腰を痛める原因になります。また、患者にとっても、負担がかからないように配慮する必要もあります。

 

ボディメカニクスとは人間工学で用いられる言葉で、骨格、筋、内臓などの形態や筋力などの特性に基づき、体の各系統間の力学的な相互作用から起こる姿勢や動作を表します。身体的な特性を生かしたボディメカニクスに基づいて体を動かすと、体に負担をかけずに小さな力で最大の効果が上がり、様々な動作を円滑に行うことができます。

 

体位変換に関して、看護師にとってのボディメカニクスの主な原理は次の通りです。

 

1足幅を広くして、支持基底面(きていめん)を広くする

立位の場合、肩幅に足を広げるようにして立つと、支持基底面(体を支持する面積)が広くなり、作業をする時の安定性が増します。また、片足をやや前に出すと支持基底面がさらに広がり、次の一歩が踏み出しやすくなります。

 

2重心を低くする

背中をまっすぐに保持し、膝を曲げた姿勢を取ると、自然に重心が低くなり、安定性が増して腰への負担が軽くなります。

 

3重心を支持基底面のなかに置く

上半身だけでかがみこむと、重心が支持基底面から外れ、患者を持ち上げる動作の時に腰を痛めやすくなります。常に重心が支持基底面のなかにあるように意識します。

 

4段階を追った動きをする

例えば、患者をベッド上に起き上がらせる場合なら、まず患者を自分に近い位置に引き寄せ、次に患者の体を起こすという具合に、段階を踏んで行います。一度に行おうとすると患者側に前傾せざるを得なくなり、看護師にとってのよいボディメカニクスにはなりません。

 

5患者の重心をできるだけ自分の重心に近づける

患者の重心を自分の重心に近づけることで、安定した動作ができるようになります。立位では、頭の重心と体幹の重心が一直線上にあり、下肢にまっすぐにつながるように重心線が通っている姿勢が最も安定します。

 

6てこや回転の原理を活用する

看護師の膝や肘をてこの支点として利用することで、効率のよい作業を行うことができます。仰臥位から側臥位にするような場合は、患者の回転する力を利用します。

 

支持基底面

体を支持する面積のことを支持基底面といいます。足を開き、背中をまっすぐに伸ばして膝を曲げ、支持基底面のなかに重心を置くようなつもりで立ちます。

 

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護技術のなぜ?ガイドブック』 (監修)大川美千代/2016年3月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護ケアトップへ